3「ハハ…モンド一の吟遊詩人には全部お見通しってわけか」
ガイアは苦笑いをしながら言った。
「…そっか、君はこのままじゃ死ぬってわかってたんだね。でもいいの?君はまだ生きていたいんじゃないのかい?君は、自分がどうして生き返ったのか、心当たりがあるんでしょ」
ウェンティはそう言って地面へふわりと降り立つ。
ガイアは何も言わなかった。
「ガイア、ひとつ忠告させて」
俯いて何も言わないガイアを覗き込んで、ウェンティは話し出す。
「君の体はもう普通の人間とは違うんだ。君の体は死体とほぼ同じ。だから、放っておくと体は硬直していき、最終的に朽ちていく。まぁ君は氷元素使いだし、まだもう少し持つだろうけど」
ウェンティはガイアの顔を覗き込むのをやめて、今度は背伸びしてガイアの頭を撫でる。
「でも、いつかはそんな未来がくる。それを変えるには、君は誰かから血を貰うしかない」
「は?!」
ガイアは思わずガバッと顔をあげる。
「おっと、ようやく顔をあげてくれたね。よかった〜」
ウェンティはバランスを崩しかけたが、なんとか持ち直してにっこり笑った。
「待ってくれ、血ってどういうことだ!?」
ガイアはウェンティの細い肩を掴み、必死に問いただした。
「血は生命の根源とも言われるんだ。だから、君のような死人はその根源を貰って栄養源にするしか、生き残る道はないんだよ」
ウェンティは両肩に置かれたガイアの手をそっと退かし、風を呼び起こす。
「待て!まだ話が!」
「そろそろ君のお義兄さんが来る頃だから、ボクはもう行くね。君自身がどうしたいのか、ちゃんと考えて動くんだよ……あっ、でも血を求めて無差別に人を襲ったりしたらダメだからね!」
ウェンティはそう言って去っていってしまった。
「どうしたんだい、ガイア。声が聞こえた気がしたけど」
見計らったかのようなタイミングでディルックが出てきたため、ガイアは慌てて伸ばしかけた手を下ろす。
「なんでもないさ、ただ気分転換がしたかっただけだ」
「…そうか、じゃあ僕の片付けも終わったことだし、帰ろうか、ガイア」
ディルック少し訝しげな表情をしたが、すぐにその表情を消して、優しげな声でガイアを呼び、手を差し伸べる。
ガイアはそんなディルックを見て少し胸が痛んだが、あんなことは絶対に言えるわけがないと思う。
だってそうだろう。自分は血を飲まなければこの姿を保つことができないなんて。
そんなことを言えば、きっとディルックは喜んで自らの血を差し出すはずだ。でも、それは嫌なのだ。望んでいないのだ。自分はそんなことをしてまで生きていたくないし、迷惑をかけたくないのだ。
「あぁ、帰ろう」
だから、自分はまた嘘をついて、矛盾を抱えていくしかないのだ。