4二人で夜道を歩く。
遠くで風車の回る音や、狼の遠吠えが聞こえる。
そんな静かな道を、普段から無口であることが多いディルックはおろか、いつもずっと喋っているようなガイアでさえ黙って歩いた。
二人の歩く微かな足音と、自然の音だけがその場を支配していた。
だんだん葡萄の香りが漂ってきた。
二人の目的地、アカツキワイナリーが見えてきた。
あともう少しで葡萄畑にへ続く道へ入らんとする時、ディルックは急に立ち止まり、後ろにいるガイアへ声を掛けた。
「…ガイア。今日は酒場に来てからずっと笑っていただろう?でもずっと言っているけれど、もう無理して笑わなくていいんだよ」
ディルックは振り返り、真剣な顔付きでガイアを見る。
「前も言ったけれど、君はもっと周りの人や僕を頼っていいんだよ」
「…ハハッ旦那様、俺は無理して笑っているんじゃないぞ?…最近は本当に楽しいと思っているんだ。それに1ヶ月間、お前に頼りきってたじゃないか」
ガイアはそう言ってにっこりと微笑むと、前へ駆け出した。
「ほら、もうすぐワイナリーだ。アデリン達が待ってるぜ?」
ディルックの前へと躍り出たガイアは、青い髪を揺らして言う。
それはまるで、まだ何も知らなかった、幸せなあの時に戻ったようで。
彼が笑うのなら、きっと要らぬ心配だったのだろう。
そう思い、ガイアを追いかけようとしてディルックが一歩踏み出した瞬間、ガイアの体が突然ぐらりと傾いた。
「!ガイアッッ!!どうしたんだ!」
ディルックは慌てて抱き留めて、ガイアへ呼びかける。しかし、ガイア自身も自分の状況に戸惑っているようだった。
「…あ、れ……まだ持つって言ってたくせに……」
「すまん…少し…疲れたみたいだ…」
ガイアはそう呟いて、ふっと意識を失ってしまった。
「ガイア!…クソッ、なんで突然…」
ディルックはガイアのいつもより青白くなった顔を見る。1ヶ月前ワイナリーに連れ帰った時と同じほど、いや、その時よりも顔色が悪くなっていた。
先程酒場で彼を見た時は元気そうだったのに。
どうして急に。やはりガイアが生きることはできないのだろうか。自分が酒場に連れていったからだろうか。大体、自分があの時動けていたら、彼は今も元気だったんじゃないか。
頭の中で様々な思いが駆け巡る。
「…いや、それより今は早くガイアを運ばないと」
思いを振り払うようにかぶりを振って、ディルックはガイアを背負い、目の前に見えるワイナリーへと走り出した。