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    とわこ

    @towako71

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    とわこ

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    あおはねさんの蒼くんへの想いにじたばたする斗和くんのほんのりとわあおとわ

    どんなに苦しい時も、はたまた楽しい時も、等しく時間は過ぎ去るもの。
    準備期間も含めたら、とても長い間生徒たちの話題の中心だった文化祭も、今夜で終わりだ。

    後夜祭、学年クラスの垣根を越えて交流する面々を尻目に、斗和はいつものように蒼の姿を探して会場内をうろうろしていた。

    まさか自分の目の届かないところで、告白イベントでも起こされていたら……と、斗和は気が気ではない。
    文化祭最終日、後夜祭の喧騒を遠く感じながら、静かなところで告白を──なんて、いかにもありそうで恐ろしい。
    蒼に彼女が出来ようが彼氏が出来ようが、幼なじみに過ぎない斗和には口を出す権利はない。
    蒼が選んだひとであるならば、斗和は笑顔で祝福しなくてはならない。

    とは言えそれが蒼に相応しくない相手だった場合、ありとあらゆる手段を使って別れさせるつもりではある。
    ただその場合、蒼は失恋ということになり、少なからず心に傷を負うことになるだろう。
    それは斗和の本意ではない。
    蒼が傷つかず、また、悪い虫が寄ってこないよう、斗和はいつだって出来る限り蒼にくっついていて、蒼に気のある素振りを見せる人物から蒼を遠ざけてきた。

    斗和は、スマホを取り出し、蒼のアカウントを表示する。
    電話か、メッセージか。
    この後夜祭会場は騒がしいので、声がよく聞こえないかも知れない。
    取り敢えず、斗和はメッセージを送る。

    -----------------------------
    蒼兄様、いまどちらですか?
    後夜祭、参加してますか?
    -----------------------------

    既読は直ぐに付いた。
    返事を期待していると、予想外に電話の着信がある。

    「もっ…もしもし?兄様?」
    『斗和?ごめん、僕、ちょっと先生に呼ばれてて』

    周りのうるささで聞き取りにくいが、蒼の声を聞けて斗和はほっとした。

    「そうなんですか。先生のお手伝い、ですか?オレもお手伝いしましょうか」

    そう申し出た斗和に、蒼は居残りで課題を片付けていると言った。
    2年生の課題なら、1年生の斗和に手伝うことは出来ない。

    『斗和は先に帰ってて。バイオリンの練習、サボっちゃ駄目だよ』
    「はーい……」

    ぷつり。
    蒼の方から通話が切られる。

    蒼のいない後夜祭、楽しめる気がしない。
    斗和はとぼとぼと会場を後にした。



    帰宅した斗和は、日課であるバイオリンの練習をしていた。
    自分は天才ではないと知っている。
    だから、努力しなくてはいけない。
    なのに。
    なのになのに。
    『先に帰ってて』と告げた蒼の、素っ気ないともとれる態度がどうしてもこころにひっかかり、集中ができない。
    同じところで間違うこと実に十数回。

    「……やめた。」

    斗和は弓を下ろし、今日の練習を終えることにした。

    防音室から自室に戻った斗和は、またスマホを手に取り、画像フォルダを開く。
    凛としたメイド姿の蒼の写真を見て、自然とため息が零れた。

    「この蒼兄様めっちゃ美人。楽しかったなぁ、文化祭」

    本当なら、後夜祭名物のキャンプファイヤーを見つめながら、文化祭の思い出話を蒼としたかった。
    色々なクラスの展示や出店を回ったが、やっぱり女装メイド喫茶での蒼の女装は、斗和の心にくっきりと残っている。

    周りの人達、ざわついていたなぁ。
    まあ兄様すごく似合ってて綺麗だったしな。

    思い出して、斗和はもやっとした。
    それは紛れもなく独占欲なのだが、斗和にとっては“兄離れ”できない自分が情けない、としかまだ自覚はできていない。

    ピロンッ

    写真を写した画面に、メッセージの受信を告げるバナーが現れた。
    蒼からだ。
    斗和の心臓がどきりと跳ねる。

    -----------------------------
    後夜祭、一緒に出られなくてごめん。
    -----------------------------

    一言だけのメッセージだった。

    でも、斗和はじわじわと口許が緩むのを抑えられない。

    -----------------------------
    居残り課題お疲れ様です!
    蒼兄様、もうおうちですか?
    後夜祭は参加したんですか?
    -----------------------------

    即座にメッセージを返すと、斗和はぼふっとベッドにダイブした。

    「早くお返事来ないかなーぁ」

    足を無意味にばたばたさせて、何度も受信したメッセージを眺める。

    後夜祭で、蒼がフォークダンスでも踊っているのだとしたらどうしよう、と斗和はふと思いあたった。

    女子生徒と手を繋いで踊る蒼を想像すると、すごく嫌な気持ちになる。
    斗和が最後に蒼と手を繋いだのは、いつだっただろうか。

    メッセージを貰って嬉しかった気持ちを塗りつぶすように、斗和の心に焦りが生まれる。

    後夜祭でなくとも、クラスの打ち上げで告白イベント…という可能性もなくはない。

    蒼が、自分でない誰かのものになるなんて。

    「あーーーーーっ!!!!!ヤダヤダヤダヤダ!!!!!だめーーーーーっ」

    斗和は嫌な想像を、頭をぶんぶん振って追い払った。

    蒼は、ピアスバチバチな割に真面目なところがある。
    だから、告白されて、すぐ付き合うなんてことはきっとしない。

    そう思いたいのに、蒼の優しさ故に流されやすい一面を知っている斗和の頭の中では、困った顔をした蒼に、見知らぬ女の子がぐいぐい迫るのをやめない。

    『あおくん、すきよ、だいすき』
    『そんな事言われても……』
    『キスしてくれないとなくわ』
    『泣かないでよ。いいよ、キスくらい……』

    「………っっっっ!!!!絶対だめ!!!!!!」
    斗和は自分の勝手な妄想に我慢出来ず大声を出す。

    「蒼兄様とキスなんて!そんなのだめっ、ずるいっ」

    ずるい、だなんてワードを無意識に口にしていることに気づかない斗和。
    明らかに兄のように慕う範疇を超えている。

    ピロンッ

    顔を覆って大騒ぎする斗和の耳に、メッセージ着信の音が届いた。
    がばっと飛び起きて、スマホに齧り付く。
    思った通り、それは蒼からのメッセージだった。

    -----------------------------
    後夜祭には結局行ってないよ。
    いま家に帰ってる途中。
    -----------------------------

    ほっと斗和は胸を撫で下ろした。
    告白イベントは結局起きなかったらしい。

    でも、いつか、蒼が“斗和の蒼兄様”でなくなる日は必ず来るのだ。
    遅かれ早かれ、きっと。

    今回文化祭を一緒に回り、斗和は自分が見た事のない蒼の一面を少しだけ見ることになった。
    そのことが、斗和の意識を少しだけ変えた。

    自分以外にも慕われる蒼。
    親しく言葉を交わす同級生の存在。
    男女問わず蒼に話しかける者は多かった。

    1年遅く生まれてしまったばかりに、と、斗和は溜息をついた。




    その日、蒼が何をしていたのかも知らず、斗和は蒼の純潔を守るのは自分の使命だと、気持ちを新たにしたのだった。

    守り続けた純潔を、自分の手で汚したい、そんな欲望こそまだ芽生えずだが。

    斗和が、はっきりと蒼への感情の意味を知るのは、もっと斗和が大人になってからの、──遠くはない未来の話。
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