SOS『た す け て』
と口がパクパク動いた
それを見て最初に思ったことはなぜ、だった。
助けなければ、とは思った。
普段絶対に助けを求めないこいつがはっきりSOSを出したのだ。
でも動けなかった。
だって隣にいるのは零の実の息子だ。
『た す け て』
もう一度口が動いた。
サングラスと帽子で顔の半分が見えない。
でもそれでも分かるくらいその顔は恐怖に染まっていた。
その顔を見てもう理由はどうでも良くなった。
何があったかは分からない。
でもこいつは零にとって悪だ。
「悪いな。こいつと今から話があんだ。譲ってくれるか」
「すいません。俺も用があるんで。それにもう俺と親父話し始めてましたよね?大人ならそこわきまえてくれますよね?」
「大人には大人の事情があるんだよ。急を要するんだ」
「へぇ、でもすいません。俺も親父と大切な話あるんで」
な、親父と笑いかけるその顔を見てゾッとした。
本当に零の事を慈しむような表情をしていながら目はマグマの様にドロドロしているのに冷めきっていて、違和感と恐怖と気持ち悪さを同時に与えられた。
「ほら、親父もなんか言えよ」
「あ、…ひ、とや。悪い…また、今度」
「また今度?親父今度っていつ?」
「え、あ、いや、悪い…獄…」
「零…?」
「すいません天国さん。今親父体調悪いみたいなのでもう行きます。あ、あと親父への用は今後は俺を通してくださいね」
「おい待て!」
「しつこいな」
「ごめ、獄…ごめん、もう」
どう考えてもおかしい。おかしいと分かっているのにこの打開策が見つからない。
「じゃあ行きますね」
いつのまにか側に止まっていたタクシーに半ば投げ込む様に零を乗せてそのまま去ってしまった。
「なんなんだ、なんだんだよあれ」
なにも出来ず行かせてしまった。
零は助けを出していたのに。
「クッソ…どうすりゃ良かったんだよ…」
途切れ途切れでよく聞こえなかったがもう無理だ、零はそう言った