ゲームループ2016※文舵練習問題5。一段落~一ページ(400~700字)で副詞も形容詞を使わずに、語りの文を書く。会話文なし。
憎悪に射竦む暁の前で、明智がスラックスの左ポケットから手を出した。顔横に掲げたその手には、何かが握られている。時計だった。盤面に秒針はなく、化物の顔だけが張り付いている。
暁が息を呑む中、明智は自身のアタッシュケースを地面に落とした。留め具が外れ、中身が散らばるのを無視して瞳が閉じられていく。
吐息。開眼。顔から表情が消える。開き切った瞳孔が、暁を一瞥した。路傍のごみに対する視線だ。
手袋に包まれた指が、時計上部のボタンを押下した。光の秒針が一周し、化物の顔を投影する。
時計から溢れたエネルギーが暴れ出し、周囲の空気を戦慄かせた。
明智の髪を風が煽り、身体を闇が這いずり埋め尽くしていく。戸惑う暁の目の前で、闇は化生の外殻へと変貌していった。
エネルギーの収縮。暗転。破裂。
咆哮と共に現れたのは、数日前、暁を襲った化物そのものだった。脳と心臓の両方が迫り来る危機に警報を鳴らす。
アナザーライダー、遠くで少年の怒号が響き渡った。
近付く足音。
明智だったものが、殺意に満ちた呻きを漏らす。その身体に刻まれた「2014」の文字が、暁の視線をさらった。
2022.08.23