お腹いっぱい召し上がれ任務帰りに寄ったスーパーで夕飯の材料とスナック菓子、おまけに普段はあまり食べないデザート類を大量に買い込んでしまったのは、後から思い返せば前兆だったのかもしれない。
夕飯を終え、だらりとソファーに凭れながらバラエティ番組を眺めていた悠仁は唐突に立ち上がった。
隣に座っていた五条はきょとんと目を瞬かせて悠仁のことを見上げている。
「どうしたの?」
「や、何か腹減ったような気がして…」
「晩御飯足りなかった?」
「ん〜そういうわけじゃねぇんだけど」
そう。特に夕飯が物足りなかったわけではない。普段から悠仁も五条もよく食べる。今日だって夕飯用に炊いた5合の米はあっという間になくなった。
それなのに、自分でもよく分からないが何だか無性に腹が減っていた。
首を傾げながらも菓子をストックしている戸棚からポテトチップスを取り出し、その流れで冷蔵庫からプリンとエクレアを取り出す。
扉を閉めようとして、ふと思い立って顔をあげた。
「先生も何か食べる?」
「僕はいいや。悠仁につられてご飯沢山食べちゃったし。お腹いっぱーい。」
「そっか」
戦利品を片手に五条の隣に戻れば長い腕が伸びてきてそのまま肩を抱かれた。促されるままこてりと頭を凭れさせる。
今日、五条は3週間ぶりに出張から戻ってきた。悠仁も日中任務があったものの夕方の割と早い時間に終わり、タイミング良く明日は2人揃っての休みだ。
人手不足の呪術界。学生と言えども悠仁にも任務は絶えず振り分けられているし、更に特級術師である五条は言わずもがなで2人の休日が揃うことは珍しい。休日が被りそうだと判明したすぐ後から、五条にその日はドライブに行こうと誘われていた。
以前出張で長野を訪れた際、美味しい蕎麦屋を発見してそこに連れて行ってくれるらしい。
美味しいと評判の蕎麦屋を訪ねるのも、運転する五条を見るのも、どちらも同じくらい楽しみで明日の休日を指折り待ち侘びていた。
ガイドブックを買って、蕎麦の他にも五条の好きそうな銘菓や名物がないか調べてみたりと我ながらなかなか浮かれていたように思う。それほどまでに楽しみで仕方なかった明日の予定より、何よりも。
ただ、今は。
腹が減って仕方がなかった。
何となく眺めていたバラエティ番組が終わった後は順番に風呂に入り、風呂上がりに悠仁はアイスクリーム2つとシュークリームを平らげた。
それでもどこか物足りない気がして腹をさすっていれば、五条が温かいココアをいれてくれて、それを飲んでやっとひと心地ついた。
明日は朝早く出発なので、2人揃って早めに布団に潜り込む。
「明日楽しみだね」
「あんなに沢山食べて明日お蕎麦食べれる?」
「一晩寝れば消化されるっしょ」
「若者の新陳代謝こっわ」
クスクスと取り留めのない会話をしながら眠気が訪れるのを待つ。2人とも任務に忙殺されていたので睡魔が訪れるのも早い…はずだった。
五条の腕の中で抱え込まれるようにしながら、悠仁は頭上から降りてくる穏やかな寝息を聞いていた。いつもなら五条より早く眠りに落ちてしまうのがほとんどなのに、全くという程睡魔が訪れない。それどころか先程満たされたはずの腹がまた空腹を訴えているような気がして、眠気は遠ざかる一方だった。
さすがにこれから何か食べてしまうのはまずい気がして、無理矢理眠ってしまおうと目を瞑る。
けれど、待てど暮らせど一向に眠気はやって来ず、空腹からか段々苛立ちが込み上げてきた。
何故ここまで腹が減ってしまうのか。苛立つのか。眠れないのか。わからないことだらけで更にイライラしてしまう。
(あーもう、なんだよコレ…わけわかんねぇ)
頭を掻きむしって叫んでしまいたい。このままでは良くないと、とりあえず五条の腕の中から抜け出してリビングにでも行こうと身を捩ったその時だった。抜け出そうとする悠仁の動きを察したのか五条の腕が悠仁の体を抱え直し、更に足を絡めて拘束してきたのだ。
太腿に感じる熱は、確かめなくてもわかる。すやすやと眠る五条のサトル君は、何の兆しも見せていないにも関わらず存在感がありすぎる。
(先生の、やっぱでっけぇ…)
思わず夜のあれそれを思い返してしまい、腹の奥がずくりと疼いた。そして唐突に分かってしまった。
(俺のイライラ、腹減ってんじゃなくてムラムラしてんだ)
自覚した瞬間ダメだった。
腹の奥で生まれた熱がジリジリと身体中を駆け巡り、頭の中が桃色に染まっていく。
(先生、起きてくんねぇかな)
五条とセックスがしたい。食事ではなく五条で胎の中を満たされたい。大きなペニスで貫かれて、思う存分揺さぶられたい。
口の中に急速に溜まった涎を嚥下し、すり、と自ら五条の股間に太腿を擦り付けた。
(起きて)
いくら特級術師と言えど、度重なる出張で疲れているはずで。おまけに明日はずっと楽しみにしていた予定があって早く起きなければいけない。
わかっているのに止められない。
拘束の隙間をくぐり抜けて手を伸ばし、五条のスウェットに指をかける。
そのまま掌でボクサーパンツの上から股間を包み込んだ。すりすりと撫でさすったり、やんわり揉んでみたり。急に強い刺激を与えて起こすのも可哀想かとなるべくソフトな刺激で攻めてみたが五条の瞼は降りたまま。相変わらず安らかな寝息を立てている。
(ううう、なんで起きてくんねぇの)
そうこうしている間にも悠仁の体の疼きは膨れ上がるばかりで、とうとう我慢できずに再度身を捩り拘束から抜け出すと布団の中に潜り込んだ。
五条の足元まで一気に体を滑らせて股間に顔を寄せる。身の内を駆け巡る熱にグズグズと鼻を鳴らしながらペニスの形をなぞるように唇で刺激を与えていく。
「は、はっ、はぁ、ふ…っん」
五条のペニスが段々と芯を持ち頭を跨げてくるのが嬉しくて、下着を引きずり下ろして直接舌を這わせる。溢れて零れ落ちた自身の涎を舐めとるように夢中になって全体を舐め回すと、大きく口を開けてつるりとした亀頭を飲み込んだ。
滲む先走りを吸い上げ、歯を当てないように頬を窄めて口内でしごき上げる。
夢中になっていた舌を這わせていた悠仁はいつの間にか布団が剥がされ青い瞳が自分を見下ろしているのに気づいていなかった。
「こんな時間にいたずらしてる悪い子だーれ」
「ん、んむ、ん」
「ちょっと悠仁くん、それ一回ぺってしてくれる?ほら、お口開けてー」
念願叶ってやっと五条の声が聞けたというのに口の中で育った五条のペニスを手離したくなくてイヤイヤと首を振る。それでも脇の下に両手を差し込まれ、ぐっと体を持ち上げられそうになって慌てて五条の太腿に縋りついた。
むぐむぐと唇に力を入れて吸い付く
「はぁーー、わかったよ。後で好きにさせてあげるから、ひとまず話そう?」
力ずくで引き剥がすのを諦めた気配を察し、悠仁もしぶしぶ口を離して顔を上げる。
「…先生、ずっと起きてただろ。なんですぐ起きてくんなかったの」
ジトリと五条を睨みつける。そう、五条は最初から起きていた。正確には浅い眠りにはついていたのかもしれないが、悠仁が悪戯を始めた時には完全に目覚めていたはずだ。
起きてくれないとムキになっていたが、特級術師ともあろう男が悶々と苛立つ悠仁の気配に気付かないわけがない。
「なんで寝たふりなんか…先生の馬鹿野郎」
頭のどこかに僅かに残っている冷静な自分が静止の声をあげているが恨み言が止まらない。今日の自分は何かがずっとおかしい。
「明日早いから様子見てたんだよ。悠仁もお蕎麦楽しみにしてたでしょ?」
「それは…そうだけど。でも、なんか、ずっと腹減ってイライラして、段々ムラムラしてきて、止まんなくて。なんでこんなんなってんのか自分でもよくわかんねぇし」
「うんうん、大丈夫。そんな時もあるってだけだから気に病むことはないよ。明日になったらきっといつもの悠仁に戻ってるから」
優しく諭すように声をかけられて荒ぶっていた悠仁の感情も段々落ち着いてきた。そうなると疲れている五条をこんな癇癪に付き合わせていることに罪悪感が湧いてきてしまう。
「先生、ごめん…」
ぽつりと呟けば優しく髪をかき混ぜられた。その掌の暖かさにまたじわじわと胸が締め付けられる。
しょんぼりと俯くと…元気いっぱいのサトルくんと目があった。
(先生ずっと出しっぱだったん?話してる間も萎えずに?これは先生もやる気ってことでオッケーだよな?)
切り替えが早いのは悠仁の長所である。
「……ごじょうせんせい」
「ん?」
「ちんちん舐めてもいい?」
「………イイヨ」
五条の股間に顔を寄せながらちらりと頭上を伺うと、形の良い耳がほんのり赤く染まっていた。一応説教?の間勃ちっぱなしだったのは恥ずかしいらしい。
(こういうとこ可愛いよなぁ)
嬉々として悠仁は再び五条のペニスにしゃぶりつき、それから胎の中も満たしてもらって(けれど、どんなに強請っても避妊具なしでは挿れてくれなかった)ようやくその日は眠りにつけた。
翌朝。ツキツキとした下っ腹の痛みで悠仁は目覚めた。昨夜のセックスのせいだけではない、身に覚えのある倦怠感に眉を顰める。
嫌な予感を覚えつつ、抱き込まれていた五条の腕をどけてトイレへ向かった。
便器の前に立ちボクサーパンツを引き下ろす。
グレーの布地に浮かぶ赤黒い染みに腹の底から溜め息が漏れた。
道理でやたら苛立ち、食欲が爆発していたはずだ。
いつもの周期より早いタイミングだったのでこのせいだと気付くことができなかった。
便器に腰掛けカラカラとトイレットペーパーを引き出す。
どんよりとした気分に苛まれていると、ペーパーホルダーの上に小さなカゴが置かれていることに気が付く。
中に入っていたのは新しい下着と生理用品。
自分で準備していた覚えはない。タイミングがずれていたせいで今回の泊まりの荷物に入れることすらしていなかった。
ということは。
「…なんでいつも使ってるやつ知ってんだろ」
諸々気になることは多いがひとまず腹が減った。
蕎麦は楽しみだがその前に腹の中に何か入れておかねばならない。
着替えを終えてリビングへ向かった悠仁を、マグカップいっぱいのホットミルクが迎えてくれた。