お前の王子様「好きなタイプ? うーんと…王子様みたいな人かな?」
相棒だし、アイツの好みは把握してしかるべきだろ!そう思ってたら聞こえてきたこの会話!え、何、あいつのタイプ、王子様系…!?
ガツンと頭を殴られたような気分がしてそっとその場を離れる。オウジサマってナンだよ。そこはかわいく「マモン様♡」って答えるとこだろうが。ってかナンで俺様がこんな。
…でもあいつの好み、好みねぇ。全然そんな感じじゃねーのにな。
気づけば引きこもりの弟の部屋の前。話をするにはちょうどいい人選だ。
一応ノックする。「なに?」不機嫌そうな声がして合言葉を求められる。めんどくせぇ。
構わずそのままノックを続けると、さすがにうるさかったのか「あーもう!」という声と共にドアが開いた。部屋に入る。
「いきなり何? 合言葉言わないと部屋に入れないって言ったよね。」
「お前に聞きたいことあってさ。」
よいせと先ほどまで目の前の弟が座っていたであろうゲーミングチェアの前に腰掛ける。
「え、何急に怖いんだけど。」
迷惑そうにしながらも一応話は聞いてくれるらしいことを察したので、核心には触れずに聞いてみる。
「王子様ってなんだと思う。」
「は?」
「いや、あるじゃねぇか、オウジサマみたいな人、的な?どんなやつのことをいうのかな、って思ってよ。」
「王子様?急に何言いだすんだよ。まぁ確かに二次元のそういうのに詳しくないわけじゃないけどさ…」
「じゃ、この兄弟の中で一番それっぽいのは。」
「兄弟で一番王子様っぽいのってそんなんサタンに決まってるじゃん。金髪碧眼、容姿端麗で頭脳明晰。おとぎ話に出てくるような王子様そのままだよ。」
当たり前のように自分の名前でないことに軽くショックを受けつつ、動揺を悟られないように席を立ち、部屋の外へと向かう。
「なるほど。悪いレヴィ、邪魔したな。」
「え? マジで何、なんだったの…」
部屋を出てそのままサタンの部屋へ。こんなにもムキになっている理由に見ないふりをしつつぼんやりと「敵陣視察」という言葉が浮かぶ。ノックしても返事はない。ったくどいつもこいつも…と思いながらドアを開けると、中で本を読んでいた。集中しているため気づいていないようだ。確かに絵になるよなぁと思いつつ声をかける。
「よぉサタン」
「え、マモン? どうしたんだ」
「ちょーっと話がしたくてな?」
王子様なんだから少しくらい語気が強くなってしまっても許してほしい。
「なぁ、なんでそんな王子様みたいなんだ?」
「は?なぜいきなりそんな話になるんだ。頼むから順を追って説明してくれ。」
伊吹のことには触れずに説明しようとも考えたが相手はサタン。ここは腹を割って話すべきかもしれない。かくかくしかじかで~と、今までのことを話す。
「確かに、言われてみれば容姿はそうかもしれないな…まぁ、初手の人選ミス感は否めないが。ただ、伊吹の言いたいことは容姿に関することじゃないと思う。」
「だよなぁ…。でも王子様ってなんだよ…。行動?あ、豪華な宝石買ってやるとか」
「あいつが言いたいのは中身なんじゃないのか。借金をしたり、豪遊をする王子様の話なんて俺は読んだことないぞ。」
「まぁそこがマモンらしいところでもあるから無理に変わるのは違和感があるって話を最後まで聞けよ」
中身…中身か…。つい何も言わずに部屋を出てきてしまったのは多分心当たりがあるからだと思う。どう頑張ったところでおそらく、俺の性格はアイツの憧れるオウジサマには程遠いんじゃないか?はぁ、とため息をつくと後ろから「マモン」と声をかけられる。
「珍しく静かじゃないか。また悪いことでも企んでいるのか?」
「ルシファー…」
ルシファーの顔を見て、今までぐるぐるしていた気持ちがあふれ出してくる。このまま吐き出してしまおうか。俺の顔を見たルシファーは少し驚いた顔をしてそしてふっと笑っていった。
「部屋で聞こう。」
サタンに話したのと同じように話し、なおかつサタンの部屋であったことも話す。伊吹の好きなタイプのこと、自分のこと。ルシファーは相槌を打ちながら真剣に聞いてくれていたが、彼が提案したのは自分のぐちゃぐちゃした思いを吐き出し切った時、
「伊吹に直接聞けばいいじゃないか。一番好かれている自信があるんだろう?」
という一言だった。
悔しいがお兄様には逆らえないし、だんだんとそれが正しい気もしてきた。自分でいくら考えたってわからないモンはわからないし、こうしてうじうじ悩んでんのはオレサマらしくない気もした。
礼を言って部屋を後にする。向かう先はただ一つ。部屋にいてくれ、そんな期待を込めてノックする。「はーい」とアイツの声がしてドアが開いた。ちょっとは警戒しろってんだ。
「マモン!」心なしか嬉しそうな顔がのぞく。「ノックするなんて珍しいね?」
「俺がノックしちゃわりぃかよ」
「ぜんぜん? むしろいつもしてほしい」
「はいはい」
軽口を重ねつつ部屋に入る。伊吹がドアを閉める。
「で、今日はどうしたの?」
いつもみたいにくつろぐ体制になりつつ伊吹が俺に聞く。腹を決めた。
「なぁ、さっきちょっときいちまったんだけどよぉ..。その…,、お前、オウジサマがすきなんだって?」
俺のちょっとだけ真剣そうな様子を察してくれたんだろう、伊吹は黙って聞いている。
「それで、さ。どういうところが好きなんだよ、その『オウジサマ』の…。」
「おれじゃなれねぇ感じ? お前の王子様…」
尻すぼみになった先、言う予定じゃないことまで口から転がり出てしまっって動揺してること、あいつは気づいているだろうか。
「今日なんかへこんでるなーっておもったらそのことか。」
アイツのほっとした声が耳に届く。
「うるせぇ」
「知りたい? 私の王子様のイメージ」
うなずくと、伊吹はにっこりと笑って話し始めた。
「えっとね、前提として私好きなひとがいるんだけど」
「え」
「そのひと、たぶんすごく私のこと好きなんだよね」
まあ悪魔なんだけどね、と言いつつ伊吹は続ける。
「私がそのひとのことを王子様だなって思うのは、もし私がピンチになったら、絶対に助けに来てくれるところ、かな。」
「いつもお兄ちゃんに怒られるようなことするし、お金大好きだし、いじわるもたくさんするけど」「でもね、ほんとはすっごく強いし優しい悪魔なんだ。」「ね、マモン」
途中で心がきゅっとしたのはどこえやら、じわじわと顔が赤くなっていくのを感じてた俺の方を伊吹が向く。目があう。
「真っ赤になっちゃってかわいいね」
「ねぇマモン、私の王子様になってくれる?」
「かなわねぇなぁ、ほんと」