遡行し続ける鶴丸といつも救えない彼女、その一回目の追憶 故人のことは声から忘れていくというが、俺はそれが嘘だと知っていた。何度も時を遡り、この体の齢が数百を数えようとも、俺は覚えていた。声も言葉も記憶から消えはしなかった。少し震えて、常よりかは上擦って、珍しくこちらを真っ直ぐと見ながら唇をひらめかせた女の。
『墓の下はどんなですか、鶴丸。私の知ってるこことどれだけ違いますか』
いつも緊張に体を固くして、青白い顔をしていた。最初の彼女は本丸から一度も出ずに亡くなった。二十五年生きて、一度たりとも箱庭の外を見なかった。女の世界は動かぬもので埋め尽くされて、ぴたりと整った景趣と刀剣男士たちとがすべてだった。動くものといえば己くらいだろうかと思うと、残酷な動揺がよく胸をときめかせた。女の世界の、おそらく九割ほどを自分が占めている実感は快いものだった。まるで刀のような人生だったと思う。使われない限りは永劫にしまい込まれて、しかし錆び朽ちぬようにと命だけは守られて、まんじりともせずに目をひらいているしかない置物のような。女は生まれた時から人間だったけれども、人もどきの刀よりよほどつまらない人生を送っていた。「人生を送る」という積極的な言葉が似つかわしくない、座敷にぽつねんと置かれているだけの女だった。
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