エーリッヒに穢らわしいものを見る目で見つめられて、シュミットは身体が凍りついた。
「あなたが僕をそんな風に思っていたなんて」
思わずエーリッヒにキスをしてしまったシュミットを押し退けて、エーリッヒはそう言った。
「もうあなたなんて、親友ではありません」
「待ってくれ、エーリッヒ。すまなかった、」
「聞きたくありません。もう僕に近づかないでください」
「エーリッヒ!待って、」
シュミットが伸ばした腕はエーリッヒに叩き落とされた。
エーリッヒはシュミットに背を向ける。
去っていく背中に向かって、シュミットは何も出来ず、ただ「エーリッヒ!エーリッヒ、待ってくれ……エーリッヒ!」と叫んで──
「シュミット?大丈夫ですか?」
目の前にエーリッヒが、今度は心配げな顔つきで大写しになった。
顔を覗き込まれている。
横になっていた身体を起こしてシュミットはエーリッヒにがばっと勢いよく抱きついた。
「エーリッヒ、ごめん。すきになってごめん。離れたくない。行かないでくれ…すきなんだ、エーリッヒが。ごめん……」
「……シュミット?僕はどこにも行きませんよ」
驚いたエーリッヒの声が、シュミットの不安を打ち消した。
「そばに居ますよ。今までも、これからも、ずっとずっと。……僕もあなたが好きですよ、シュミット」
はにかんだ顔をしてエーリッヒが言うから、シュミットは少し甘えて
「本当か?なら、キスしてくれ……」
と目を閉じた。
目が覚めると、いつもの自分の部屋だった。
シュミットは起き上がると頭に手をやり、先程まで見ていた夢を反芻する。
エーリッヒは結局キスをしてくれたのだろうか。
せっかくの夢なのに、覚えていなくて、シュミットは残念に思った。
だが、エーリッヒの口から「好き」と言う言葉が聞けたのだから、まあ良い。
シュミットはこっそりと、「ふふ」と笑った。
「あ。起きました?おはようございます、シュミット」
同室のエーリッヒが、声をかけてくる。
夢を思い出して気恥しい。
早起きな彼は、とっくにベッドから離れていた。
「おはよう、エーリッヒ」
目を見れずに挨拶をすると、何故かエーリッヒはシュミットのベッドに乗り上げて来た。
戸惑うシュミットに顔をぐっと近づけて、エーリッヒは「おはようのキスをしたいのですが……いいですか?」と訊ねた。
「え?キス?」
「はい。……恋人になったのですし、良いでしょう?」
エーリッヒは嬉しそうにそう言う。
シュミットは寝耳に水だ。
「ま、待て。恋人?誰と誰が?」
「寝惚けてます?僕と、あなたが。他にいないでしょう」
言いながらもエーリッヒは、シュミットの顎を掴み、親指でシュミットの唇をなぞり、待ちきれないと言うように顔を更に近づけて来た。
「恋人って……なんで?いつから?」
「昨夜、告白してくれたでしょう、僕のことが好きだって」
「昨夜……?」
シュミットは少しずつ、頬が熱くなるのを感じた。
まさか。
まさか、あの夢って。
「僕も好きです、って答えたじゃないですか。だったら、もう恋人でしょう?」
エーリッヒはうっとり、昨夜のことを思い出しているようだ。
「昨夜は……寝惚けていて………嘘だ、夢じゃないのか…………?」
「夢だと思っているんですか、あなた。キスまでしたのに」
「キス……!したのか、エーリッヒ?!」
「しましたよ」
エーリッヒは少し気に障った様子で、眉を顰めた。
「覚えてないなら、じゃあこれが、僕達の初めてのキスになりますね」
「エ、エーリッヒ」
シュミットが止める間もなく、唇はエーリッヒの唇と重なった。
ちゅ……と音を立て、すぐにエーリッヒは離れる。
シュミットは真っ赤になって、固まっていた。
「今更、好きじゃないなんて言わないですよね?」
エーリッヒは拗ねたように訊ねた。
シュミットは、俯きながらなんとか言葉を口にする。
「好きだよ……エーリッヒ。お前が好きだ」
今度は喜色満面で、エーリッヒがもう一度、シュミットの唇を塞いだ。