ペットボトルのキャップが開けられ、シンの口に柑橘系の香りが注がれていく。
「おいしい〜」
「毎日飲んでいてよく飽きないな」
隣に座っているアブトが、若干呆れながら話しかけてきた。
「だってーこれ美味しいし・・・・・・」
「お前の好きな妖怪がCMやっているからだろ」
シンの言葉に被せてそう言ってやれば、瞳をキラキラ輝かせて興奮して喋りだした。
「キャンペーンシール集めれば、妖怪グッズ貰えるんだ」
「へー」
「なんだよ、その気のない返事は!」
「俺には関係ない」
アブトは手元にあるタブレットに目線を移した。その飲み物も妖怪も特に興味はないし、自分以外に夢中になるものを楽しく話をするシンをなんとなく見たくなかった。
「シールがなかなか集まらないから、アブトも協力してよ~」
「別に飲みたくない」
「ひと口飲んでみてよ」
アブトの目の前には、先程シンが口を付けたペットボトルがあった。
「いや、俺は別に」
「いいから、いいから」
アブトはシンから受け取ったペットボトルの口を黙って見つめ、自分の唇を近づけようとしたが、あと数mmのところで止めた。
「やっぱりこっちがいいな」
アブトの唇はペットボトルではなくシンの唇に重なる。
「アブトッ!」
「甘いな」
アブトは自分の唇を舌で舐めながら、その味を堪能した。
「ごちそうさま」
「・・・・・・お粗末様でした」
「でも、まだ足りないな」
アブトはシンにこっそり耳打ちをした。
「お代わりしてもいいか?」
シンは何も答えない。返事の代わりに、ほんの少し口を開けて目を瞑った。