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    あばん

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    あばん

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    角弓バレンタインを書いた筈が、一角よりも苺花ちゃんの方が出番が多いお話になってしまいました。弓親と苺花ちゃんが仲良くチョコを作ります(それともうお1人と)

    ばれんたいんろりぽっぷ「さあさあ!苺花様、綾瀬川様、どうぞご自由にお使い下さい。何かお困りなようでしたら、私ちよに何なりとお申し付け下さい」
    「ちよさん、大丈夫だよ。あたしとチカさんでちゃんと作れるから」
    「ははは…どうかな…」

     ここは六番区朽木家邸宅の厨、四大貴族の厨はそこに家でも一軒建てられるのではないかと思う位の広さで正直落ち着かない。そんな広い厨で朽木家の侍女ちよの見守り(監視?)の下、まさか苺花とバレンタインチョコを作ることになるとは弓親は夢にも思っていなかった。

    *****
    「コラァ、苺花ァ!ちゃんと真面目にやりがれ馬鹿野郎!!」
    「ちゃんとやってるよ!」
    「いや、全然ダメだな…」

    ───バシーンッ!!───

    「いったーい!師匠、強く叩き過ぎ!」
    「ほら、言わんこっちゃねぇ…隙だらけじゃねぇかよ、いつもならこの位躱せるだろうが。今日はもう終いだ」

     一角の木刀が苺花の脳天で軽やかな音をあげる。一角の言う通り今日の苺花はどこか上の空で、普段は後ろに退いて躱したり受け流したりできている一撃が、見事に脳天に直撃していた(もちろん直撃させる時点で一角は加減していると思うが)。

    「えーっ!ヤダヤダ、師匠!もっとやるー」
    「ちっ、仕方ねぇなぁ…もう一回だけだぞ」
    「いやいや、待ってよ一角!ごめんね、苺花ちゃん…一角はこれから大事な集まりがあるんだよ」
    「えっ、そうなのか?」
    「また忘れてる!」

     二人の鍛錬を見守っていた弓親だったが、一角がこの後の予定を忘れていないか気が気でなかった。そして案の定忘れていた一角にいつものことながら呆れてしまい、脊髄反射のように溜め息をついてしまう。

    「隊長と一緒に緊急隊首会に呼ばれてたでしょ?早く隊長を迎えに行ってきなよ!」
    「ヤベェ、忘れてた!行ってくる!」

     慌てて斑目道場を飛び出して行く姿を見送る弓親。苺花の方を見ると相変わらず浮かない表情のままだった。

    「苺花ちゃん、今日はどうしたんだい?何か悩み事でも?」
    「今日ね、母様と約束してたことがあったんだけど急に仕事が入ってダメになったの」

    (あぁ、隊首会のことか…)

     いつも元気に笑顔を振り撒いてくれる苺花が寂しそうに語る姿を見ると、鍛錬中ずっと上の空だった様子にも合点がいく。弓親も一角と久しぶりの非番を二人でゆっくり過ごす筈だったので、苺花の気持ちは痛い程に分かる。

    「約束って?」
    「バレンタインデーだから、母様とチョコ作る約束してたの…あっ、そうだ!チカさん暇?師匠もいないから暇だよね?」
    「まぁ、暇と言えば暇だけど…」
    「じゃあさ、チカさん一緒に作ろ?どうしてもチョコ作りたいの!ねっ、良いでしょ?」

     ガラス玉のように大きな瞳を輝かせて嬉しそうに言われては弓親も断ることができない。

    「でも材料も作り方も全然分からないよ。どうやって作るつもり?」
    「それはね、大丈夫!あたしについてきて」

     苺花に連れられてある場所へと向かうが、まさかあんな所に連れて行かれるとはこの時の弓親は知る由もなかった。

    *****
    「材料、必要な道具、そして作り方の映像は全て白哉様が現世より手配して下さっておりますので。何より、私ちよもおります」

    (この人いれば僕いらないんじゃ…てか朽木隊長はいつの間にこんなに沢山手配したんだ?)

     調理台には見慣れない調理器具からよく使う調理器具までズラリと並んでいる。正直こんなに使いこなせないし、何とか簡単に済ませることはできないだろうかと悩んでしまう。

    「苺花ちゃんはどんなのを作りたいんだい?」
    「あたしね、チョコのケーキが作りたい!ウエディングケーキみたいなの」
    「はぁ…ウエディングケーキ…ねぇ…」

     絶対無理だと思った。いくら映像を見ながらとはいえ、初めて作る二人が挑戦するには難し過ぎる。ちよに作ってもらうのなら話は別だが…

    「おっほん、苺花様…ケーキは難しゅうございますし、時間もかかってしまいます。何よりルキア様が帰って来られた時完成していないかもしれません」
    「えー、じゃあ無理だね…どうしよう」

     何か簡単に作れる物はないか伝令神機を起動して見てみると、弓親の身長よりも高いのではと思う位何段にも積み上げられたケーキの作り方や、ただチョコレートを溶かしてハートの型に移して固める簡単なものまで様々なチョコの作り方があった。

    「じゃあ苺花ちゃん、こんなのどうかな?」
    「さすが綾瀬川様、これなら初心者の方でも簡単に作れそうですね」
    「可愛いー、ロリポップみたい」
    「はて?ろりぽっぷとは?」
    「現世の飴でね、すっごーく可愛いの」

     いくつか眺めていると、鈴カステラに串を刺して飾り付けをする簡単そうだけど可愛く作れそうなものを見つけた。苺花にそれを見せると、自身の髪の色くらいに頬を紅潮させてガラス玉のような瞳をキラキラ輝かせて嬉しそうな顔をしている。

    「それでは、ろりぽっぷとやらに決まりですね。お二人とも…こちらとこちらをお使い下さい」

    (ちょっと…仕事早過ぎでしょ…)

     弓親と苺花が作り方を確認しているうちに、ちよがあっという間に材料や必要な道具のみを調理台に用意していた。その手際の良さを見て朽木家の侍女の有能さに思わず脱帽してしまう。

    「それとお二人とも、お袖が汚れないように襷を掛けましょう。綾瀬川様は下に着てらっしゃるお召し物もちゃんと捲って下さいませ」

     これもまた物凄い速さでちよが弓親と苺花の死覇装を襷掛けしてしまう。ちよに促されるまま、袖を捲るといつもは日に当たらないで隠されている二の腕が露になる。

    「じゃあ始めようか。苺花ちゃんは誰に作るんだい?」
    「あのね、父様と母様と白哉伯父様と師匠とチカさんと…それと…」

     話している苺花の顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。頬だけでなく耳まで真っ赤にしている苺花の顔色は、自身の髪の色以上に紅くなっていた。そしてわざわざ名前を聞かなくても、苺花の様子を見ただけでその相手が一勇だということが容易に分かってしまう。

    「ふふっ、じゃあ尚更頑張らないとね」
    「ありがとうチカさん!チカさんも師匠に作ってあげなよ」
    「えっ?僕はいいよ」
    「師匠カッケーからいっぱい貰っちゃうかもしんないよー。チカさん、ホンサイの意地ってヤツを見せなきゃダメだよ」

    (そんな言葉どこで覚えたんだ…)

     苺花の言葉に軽く動揺しつつ、湯を沸かしてチョコを溶かす準備をする。苺花が火傷しないよう、そしてチョコがこぼれないように器を押さえるのを手伝いながら苺花を見守る。チョコは普通のチョコとホワイトチョコとストロベリーチョコと色とりどりで、それらを二人で溶かしていく。少し離れた場所でちよが手を出したい気持ちを抑えているのか、手を震わせながら見守って(監視して?)くれている。

    「ところでさ、何で朽木邸で作ってるんだい?」
    「いつも父様と母様が仕事でいない時は白哉伯父様のお家で遊んでもらってるからだよ」
    「そうなんです。お二人がお仕事の時、苺花様はこちらで過ごされています。そして本日こちらに来られた苺花様が元気のないことに逸早く気付かれた白哉様が、ルキア様から事情を聞いて準備されたんです!」

     本当に苺花はみんなに愛されている子なんだと弓親はしみじみ思ってしまう。その気持ちは自身も一角も同様で、苺花が心身共に健やかに育つために色々と尽くしてあげたいと常々思っている。

    「チョコ、塗り終わったね。これで飾り付けすれば良いのかな?」
    「うん、お絵描きしよ」

     黒、白、ピンク色のチョコにチョコのペンで飾り付けをする。苺花が渦巻きを描いたり顔を描いたりしやすいように、ロリポップの串を回したり動かないように抑えたり、弓親自身も一緒に模様を入れたりして楽しんだ。

    「チカさん、見て!これ師匠みたいだよ」
    「ここに紅いの付けてみようか…うわぁソックリだね」
    「白いロリポップは全部師匠の顔にするー」
    「うっ、うん…良いけど一勇君と朽木隊長には別のをあげようね」

     苺花がホワイトチョコのロリポップに描いた顔は少し目つきが悪くて、一角のようだと言われると可笑しくなってしまう。一緒に悪ふざけして目尻に紅い食紅を塗ってみると苺花が大喜びしてくれた。

    「これで全部かな?うーん、これを上手に包まないといけないのか…難しいね」
    「チカさん、できる?」
    「苺花様、綾瀬川様、ここはちよにお手伝いさせて下さい。綾瀬川様、らっぴんぐは命ですから不安なのも分かります。ですから三人でやりましょう」

     ちよも参戦して三人でロリポップをラッピングしていく。ちよの指導の下、一つ一つに透明な袋を被せてリボンを結んで、いくつかを纏めて包むと、花束のようなロリポップチョコが完成する。

    「やったー、できたー!」
    「うん、美しいね」

     チョコの出来栄えに満面の笑みを浮かべる苺花を見て弓親も嬉しくなってしまう。

    「チカさん、これアタシからのバレンタインチョコね。ピンクのがチカさんで白いのが師匠だから間違えないでね。チカさんもちゃんと自分で作ったやつ渡さないとダメだからね」
    「はいはい、ありがとう…苺花ちゃん」

     苺花からもらった自分と一角のロリポップチョコと自分が一角に渡すロリポップチョコの、三つの花束を持って朽木邸を後にした。

    *****
    「弓親、今帰りか?」

     苺花からのチョコを渡したいのと、せめて夜くらいは一緒に過ごしたいと思い、一角の家へと向かう。道中で背後から心地良い声が聞こえ、振り返ると一角の姿があった。

    「一角…これは?」
    「バレンタインチョコだとよ」
    「随分いっぱいもらったんだね…」

     一角が、夜逃げでもして来たのかと思うくらいぎっしりと詰まった唐草模様の風呂敷を背負っている。中身を尋ねて、嫉妬と寂しさを感じた弓親は自身のチョコを一角に見つからないように背後に隠した。

    (苺花ちゃんの言う通りだ。こんなにもらってるなら僕のなんかいらないよね)

    「これ、苺花ちゃんから。一角の顔チョコだってさ、笑っちゃうよね」
    「あぁ…で、お前からはねぇのか?」
    「こんなにいっぱいもらっておいて、よく言うよね」
    「はぁ?全然ちげぇし!」

     皮肉たっぷりに返すと一角が不機嫌そうに背負っていた風呂敷包みを弓親に背負わせる。両肩にずん!と風呂敷包みの重さがのしかかって尻餅をつきそうになる。

    「俺がもらったのはルキアと松本だけだっつーの。松本の奴、お返しは三十倍とか言いやがるし…」
    「へっ?じゃあこの山のようなチョコは?」
    「弓親、お前のだよ…全く、誰だよ瀞霊廷通信で『美し過ぎる三席』なんて特集組んだクソ野郎は」

     不機嫌そうに言い返してくる一角の反応に思わず笑みが零れてしまう。

    「僕のは苺花ちゃんと一緒に作ったから、ほぼ同じだけど、それでも良い?」
    「良いに決まってんだろ…っん…むぅ」

     自身の作ったチョコの包みを開けて、口に放り込む。そのまま唇を重ねて舌で溶かしたチョコを一角の舌に絡めると、二人の口腔内がチョコレートの甘さで満たされる。甘ったるい口付けを交わしているうちにチョコは溶けて、残された鈴カステラさえも唾液を吸って潤けてしまう。潤けたカステラを強引に一角の口腔内に押し込んで、唇を離す。

    「すげぇ渡し方だな…」
    「嫌だった?」
    「いや、悪くねぇよ」

     唇に付いたチョコを舌なめずりして、目をギラつかせながらニヤリと笑う一角に、この後起こるであろう情交を想像し、弓親の下半身にずっしりと重さが走る。そして何より今夜は一角に抱かれながら長い夜を過ごしたいと思った。

    「続きは部屋の中でね」
    「寝かせねぇけど良いよな?」

     こうして二人の長い夜が始まるのだった。ちなみに頂いた沢山のチョコは弓親が一角に手伝ってもらいながら頑張って食べましたとさ。

    ────完────
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