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    ume8814

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    文章整理

    #仁たか
    nitaka

    初めの一歩 一つだけ火の灯った油に照らされる寝所でこうして向き合うのは何度目だったか。膝を突合せてもう覚えていないほど繰り返した行為。それなのに、こうしてするりと顔を寄せると音が聞こえてきそうな程にかたく目を瞑る姿は何度見ても愛らしい。力み過ぎて小さく震えている睫毛の際に口付ける。薄い瞼の下で瞳がかすかに動くのがわかった。
     そのまま頬に額にと軽く口付けていくと僅かに強ばりが解けていく。
    「たか」
    合間合間に名前を呼ぶと、それに応えるようにして小さく息を飲む音が聞こえてくる。
     そろそろ頃合だろうか。最初に比べたら随分と力の抜けた唇に触れる。やわやわとした感触を楽しんでいると、僅かな身動ぎと視線を感じて、それからほんの少しだけ、ピッタリと閉じられていた唇が綻ぶのがわかった。
     薄く開かれた唇を少し押し広げながら舌を差し込む。ぬるりと差し込んだ舌が感じる自分とは違う温度の口内の熱さに包まれる。視線を感じなくなったのに小さく笑いたくなるのを堪えて自分のものより少しばかり熱く感じる口内の喉奥で躊躇いがちに縮こまっている舌を迎えに行く。舌先でつつき、時々上顎を擦りながら好き放題しているとたかの鼻がくぅと鳴るのが愛おしい。
     もう少し、あと少しだけと執拗に舌を絡ませていると、突然ぎゅう舌を押しやられた。常ならたかの息継ぎが上手くいかずに緩やかに肩を押されるだけなのに、おやと思うまもなくたかの舌が、これまで越えることのなかったたかの口内から出てこちらへと差し込まれる。
    「っ……」
     初めてのことに動揺し、思わず身を引きそうになったがここで引いてしまったらこのような状況は暫く無いだろう。こちらを伺うようにうっすらとたかが目を開いているのがわかった。自分でもカッと頬が火照ってたのがわかる。それに下肢にも血液が巡り目が回った。
     初めてたかと”そういう”雰囲気になった時、たかは早急に事を進めようとするあまりに、と言うよりもそんな行為など知らないとばかりに何よりも先ずおずおずと袷をくつろげてみせた。その手を押しとどめて顔を近づけると無防備にこちらを見つめるばかりで、形容し難い気分のままこういう時は目を閉じるんだと教えたのを思い出す。
     過去を回顧している間にも、たかの舌が拙く自分の歯に触れ、ゆっくりと舌を伸ばしてくる。そのどれもが、ぎこちないものの身に覚えがあるものばかりで、甘露のようにあまく、ほんの少しだけ薄暗い喜びが脳を犯す。
     こちらの口内へ伸びたたかの舌、逃がさぬようにと甘く歯を立てては離してを繰り返していると肩を叩かれた。
    「……ッ、さかいさまっ……」
    「すまん、つい」
     顔がそっと離れても、たかと突き合わせていたせいで触れている膝が熱い。息が苦しいと胸を叩かれるのも随分と久しぶりな気がした。なんだかんだとたかも自分との行為に慣れてきていた。変に冷静な頭はつらつらと考えるが、てらりと光るたかの唇が唯一灯る灯りに照らされているのが目につく。
     そろそろ、良いのではないだろうか。やっと、もう一度だけ軽くたかの唇に触れて緩んだ着物の袷に手をかける。
    「たか、良いか」
     返事のないたかの、伏せられた顔を覗き込むと、灯りの反射だけではない程に真っ赤に染った頬が眩しい。たかの口が開いては閉じてを繰り返すのを眺めてどれくらい経っただろうか。ふっとたかの息を吸う音が大きく聞こえる。
    「あの、その、あかりを消して頂けますか……」
    「分かった」
     一も二もなくあかりを吹き消す。あまりに早急だったろうかと少し後ろめたさがあるが、もうそろそろ我慢の限界だった。口吸いから進まない状況に、たかを思えば苛立つことはないまでもジリジリと理性が焼き切れるのでは無いかと嫌な汗をかいたことも1度や2度ではなかった。
     月明かりすら届かない暗い部屋で、ここから先に進めていいものかとたかと向き合ったままでいる。どれくらい経ったのか、ふとたかが控えめに俺の手に触れる。着物の袷を掴んでいたままの手にそっと触れてくる手は微かに震えていた。
    「さかいさま……、よろしくお願いいたします」
    「こちらこそ、よろしく頼む」
     袷から滑り込ませた手がたかの薄い胸に触れる。たかの胸が大きく脈打っているのが分かる。ほんの少しの間、手を添えているとおずおずとたかの手が自分の手を掴む。少しキツく握りしめられたままするすると手を導かれると普段よりも熱いたかの頬に手を添えさせられた。そのままぐいと顔を寄せられ、至近距離でたかと視線が合う。夜目は効くが近づいたことでへにゃりと笑ったたかの顔がよく見えた。
    「さかいさま」
    「なんだ、たか」
     視線を合わせ名前を呼びながらあまりに稚く笑うたかに毒気が抜かれる。
    「いえ、俺が灯りを消してくださいとお願いしたのに顔が見えないのは存外心細いなと思って」
     すみません、そういって小さく笑うたかに胸が痛んだ。
    「何も謝ることはない」
    「ふふ、ありがとうございます」
     ね、さかいさま。これだけ近ければ見えます。恥ずかしいけど、さかいさまも見えてますよね。そうたかの言う通り、確かに見えている。見えているがそういって笑うたかの表情にいたたまれなくなってくる。ムズムズと座りが悪くなり、たかのつるりとした額に小さく口付ける。
     たかがふにゃふにゃと笑っているのが分かる。理性だけは手放すものかと思っているが、どうだろうか。このいたたまれなさに打ち勝って、理性を手放すことなく、たかの可愛さに耐えながら契るのは途方もなく大変なことなのではないか。雲行きが怪しくなってきたがたかも乗り気だ。こんな機会を逃がす訳には行かないと、ぐっと奥歯をかみ締めた。
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    ume8814

    DOODLEグリクリグリ
    読書 サイドテーブルを挟み緩く向かい合うように置かれた1人がけのソファで、クリーデンスとグリンデルバルドはそれぞれ本を読んでいた。日が落ちてから随分経ち分厚いカーテンの下ろされた部屋では照明も本を読むのに最低限の明かるさに絞られていた。その部屋には2人のページを捲る音だけが静かに響いている。


     クリーデンスが本を読むようになったのはつい最近、グリンデルバルドについてきてからのことだった。最低限の読み書きは義母に教えられていたが、本を読む時間の余裕も、精神的な余裕も、少し前のクリーデンスには与えられていなかった。
     義母の元でクリーデンスが読んだ文字と言えば自分が配る救世軍のチラシ、路地に貼られた広告や落書き、次々と立つ店の看板くらいのもので、文章と呼べるようなものとは縁がなかった。お陰でクリーデンスにはまだ子供向けの童話ですら読むのはなかなかに骨が折れる。時には辞書にあたり、進んだかと思えばまた後に戻ることも少なくないせいでページはなかなか減らない。しかしクリーデンスはそれを煩わしいとは思わなかった。今までの生活とも今の生活とも異なる世界、新しい知識に触れる事はなかなかに心が惹かれる。クリーデンスにとっては未だにはっきりとしない感覚だがこれが楽しいということなのかもしれないと、ぼんやりとだが思えた。それに今日のように隣で本を読むグリンデルバルドのページを捲るスピードは、自分のものとは異なり一定で、その微かに聞こえてくる紙のすれる音が刻むリズムがクリーデンスには酷く好ましかった。
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