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    seki_shinya2ji

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    黄色のピアスを贈る予定の耳角名

    【耳角名】こじつけるンには丁度ええと思うんやけど 雨はやはり気分が落ち込むものだ。春は暖かくなるものだと思っていたが、今日は肌寒い朝である。久しぶりに関西に来たというのにこれでは出かける予定も全て変更である。
    「おはようさん」
     紺色の上布団は彼の匂いが染みついている。少しタバコの匂いが感じられるが、部屋に灰皿はない。しかし昨夜の酒のペースから見てビール缶を灰皿にしている可能性はある。そして今しがた角名はテーブルの上に水色の一〇〇円ライターを見つけた。角名がタバコを吸うことはない。代わりに酒はある程度飲むが次の日のコンディションを考えた酒の飲み方をしてしまうので、程よく飲めたらセーブするのが癖になっていた。
     彼の仕事はシフト制で、今日は非番らしい。空港での仕事をするようになると早朝から深夜まで仕事をすることと同等らしい。所謂三勤制度というものらしいが、午前中広報部・午後練習の角名には無縁の話だ。
    「おはよう、ございます」
     声が枯れていた。それもそうだ。声がガスガスになるまで鳴かされてしまった。角名も「明日明後日は有給だ」と言って加減を忘れてしまった。マメに応援に来てくれる先輩も、地方のホテルの部屋には来れないし自分の部屋は社員寮だ。何かと遠距離ならではで趣向を凝らしたこともあったし無理やり時間を作って会っていたが、こうして次の日を考えずにリミッターを外すのは随分ご無沙汰であった。
    「声やばいな」
    「」
     手を差し出されたら自らの手を絡めてしまう。昨晩もそうであったが、ほとんど反射である。しかし、その絡めた手をしっかり対応されて起き上がれない体を引き上げてもらって反動を受け止めて抱きしめられると、さすが日々外国人の応対をしているだけある、と謎に納得してしまう。どこで学んでるの! と怒る気にもならない。
    「トーストできとる」
    「あ、あざす」
    「コーヒーでええか」
    「……コーヒー牛乳がいいです」
    「はい」
     もうすでに乳白色が混じったコーヒーの匂いがするマグカップが差し出された。こんなことをできてしまう男のどこを怒ったら良いのか。角名は倒れそうになった。
     いつの間にか、角名が泊まるために常備されているマグカップは大耳のそれと全く同じ色だ。特に何も考えずに「一緒でええんやないか」と言ったのが印象に残っている。意外と粗雑な男である。しかしその緩さが角名にとっては心地良かったりする。
     トースターは厚切りだ。丁寧に切れ目まで入れられてバターが染み込んでいる。ほんのり香るバターと小麦の香りは運動して空いた腹を刺激する。添えられたサラダは昨晩寄ったコンビニで購入しているのを見ていた。普段朝は食べないらしい。
    「寒ないか」
    「らいじょううれす」
    「ん」
     薄手のスウェット一枚の角名。大耳の私物だ。角名のはぐしゃぐしゃになってベッドの下に落ちている。起き上がって食卓に行くまでに踏みつけてしまった。大耳が心配するのも分かるが、この姿を見て欲情しないとなると、昨晩の人間と同人物なのか少し不安になる。
     言葉は少ないのは昨晩のことがあったから。結局のところ、こういう会話にならない会話が一番手っ取り早い。会いたかったと伝える暇があれば口を塞げばいいし、愛していると伝えたければ突っ込んで突っ込まれる方が確固たる証拠になる。互いに女を呼べばいいのに忙しいやら何や違うねんな、と言って呼ばない。結局角名は面倒な処理をして、大耳は面倒な配慮をして、それでも会いたいし愛し愛されたいのだから、よっぽどである。
    「厚切りトーストなんて久しぶりに食いました」
    「分かるわ。今日は倫太郎来るんに雨降る言うから、せめて家での時間が有意義にしたい思て買うてん」
     正解やった、と平然と言いのけるのだからもう駄目である。これもまた意外と大きな口をしているのがまたギャップというもの。角名に関して言うと、日本代表合宿で侑と一緒になると「角名っていっつも口小さいよな。それで食っていけるんか? 効率悪いで」と言われてしまう。ボケ老人か、と思うくらい何度も。どうして治と比較されるのか、これがまるで分らない。その点目の前で澄まして食パンに食らいつく男は何も言わない。自分の食べ方も特に顧みず自然体で食べている。角名も特に配慮することもなく食べられるので気が楽だ。
    「ずっとこれがいい」
     思わず呟いたその一言を最後に角名の脳みそはフリーズした。
     代わりに働きだした大耳の脳みそだが、唐突に過ぎり出す様々な部屋の間取りと、来年長野の空港に異動できるものなのか、いやそもそも管轄が違うではないか、というセルフツッコミ。そして今の貯金額と最近手を出してしまったタバコをどうにかこうにかして辞めて貯金をすることと、指輪はできないから代替になるようなアクセサリーのリストが駆け巡った。ピアスはだめだ。短髪の角名では目立つし、繊細なアスリートはピアスを開けたことで体幹バランスが乱れてしまうのが気になる、という記述も見たことがある。しかしピアス。悪くはない。
    「角名は何色が好き?」
     突いて出てきた質問はあまりにも間抜けだった。
     
     
     
     #【菜種梅雨】
     菜の花が咲く三月下旬から四月にかけて降り続く雨。
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    seki_shinya2ji

    DONE北組ネタ
    今日は特別暑かったから飯テロになれば……
    因みに今日は白ジャコの酢漬けでした。旨で馬でした。
    【北組】素麺と鯵の南蛮漬け思った以上に夏は、夜になっても寝苦しいくらい暑い。日中雨が降っても湿気の多い日本の夏は夜まで暑く感じる。西日がよく差し込む台所に居たのは治だ。
    治は料理が好きだ。料理人のように料理ができる訳ではないが、北組の中では台所の責任者である。衛生法を気にすることなく、好きな料理が出来るのは自由で楽しいのだ。いうなれば自由業の人間が極める自由が、料理なのだ。
    毎日料理をしている訳では無くても、この時間は直接的に北にも侑にも関われる時間だ。自分が好きな人は侑、そしてその侑は北が好き。好きという高校生同士の恋愛のようなモノではなく、魔獣を飼い殺しているような気持ちだ。治としては出来損ないの哀玩具が感情を持ってしまって魔獣になっているだけ、と理解している。そのため防波堤として料理があるのだと思っている。料理にはたくさん手順があり、没頭しやすい。アレをあ~してこ~して、とアレコレ考えている間に時間は過ぎてモノは完成する。そして完成したモノでみんなハッピー。怠惰を極めた料理で満足感を覚えるくらい、自分は駄目な人間になってしまったんだ、と諦めるのだ。
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