【悪霊と詐欺師がうすい本のネタを提供してしまった話『はい.皆さんこんばんわ.本日も始まりました。【悪霊と詐欺師のぶった切りNIGHT】のお時間です.わたくし詐欺師の霊幻新隆です。で、こちらは皆さまおなじみボケの」
「俺様ボケじゃねえ、上級悪霊エクボ様だ」
軽快なBGMとオープニングの二人の番組タイトルコールを使ったジングルと共に美声がブースに流れる。
「はい、今日も上級悪霊様のボケが冴えております。こちら本日2月2日金曜日、時間は21時でございます。はい、今日はですね。まずエクボさんあなた何か言いたい事があるそうですね」
「おう、もうこのラジオ聞いてる奴らにな、俺様言いたい事があるんだよ」
「また今日も偉そうですねー。リスナーバカにしちゃいけませんよ。で、何が言いたいんですか?」
「あのな.今日.まもからこんな事を言われたんだが」
「まもね、護さん、このラジオ聞いてる方にはおなじみの。はい、エクボさんの双子の弟で俺たちのマネージャーです。元(笑)の。人間年齢三十二歳のオッサンがまもっていうのはキモいかもしれませんが、何しろエクボさんブラコンこじらせなんでそこは勘弁していただきたいですが、さて護さんが」
「そう、まもがな。事務所に俺ら呼んで。で、こういうものが事務所に届くと。で見せられたのが!俺らの!」
「そうなんですよ。これわたくしも一緒に見まして。びっくりしました。えー、わたくしとエクボさんが」
「びーえるとやらになってるらしい。俺と霊幻が出来てると」
「腐女子の皆様から事務所に薄い本が大量に届くという護さんからの苦情でございます」
「何でだ」
「何で我々が出来てるという話になっているんでしょうかね。えーと一番多いのが、わたくしが霊能者と偽って霊能事務所を経営していて、能力がないのに様々な問題を霊のせいと言って解決すると。で、時々本物の霊関係の仕事が入ってきた際などにエクボさんがそれを手伝う上級悪霊という設定の。あの我々のネタになってるやつが元になってるという。で、我々が何か恋人同士らしいんですね」
「なーんで俺様が霊幻の仕事を手伝うあげく恋人同士だかになんなきゃならねえんだよ。漫才のネタだぜこれ。しかも詐欺師のくせに何だ所長って偉そうに」
「ま、想像は自由ですし。色々ね。こう漫才のネタが広がっていくという事なんでしょう。それでわたくしどもがうすい本というものにされているという」
「別に迷惑とかじゃねえが。まあびっくりするよな」
「ええ。しかも皆さん漫画がとても上手い方が多くてですね。小説とかもあったんですが何かうすい本じゃなくて分厚いのが多いんですね。はー。すげえ世界だと思いましたが皆さん本当俺とこいつは全く出来てはいませんので」
「出来てねえな」
「出来てません。で。護さんからはうすい本についての内容ではなく。事務所に置き場がなくなって困るので出来たら事務所には送らないでいただきたいという要望をいただきました」
「うちの事務所な、変なスタッフが多くて変なグッズが一杯あって狭いからな」
「ダサロゴマグカップとか一杯あるもんね。お前んにちにもあるけど俺ももらってお前んち置いてなかったっけ」
「うちにおきっぱだな。あれ。何度見てもダセえロゴ」
「あ、一時期わたくし家がなくてM1のネタ作るのにエクボさんちに間借りしてた時期がありまして。で。そこで使ってたのがダセえロゴマグカップでございます」
二人はこのマグカップがいわゆるペアマグカップになっているという事に気付いていない。
「もうな。何だあの。ツメ。ってカタカナのロゴマーク誰考えたんだよ。ダセえ。……あ。社長?」
「うちの怖いあの鈴木社長が描いたロゴだと。はい。スタジオのガラスの向こうで護さんが一生懸命手を振っております。エクボさんあれ社長お手製のロゴだそうですよ」
「……ロゴの話はなかった事にすんぞ。で。次だ。俺と霊幻は出来てねえ」
「出来てませんね」
「出来てねえ」
「大体エクボと俺、本当喧嘩ばっかりしてて気が合わないんですよ。M1の時もネタ作っててまた喧嘩してってのが準決勝まで続いてまして」
「本当毎日のように喧嘩してたよな。お前さんは頑固で折れねえし」
「いやそれ言ったらエクボさんこそまー頑固で頑固で。絶対謝らないんですね。とにかく意地っぱりで困ったもんです」
「気分転換にヤニ吸ってくるって言って一日帰ってこねえよりマシだろうが」
「たまには気分転換しないとダメですよ。で。公園で時間潰してたらエクボさん来まして」
「あー。何かあんときは結局お前さん謝んねえまま終わったよな。ブランコ漕いでたらどっちがてっぺん取れるかになって」
「そうなんですよ。突然ブランコ漕ごうぜとか言いだしまして。この上級悪霊様。で俺も何か楽しくなってきて結局どっちが高く上がるかとかやってたら喧嘩の理由忘れましたねww」
「いつもこんな調子で喧嘩ばっかりして全然俺ら仲良くねえんだよな」
「出来てませんし」
「出来てねえな」
「わたくしがエクボさんちにいたのも結局金がないのとネタ作りの為だけでしたので。全く出来てませんし。毎日喧嘩ばかり続けてましたね」
「この口から生まれた詐欺師がいらねえ事ばっかり言いやがるからだ」
「わたくしそんないらない事申しましたでしょうかね。はて。エクボさん」
「お前さんよお。飯の味付け!もう少し薄いのがいいとか塩分高めは身体によくないとか何とかぬかしやがってまたこれで喧嘩になってな」
「いえね、エクボさんの健康の為を思って言ってるんですよ。塩分高めは高血圧に繋がりまして。今あなた何歳でしたっけ?」
「五百と三十二歳ってところか」
「五百歳はおいといて三十二歳成人男性。自称上級悪霊の健康が気になるわけですね。あなた死ぬとわたくしの飯の種がなくなりますんで。いや味はいいんですよ。先日は何作ってましたっけ」
「ブリが安くなってたからブリ大根な。最初に大根を少し米粒入れてから煮ると大根の臭みがなくなるんだ。で。味噌を俺様は少しだけ隠し味に入れてる」
「どんどん料理スキルが上がってるのはいいんですが、白飯が進むような濃い目の味付けが多いので胃潰瘍から回復したわたくしご飯が進んでしまい。太り過ぎないか心配でございまして」
「胃潰瘍放置したまま舞台上がる詐欺師に健康心配されたかねえな。作ってやってんだから贅沢言うんじゃねえ。食費しか出してねえくせに」
「あ、でも掃除は俺が担当してたし。部屋は綺麗にしてたろ」
「うちそもそもモノがねえんだから掃除の手間もかからねえだろうが。1DKだぞ」
「あの狭い1DKですが。本当にモノがないんですよ。風呂がついてるのも奇跡みたいな」
「今時バランス釜の風呂でよ」
「でもトイレとは別なんですよ。これが。かろうじてユニットじゃないという」
「二人で入ったらもう狭くて狭くて大変だったよな」
「そうそう。もう狭くて大変で。あ、二人で入ったって言うのはあれです水道光熱費の節約で」
「俺ら準決勝進出決まってバイト辞めて金がギリギリでな。なるべく光熱費浮かせる為に仕方なく風呂に一緒に入ってって話だ」
「もうね。仕方なく。やむを得ず。って事で一緒に入っただけですから」
ここでまたガラスの向こうから護のハンドサインが入る。それ以上喋るな。と手を交差させて×を送っている。再びジングルが流れ曲に入った。
「なので俺たちは出来てません」
「出来てねえ。大体お前さんのAⅤの好み清楚系の色白巨乳だしな」
「いやそれごく普通の趣味でしょ。そういうエクボさんはオフィスモノって言うんですか?あなたスーツフェチですよね」
「たまたまだろ」
「あなたのAⅤコレクションがスーツ一択なんですよね。それもリクルートスーツじゃなくて灰色とかのちょっと普通その色選ばないだろって色のスーツ着てネクタイ締めてるんですよね。ピンクの。スタイル良さげな女優さんが事務所っぽいところでこう何か致してる系のやつ買ってましたよね」
「そうか?気付かなかったが別に決めて買ったわけじゃないぞ。たまたまだ。たまたまそうなっただけで」
「配信じゃなくてパケ買いしてんですよエクボさん。しかもスーツで金髪という清楚なんだかビッチなんだかよく分からないの買ってましたね」
「そういうお前さんはやたら男優がデかくて髪が短くて黒髪系だよな。いい身体してて筋肉ある奴な。同じ男優か?何か似たの買ってんな。おい」
「え―――たまたまです。たまたまそんな男優さんに当たってしまいまして」
「それ言うならたまたま俺もグレーのスーツで金髪の女優のを買っただけだからな」
これ以上はまずいとディレクターとマネージャーの護の判断により曲が流れる。トークの途中をぶった斬るような流れになったが放送事故一歩手前で防ぐ必要がある。
「えーとAVの話はさておきまして。我々本当に出来てはいませんので。あとうすい本を読ませていただいたんですが。一部。ちょっと言いたい事がありまして」
「おう。なんだ」
「わたくしの性感帯が乳首であると何故皆さん知っているんでしょう」
「あれ謎だよな」
「もしかしてうすい本を描かれている方は……超能力者?」
「いや。それが一点間違いって言うか訂正しなきゃなんねえとこあるよな」
「何でしたっけ」
「お前さんは左の乳首の方が感度いいよな」
この瞬間。護からの盛大なストップコールが入りラジオは強引にCMに入った。とりあえず場を元に戻そう。平場に戻そうとCM中に指示が入る。15秒のCMの後。ジングルが再びスタジオに流れまた二人のトークが再開された。
「これでもう誤解受けねえな!」
「そうそう。俺ら出来てないし!これで事務所にうすいびーえる本来ないから護さん安心して!」
ここは二人の息がぴったり合った。そうして時間が経過し。ラジオが終了した。
そんなご機嫌な二人に反して護の顔色は悪い。とりあえず事務所に明日行ったら二人の薄い本の保管場所を考える必要がありそうだと眉を寄せていた。
二人の思惑を他所にその日のLF。ラジオ聴衆率。は過去最高になった。この流れを受けて関東ローカルでのみオンエアされていた二人のラジオも改変時には聴衆エリアが拡大される運びとなった。
益々悪霊と詐欺師の活躍が期待されるようになったのはいいが。護の予想通りその後も二人の薄い本は事務所に届き続ける。それでも未だに事あるごとに自分たちは出来ていないと主張するコンビを他所に。腐女子の皆様の人気は登り続ける一方となっていった。知らぬは本人たちばかり。今日も腐女子の皆さんに無意識に悪霊と詐欺師は燃料を投下し続けていた。