魂に刻まれた赤─────昔から、繰り返しよく見る夢がある。
それは一面の銀世界で、私は地に伏せており、仰向けになって天を仰ぎ見る視界には、男が1人。
男は私の手を取って、悲痛な面持ちで私の事を見つめている。
私の手を握る手の温度は、温かく、とても心地良い温度で……
とても、安心した。
男の顔はあやふやにぼやけて判別がつかないが、今にも泣きそうな顔をしていると、まるでそれを見たことがあるかのように、私は妙な確信を持っていた。
視界から男が消える。
先程まで手にあった温もりが、私の体を包み、この氷のように冷えきった体に染み込んでいく。
あたたかい
私を抱きしめてくれるその背に手を回そうと、腕を持ち上げる力も今の私には残っていない。
男の顔はやはり見えなかったが、泣いているのだろうと思った。
視界の端に、男の赤い髪が映る。
サラサラとした、鮮やかな赤毛の長髪。
いつの間にか、随分伸びたものだ。と、私は感じている。
本当はその髪に、私の指を絡めて……くしゃくしゃと頭を撫で回してやりたかった。
歯がゆい気持ちを覚えながら、男の肩に頭を預けると、さらに強く抱きしめられる。
一向に私の体は熱を持たず、男の体温だけが奪われていく。
『────』
夢の中で、私が男の名を呼ぶ。
音は聞こえず、何と言ったのかは分からないが、男は顔を離して私の方を向いた。
『……いきろ、お前は…幸せになれ……それが、余の……願いで、最期の……命令だ』
掠れた声が己の口から発せられる。自分のものでは無い、女か男か区別のつかない声だ。
それを聞いた男は目を見開いた、海のような青い目から涙が溢れる。私には見ることが叶わないが、様子が頭に浮かぶように描かれる。
意識がこの夢から遠く離れていくのがわかる。これが夢からの覚醒か、はたまた永遠の眠りなのか。
夢から冷める前に、この世界から消えてしまう前に。男に伝えねばならないことがある。
『……あいしている、余のいとしいひと────』
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全身汗だくになりながら目を覚ます。
この夢を見た時は決まってこうやって目を覚ます。今まさに動き始めたとでもいうように、心臓が早鐘を打っている。
頬を伝う雫が、己が泣いていたのだと自覚させてくる。
「……大丈夫?」
声がした方を見れば、ルシアがいる。
深い赤の髪、片目だけだが、空のような青の瞳。
「……どうして…」
彼が心配そうな顔で我の方を見ている。
どうして、隣にいるのがあの人じゃないんだろう
ふと口をついて出そうになった言葉の続きは、心の中だけで留めておくことにした。