全員、セイバー「まーたー、おーちてーるー!!」
もはや、恒例?レイシフト時の座標設定ミス。
視界に広がるのは空高い星々…ではなく、地上での営みによる灯りたち。
なるほど、あの方角に街があるわけだな、と頭の隅っこは何処か冷静であった。
しかし、この落下していく感覚は何度やっても慣れるものではなくて、立香は通信機に向けて声を放った。
「ダ・ヴィンチちゃーん!」
『ごめんよー!サーヴァントらもきちんと送り込めてはいるから、まずは、着地、頑張ってみよう!』
少女の機械越しに声に、そりゃそうだよな、と何処か視線が遠のく。
とにかく、今は地面に叩きつけられる前に、何とかするしかない。
……が、立香は「あれ?」と顔を引き攣らせた。
「今日、誰連れてきたっけ?」
咄嗟の落下によるショックのせいか、同行する筈だったサーヴァントらの名前がすぐに出てこない。
確か、セイバークラスを沢山連れて行こう、なんて話して「面白そうじゃん」と誰かが笑ったことまでは覚えている。
確か、顔ぶれは……、と思い出そうとするも頭が上手く働いてくれない。
いやいやいや、これはマズイ。
急いで、呼ばなければ、自分はぺっしゃんこだぞ。
強い風に叩きつけられるかの勢いは、落下によるものだ。
いつまでも浴びていたら身体が冷えるとかでは済まない。
立香は拳を握り締め、今はすぐに思い浮かぶ単語を叫ぶ。
誰かが近くにいれば、クラス名でもすぐに反応してくれる筈だ。
「セイバーっ‼︎」
そう、今日はセイバークラスを沢山連れて行こうという話をしていた。
だから、パーティには確実にいる筈。
自分で空を飛べる術もない以上、誰でもいいから助けてもらう他ない。
突如、背後で風の音に負けぬ金属音。
なんだ、と立香が視線を送り込めばそこには、立香と同じように落下している人物が2人。
互いの剣を押し合っているアストルフォと、ローランの姿である。
「へぇ、アストルフォ。それがセイバーでの姿ってやつか?」
「そうだぞ、すごいだろ!うさぎだぞ!ついでにいうと、ちょっと理知的だぞ‼︎」
ローランからの問いかけに嬉々として答えるアストルフォも、しかし、剣を収める気配なく、何故か鍔迫り合い。
「あ、あの、助け…」
「そんなこんなですんごいセイバーだから、マスターを助けるのはボクなのだ!」
「は?マスターが呼んだのは『セイバー』だろうが。それならオレも該当するだろ。あと脱いだらオレの方がすごい!」
助けを求めるよりも先に、なにやら初めてしまってしまったので、立香は風の音で聞こえないかもと思いながら、とりあえず「脱がないでね」とだけ念押しておく。
最後の光景が地面ではなく、仲間の裸体はちょっと遠慮しておきたい。
「ボクー!」
「オレー!」
空中で剣撃しもって、どちらがマスターを助けるのかの問答を初めてしまって、なかなか収まらない。
なお、その間も落下し続けているので、立香はそろそろ令呪でも使うべきだろうかと悩む。
と、立香の落下感覚が急に緩やかになった気がする。
お、と目を丸くしたのも束の間。
視線を上にへと持っていけば、アストルフォとローランはまだ剣を振り合っていた。
「おーい、お前らー」
そんな騎士2人の元へ、新たな声が加わる。
その声の主は早々に立香を抱え上げ、地面に叩きつけられることなく無事に着地を果たして見上げていた。
「「あ」」
アストルフォとローランは、既にマスターの少年が救助されたことと、お互いが少しばかり熱が入りすぎたことと、その光景を見上げてきているであろう人物……シャルルマーニュの満面の笑みに、それぞれの表情が引き攣った。
「降りたらゲンコツな!」
少年を抱え上げたままシャルルマーニュは拳を一つ構えて見せ、まだ落下中である2人に向かって笑っていた。