相手にされてないことなんて、分かってたけど。
そんな嬉しそうなカオ、しないでよ。
「あ、リーダー!どこ行ってたの?」
寄宿舎の、無人の談話室でリーダーを見つけて、俺は駆け寄る。
今日は朝から姿を見てなかった、半日ぶりのリーダー。
気のせいか、機嫌が良さそう。
「姿が見えないから、心配してたんだよ?」
「俺はこどもか?ちょっと街に出て、ランチとショッピングをするくらい良いだろう」
「何それ。誰と行ったの?おっかしーな、俺誘われてないけど?」
俺は内心の不満を隠しておどけて言った。リーダーは笑って、「シュミットとだよ」と短く答えた。
……シュミット?
「エーリッヒも一緒?」
「いや?ふたりだけで」
「そう。ふたりで……」
俺は知っている。
リーダーがシュミットに淡い想いを寄せていることを。
いや、多分、だけどね?
でも、なんて言うか、シュミットを見る目は違うんだなー!
「良かったじゃん」
思ってもないけれど、にっとわらって見せたら、リーダーは少しだけ視線を逸らした。……いや、泳がせた、と言った方がいいか。
「何がだ?」
「だってシュミットとデートして来たんでしょ。リーダー、シュミットのこと好きじゃん?」
「……!なんで知って……あ、いや………」
しまった、と口を押さえるリーダー。
リーダーにとっては幸い、空っぽの談話室では誰も俺たちの話なんて聞いていない。良かったね、皆、日曜日だから、どっか出掛けてるみたいで。
「見てれば分かるよ」
俺はリーダーのこと、すっごくよく見てるんだよ?
いつもいつも、ね。
とは、口に出さずにおく。
「でもシュミットはやめといた方がいんじゃね?」
さりげなく、注意深く、俺はリーダーの表情を伺いながら、どうでもよさげな調子を装ってそう言った。
「何故だ?」
リーダーはやっぱり多少気分を害したみたいで、眉根がぐっと下がった。
「いやー、だってさ。シュミットは、エーリッヒのこと好きなんじゃないの?いっつも一緒にいるじゃん?あやしーと思わない?」
少しずつ、リーダーの疑心暗鬼を煽っていく俺。
性格悪くてごめんね。
でも、シュミットにリーダーを取られたくないんだ。
黙り込んだリーダーは、俺が言葉を続けるのを待ってるみたいだった。
だから、俺は更に酷いことを言う。
「WGPが終わったらさ、簡単には会えなくなるんだよ。遠距離だし、俺たち訓練もあるしさ。そしたら、シュミットは、いつもそばにいて甘やかしてくれて守ってくれるエーリッヒの方が良いって思っちゃうんじゃないの?ほら、シュミット、いかにも世話焼かれ慣れてる感じだし?あーゆーのは、絶対寂しがりだよ」
「……そうかもしれないな」
リーダーは、はぁっと溜息を吐いた。
ごめんね、リーダー。傷つけるようなこと言っちゃって。
「で?お前はどう思うんだ?」
「え?」
突然、真っ直ぐ見つめられて俺は瞬きをした。
「お前は、エーリッヒの方が俺よりいい男だと思うのか?」
「いや……それは、」
「俺がエーリッヒにみすみす負けると思うか?」
「…………思わないよ」
ああ、そうだよ。
リーダーは、すごくカッコイイんだ。
懐が深い、面倒見のいい、優しくて強くて負けん気も強い、最高にいい男。だから惚れた。
エーリッヒにだって黙って負けてなんてない。
「リーダーは、勝算あるんだね?シュミットのこと」
「ああ」
にや、とリーダーは笑って見せた。
「今のうちに、俺がいないと駄目なくらい、俺をアイツに刻み込んでおく。そうすれば、WGPが終わっても── 離れても、アイツは俺のもののままだ」
「どうやって」
訊ねた声は少し上擦った。
リーダーは肩を竦めて、「それは、今から考えるさ」と答えた。
「だが、次のデートの約束はもう取り付けてある」
「……さすがの行動力じゃん」
「まあな」
「頑張ってね、リーダー」
俺は上手く笑えていただろうか。
今は、良き理解者の立場でもいいから、リーダーのそばに居たかった。
そうしていつか……『俺をリーダーに刻み込んで』『俺がいないと駄目』にする。してみせるよ、リーダー。
それまでは、…………ちょっと切ないけど。
リーダーの恋、見守るよ。