黎明※文舵練習問題9-1。1~2ページで、二人の登場人物の会話文のみで物語を書く。
「随分しつこいんだな、お前」
「そうかな。普通だろ」
「普通じゃないから、こんな所まで来てんだろうが」
「会いたかったから。それじゃダメか?」
「……ほんと君ってさ、どうしようもないくらいに馬鹿だな」
「お前のせいでどうしようもないくらいに馬鹿になってる」
「言ってろ」
「嬉しいくせに」
「今度こそ、その脳天に風穴開けてやろうか?」
「そうは言っても、お前一度失敗してるからな……待て待て、その内、その内な」
「……正直に言うと。ほんと、それだけだよ。僕の心残りは」
「俺は待ってる。いつまでも」
「……これ以上ふざけた事を言うなよ。折角の景色が台無しになる」
「……まあ、確かに。世界の終わりとか、そうそう見られるものでもないよな。どうだ、一仕事終えた気分は」
「まあね、達成感はあるよ。清々してる。ようやく本当の自由を手に入れたって気分だ」
「それは良かった」
「最後の最後で、どこかの誰かさんが駄々をこねに来なきゃ、もっと最高だったんだけど」
「ひっど。俺、かなり頑張ってたぞ? むしろ感謝してほしい。褒めてほしい」
「そういう事はお仲間に頼んだら?」
「明智の口から聞きたい」
「……」
「言っておいた方が良いんじゃないか? あとで後悔するかもしれないぞ。良いのか? 一生引きずるぞ。俺が」
「ざまあみろ」
「うわ……」
「なに、その顔」
「一生引きずってほしいのか、と思って。熱烈だな」
「どうしたらそういう思考回路になるのかな」
「さっき言ったろ? お前のせいでどうしようもないくらい馬鹿になってる」
「君さ……、もう黙りなよ」
「…………、…………なあ、寒くないか?」
「……そりゃあね。雪降ってるし」
「……手、冷えないか?」
「手袋あるし。君だけだよ」
「……寂しくないか?」
「……それ、君が言う?」
「俺だけがそうだと嫌だなって」
「お生憎様。まったく、これっぽっちも」
「だよな」
「そう、君だけだ」
「……やっぱり、なんか言いたい事あったりしない?」
「……ないよ」
「本当に? 最後のチャンスだぞ?」
「しつこいな」
「だってさ、もう、ほら……夜が明ける。……明智。俺、引きずるんじゃなくてさ、抱えて歩いていくよ。ちゃんと。現実で。独りでも。……それでも、ダメか」
「……、…………君と並んで、この景色を見られた。それだけで僕は満足だよ」
「……『なんてね』」
「わかってるじゃないか」
「前々から思ってたんだけど。その『なんてね』で誤魔化すのやめろ」
「今更だろ」
「今更じゃない。今からでも直してほしい」
「もう二度と聞く事がないものに対して?」
「わからないだろう」
「往生際悪すぎ」
「俺のそういう所が好きなくせに」
「……さあね。勝手にそう思ってれば?」
「そうする。俺が、勝手にそう思う事にする。
――ありがとう」
2022.10.06