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    あばん

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    あばん

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    角弓ホワイトデーのお話です。
    話に出てくる金平糖チョコは以前、ユツさんが呟かれていた内容をお借りしました。
    そしてブレソルの執事弓親の説明文に劣情を抱き続けた結果、この話ができたと言っても過言ではありません。

    それが特別な日じゃなくても「ねぇねぇゆみちー、バレンタインチョコ作ろうよ」
    「えっ?僕がですか?僕なんかより女性死神協会の皆さんで作った方が上手にできると思いますけど…」
    「みんな忙しくてダメだってさ、だからゆみちーが一緒に作るの!ねっ、良いでしょ!」

     二月十四日…弓親は副隊長のやちるにせがまれ共にバレンタインチョコを作る羽目になった。やちるの指示の下、作られ完成したチョコは恐ろしいもので、握り飯大のチョコに大量の金平糖を詰めたとんでもなく硬い物体と化していた。それは凶器以外の何物でもなく、無理矢理口に詰め込まれた隊士たちの歯は、欠ける、折れる、最悪の場合は跡形もなく粉砕するという地獄絵図を巻き起こした。唯一無事だったのは、チョコを一緒に作り配るまで手伝ったお陰で食べずに済んだ弓親と、それをものともせずにゴリゴリと噛み砕いて食べた隊長の更木剣八だけだった。

    ◇◇◇◇

    「つるりん、ゆみちー、こないだのお返しちょうだい」

     三月十四日…愛用のローラースルーゴーゴーを爆走させながら桜模様の大きな風呂敷を背負ったやちるが、屈託のない笑顔で二人に近付き話し掛けてきた。お返しと言われたものの、一体何のことを言っているのか全く見当が付かない。隣にいる一角の方を見ると、身に覚えがないのか眉間に皺を寄せ頭頂部をポリポリと掻きながら、同じく弓親の方を見て助けを求めてくる次第。互いに顔を見合わせて考えたものの、それでも何のことを言っているのか理解できないままだった。

    「もぉ、バレンタインチョコのお返し!こないだあげたでしょ?みんなにちょうだいって言ったらこんなにいっぱいもらえたよ。あとは剣ちゃんとつるりんとゆみちーだけ」

     笑顔でやちるが跳ねながらパンパンに詰まった風呂敷を見せてくれる。やちるがぴょんぴょんと跳ねる度に、パンパンの風呂敷が宙を舞う。きっとこの中には隊士たちからもらった(巻き上げた)お菓子が大量に入っているのだろう。

    「あぁ…あれな…忘れもしねぇ…俺の治したての差し歯を無駄に破壊しやがって…」
    「あの…副隊長、僕は一緒に作っただけでチョコはもらっていないですね」

     あの日、一角の歯も無事では済まされなかった。やちるに無理矢理口に押し込まれたチョコによって、一角の差し歯は一瞬でその生涯を終えたのだった。そしてその場面を見て大笑いした弓親は見事に一角の頭突きを喰らうといった惨事に見舞われたのだった。

    「そうだっけ?誰にあげたか忘れちった。みんなお返しちょうだいって言ったらくれたから、まぁいっか?じゃあ、ゆみちーは良いからつるりん、お返しちょうだい!」
    「へいへい…今から取ってくるから待ってて下さいよ」

     一角がお返しとやらを取りに戻ってくるのをやちると二人で待った。待っている間、お菓子を食べようとやちるが風呂敷の包みを開けるとクッキー、飴、マシュマロ、チョコ等々様々なお菓子が広げられ、小さな駄菓子屋のような空間がやちるの周りに出来上がる。

    「ねぇねぇ、ゆみちーはつるりんにあげなかったの?」
    「今回は時間がなかったんで。あの後お店も回ったんですが、チョコというチョコ全てが売り切れてまして…」
    「あはははは、変なのー。そう言えば金平糖も売り切れだったんだよ。あたし食べたかったのに…」

     やちるとチョコ作りに励んでいたことや、その後一緒に配って回ったこともあり、一角に渡すためのチョコを用意する暇が全くと言って良い程なかった。そしてその後様々な店を回ったが、尸魂界中のチョコ(金平糖も)が全て完売しているという珍事が巻き起こっていたのだった。



    「ほらよ」
    「うわぁ、キレイだね…金平糖みたい。着けて着けて!」
    「へいへい」

     戻ってきた一角が手に持っていたのは蜻蛉玉で作られた金平糖の髪飾りだった。一角がやちるの髪にそれを着けると、桜色の髪に白、黄緑、橙、桃色、黄色と色とりどりの金平糖が陽の光を浴びてキラキラと光り輝いている。

    「ゆみちー、鏡かして。可愛い?似合う?」
    「とっても可愛いですよ」
    「良いじゃねぇか。ほら…菓子ばっかりも何かアレだろ?」

     やちるに弓親が鏡を手渡すと、鏡に映る自身の姿に茜色の瞳を輝かせながら嬉しそうに微笑んだ。破天荒なやちるではあるが、時折少女としての可愛らしい一面を見せてくれてその場を和ませてくれる。

    「二人ともありがとね、剣ちゃんに見せてくるね。あっ、お返しももらわなきゃ。じゃあねー」

     風呂敷にお菓子を無造作に詰め込んで、嵐のように現れたやちるがローラースルーゴーゴーを爆走させながら嵐のように過ぎ去っていった。



    「ほら…」
    「えっ、何?」

     やちるが去ってから、一角が懐から何かを取り出し弓親の手に無理矢理握らせる。それは弓親の手より少し大きめで、金属製のものなのか触れると冷んやりとして硬い感触があった。

    「お前にやるよ、お返しだ」
    「お返しって…僕、君に何もあげてないよ」
    「うるせーな、岩石みたいなチョコの袋にちっさいチョコも一個入ってたろ?お前が作ったんだろ?まぁ…あれもなかなか硬かったけどな。お前がいらねぇってんなら捨てんぞ」
    「いや、いらないとは言っていないよね。わわっ、危ない!」

     弓親に握らせたそれを一角が無理矢理取り返そうとすると、お互いの手が滑ってそれが宙を舞った。それは何か石が装飾されているのか宙を舞って陽の光に触れた途端、眩い瑠璃色の光を放った。地に落ちる既のところでそれを一角が拾い上げる。

    「危なかったね…」
    「あぁ、危うくぶっ壊すところだったぜ…ツイてたな、もう落とすんじゃねぇぞ」
    「えぇっ、僕のせい?」
    「違うのか?まぁ良いや、ほら受け取れ」

     再度一角から渡されたそれは、瑠璃色の孔雀の羽を模した美しいバッジだった。先程の眩い光は羽の中央にあしらわれた瑠璃色の石から放たれていたようで、今も尚美しく光り輝いていた。

    「これ、すげぇ良い色なんだけど金平糖には合わねぇなって思ってよ。んで、お前に似合いそうだなって思って作ってみたわけだ」
    「さすが一角だね。でも誕生日とか特別な日じゃないのにこんなに素敵な物をもらっちゃって良いのかい?」
    「特別な日じゃねぇとダメなのか?」
    「全然ダメじゃないよ、ありがとう一角!大好きだよ」
    「コラッ、こんなところでくっ付くんじゃねぇ!」

     嬉しさのあまり一角に抱きつくと、照れているのか一角の顔は耳まで真っ赤になっていた。

    ───完───
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