合宿のさたいぶ 状況を整理したい。
アルコールを飲んで気分が良くなった伊吹が、俺の髪をドライヤーで乾かしている。
どうしてこうなった。
たまには2人でゆっくりしようと伊吹を部屋に呼び、それぞれデモナスとアルコール(人間界のデモナス)を片手に、静かに談笑しながらくつろいでいた。しかし
「…伊吹、ちょっと飲みすぎじゃないか?」
明らかに飲みすぎている。ハイペースという訳では無い。問題はおそらくその分量だ。
伊吹が飲んでいるのは、濃い酒を水で割るタイプのものだが、先程から「入れすぎちゃった」という声を3回ほど聞いている。
その時に止めておくんだった、と今思ってももう遅い。目の前には、少しぐったりして出来上がってしまっている伊吹。
椅子からベッドの方に移動するよう促しても抵抗するので仕方なく抱きかかえてベッドにおろすと目を閉じてふにゃりとしている。
このまま寝てしまうことも考えたがせめて自分だけはシャワーは浴びておくべきだろうと考え、伊吹にその旨を一言伝えてバスルームへと向かった。
そして、バスルームから戻り俺を待っていたのは、少し横になってアルコールが抜けて楽になったのだろうか、ドライヤー片手ににこりと微笑む伊吹だった。
そして冒頭に戻る。ドライヤーはどこから持ってきたんだ、とか急にどうしたんだ、などの疑問が頭を駆け抜けていったが、そもそも好きなやつににこにこ顔で髪を乾かすお願いをされたら断れるやつなんて居ないだろう。大人しくベッドの下の床に座り、彼女が楽に乾かしやすいような高さを目指す。ぶぉーという音が後ろから聞こえ、温かい風が髪にかかり、彼女の細い指が俺の髪をといていく。
髪を他人に乾かしてもらうことは、理髪店以外ではあまり経験がない。故に最初は緊張していたのだが、頭を撫でられているような感覚に心地良さを覚え目を閉じる。
彼女が丁寧に乾かしても、俺の短い髪はすぐにかわいてしまう。自分で乾かす時には少し億劫にさえ思うこの行動が、他人、それも好きな人にされると終わらないでくれ、と思えるなんて。
「終わったよ。」
「ありがとう。とても心地よかったよ。」
「それは良かった。」
酔いが覚めたから自分もシャワーを浴びてくると言ってバスルームへ向かった伊吹。彼女の猫っ毛を乾かし、そのまま頭を撫でる幸福を想像しーーー
彼女の帰りを待つために本を開いた。