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    bumilesson

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    12/17のイベントで無配にした8番出口はエク霊バージョンでしたが今回は芹霊バージョンで。全年齢です。

    8番出口(芹霊バージョン)※こちらの無配は今話題のゲーム『8番出口』を元にしています。未クリアの方はご注意ください。
    (ネタばれを大幅に含みます)
    ※こちらは芹霊バージョンです



    「何だここは…」

     目が覚めたら地下鉄の構内のような通路に居た。携帯を取り出しても圏外。出口、の案内に従って歩いてみるがまた元の場所に戻ってくる。モブも捕まらない。一体ここはどこで俺は何故こんな不可解な場所に居るのか理解出来なかった。2回同じ出口から戻ってきたところでようやくこの看板に気付く。
     
    『異変を見逃さないこと』
    『異変を感じたら、すぐに引き返すこと』
    『異変が見つからなかったら、引き返さないこと』
    『8番出口から外に出ること』

     つまり俺は無限ループのような地下回廊に閉じ込められたらしい。異変に気付かないまま出口に向かっていたが実際は同じ場所に引き戻されていただけだった。ここを出るには通路の異変に気付くしかない。ここには誰もいない。
    俺は一人だ。でも出るしかない。
     こんな時、あの力強い腕があれば。俺を背にしてきっとあいつならこう言うだろう。
     『任せてください』。
     俺の頼れる大黒柱にして恋人はこの窮地に共に立ち向かうはずだ。しかしあいつはここに居ない。自分が見守り育ててきたと思ってきた男の背中の厚みを知って随分経つ。その間に確実に芹沢は成長して俺をいつの間にか支える側に回っていた。
     この不思議な場所は俺のその甘えを切り離す為に生まれた怪異なのかもしれない。芹沢に頼らず、モブやエクボもいない中一人でこの窮地を切り抜ければ俺は立ち止まり、芹沢の傘の中に入ったままだ。進むしかない。

    「なあ!あんた何か知ってるんだろ!なあ!」
     しかしおっさんは携帯を見たまま黙って通り過ぎてゆく。そして角を曲がるとその姿は消え、また出口8番から現れる。声を掛けても何も返ってこない。また消えて現れる。このおっさんの正体はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)、話しかけても意思のある答えがあるわけではない。しかしこのおっさんそのものが異変である可能性は高い。おっさんにも注意しつつ、俺は出口を目指した。
     まず一周。異変は感じなかった。0番出口、の案内だったスタート地点の看板は1番出口に変わっている。数字が増えた。どうやらこの数字が増える程出口に近づくようだ。また8番出口を目指して地下通路を歩き、おっさんとすれ違う。今度は数字が0に戻った。異変を感じずに無視して通路を歩くと数字がリセットされてまたやり直し、という事か。異変を感じて引き返してこなければ数字は増えず、永遠にループしたままになるというルールを俺は理解した。
     腹を括るしかない。とりあえず俺の嫌いな虫系の異変が出ない事を祈ろう。俺は足音を響かせて通路を歩く事にした。

     1週目。怖い。とにかく何か怖い。異変を感じたら引き返せ、という事は必ずこの短い通路に仕掛けがあるという話。革靴が立てる音がやけに大きく響く。ん、音が違う箇所がある。これか。おっさんとすれ違いつつ道を引き返せば1番出口になっていた。
    まず1番目はクリアしたようだ。一体何個の異変がここにはあるのだろう。目を瞑って走って通り抜けたいがそういうわけにもいかないようだ。
     2週目に入った。曲がり角を越えて、まず一発目で明らかな異変だ。壁一面の禁煙ポスター。さらにそれが床を覆っている。『禁止』の赤いバツ印がここまで重なると異変というよりも異様で見ているだけで背中がゾクッとする。向かってくるおっさんを無視して引き返す。2番出口になった。

     こうして俺は数々の異変を感じては引き返す、を繰り返した。途中、何も異変が起きないと感じて真っすぐ通路を進むと番号が0に戻る。こうなるとまた1からやり直しだ。何度このループを繰り返したか分からない。おっさんは不気味にすれ違う(途中おっさんにも異変があった事はここでも記しておく)。

    「もう…何度目のループだよ!モブ、芹沢!あとついでにエクボ!誰でもいいから早く来てくれ!!」
     叫んでみてもおっさんは通り過ぎ、俺の声は地下に虚しく響く。何週目かを繰り返したところで、突き当りを進む。

    「やった…!出口だ…!」
     唐突に地上へ向かう出口が現れた。角度のついた階段の先は光輝き、地上がどうなっているのかは見えない。一刻も早く出口へ向かいたい俺は階段へ急ぐ。

    『待ってください。ここは俺が』
     階段に近づいたところで頭の中で声が響く。低く落ち着いた声で俺を制するそれは頭の中で明確な意思を持って警告をしてきた。
    『あなたはそんなに簡単に与えられたものを選ぶ人でしたか?』
     そうだ。俺が一番信じないもの、それは自分自身だ。もう一度最初の看板を思い出す。

    『8番出口から出ること』。

     そうだ、この出口は8番じゃない。俺はダッシュで引き返す。看板の前に戻れば出口の数字は増えていた。やはりそうだった。俺は俺自身を一番信じていない。俺が信じるものが、逆に自分から少しずつ依存のような関係から切り離さなければならない存在であった事に改めて気づかされる。何とも皮肉なことだ。

     ループを続け、俺の足もさすがに疲れてきたようだ。異変を察するよりも前に俺は黙って地下通路を進んでいた。
    「え?」
     地下通路の突き当りから水音が聞こえてきた。最初は小さかったそれが轟音となり俺に向かってくる。
    「うおおおお!!スーツが汚れちまう!!」
     大量の水、それも色は血を思わせるような赤い水が押し寄せてきた。ヤバい、これはダッシュで逃げなくては。すくむ足を無理に動かし俺は必死に短い通路を引き返す。看板の前まで戻れば水は引き、何とか助かったようだ。看板の数字も増えている。
     そうか。異変を感じて引き返さないままループを繰り返すとこういった異変が現れるのか。考えたくないがあの水に触れればまたループするか最悪、即死だ。ここがゲームの世界の中で俺がそこに閉じ込められているのだとすれば十分考えられることだ。
     おっさんは水の中から現れるのかは分からないが、少なくとも俺と同じ生きた生身ではないと思われる。ここがモブたちの超能力が通じず、外の世界と完全に切り離された異界であることを考えれば俺がゲームの中に閉じ込められたと考える方が理にかなっている。
     ゲームマスターの作った世界を破る方法は、そのルールに従ってクリアすること。俺はファンタジー地獄の中でそれを嫌でも味わっている。もうこの通路から出る方法は異変に気付くしかない。もうこれ以上のループは避けたい。俺は気を取り直して再度通路に向かった。

     角を曲がる。おっさんはいない。だがおっさんがいないことが異変なのではない。
    「せ、芹沢?」
     男が通路の奥に立っている。ネイビーの見慣れたスーツの姿で、真っすぐ俺の方を向いているが顔は見えない。まさかこんなところで俺を救いに来てくれたのか。やっぱり来てくれたのか。胸を撫で下し、安堵して俺は引き寄せられるように足を進める。
     
    『異変を感じたら引き返すんですよ』

     頭の中に声が響く。ちがう、これはあいつの警告の方が正しい。
    「そうだった!異変だ!」
     俺は元の道をダッシュで戻る。こんな場所に現れた芹沢に安心している場合ではなかった。あれは俺の弱い心を写す鏡のような怪異だ。近づいてはならない。違う、俺は出口を探してまた地上に戻るんだ。8番出口を求めて。

     正解だったようだ。引き返せば番号が増えている。
    番号は8。間違いない、8番出口だ。ここを通ればもう地上だ。俺の足取りは軽い。急いで走り抜けようとした瞬間、キィ、と小さな音が響いた。ドアが開いた音だ。これは、出口が開放された音だろうか。速度を落として通路を歩む。
    「―――!!」
     ドアの隙間から誰かが覗いている。ダメだ怖い怖い怖い。また引き返さなくては。俺はまた看板のところに戻る。ループはせず番号は増えても減ってもいない。
    「……もしかして全ての異変を見つけるまで帰れないのか?」
     振り返ると看板がまた増えていた。

    『あと〇個異変があります』。

    ……勘弁してくれ。半ば気が狂いそうになりながら俺は通路を彷徨い続けた。出口は見えているはずなのに。どうして俺は戻れない。
     あと異変は一個だけ。これを見つけたら俺は帰れるはずだ。しかしどこにも異変が見つからない。このままだとまた通路を出てしまい番号が戻ってしまう。
    『前を見てダメなら後ろじゃないですか?』。
     また頭の中で声がする。声に促されて振り返る。
    『引き返せ』の文字。重なるとそれが強い警告となって俺の身の上に降りかかる。最後の異変はこれだ。俺はまたダッシュで戻る。番号は変わらない。

    『すべての異変が見つかりました』。



     看板を信じて通路の奥を進む。そこには角度のついた階段、そして出口表記は8番。
    「やっと……抜けられる……。」
     階段を踏みしめるように登ってゆく。光が眩しい。俺は戻れたのだ。
    「遅かったですね。待ってました」
    最後の一段を登りきると見慣れたシルエットが俺を出迎えていた。その顔は光で塗りつぶされていて見えない。でも確かに俺を待っていてくれた男だ。横断歩道の音が聞こえて俺は出迎えた男の手を取っていた。

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