「一緒に住もう」とシュミットと約束して、ほんの数週間後。
シュミットに連れられ、エーリッヒはあるマンションを訪れていた。
立地も申し分のない、高級マンション。
シュミットに渡された鍵で部屋の扉を開けると、広々とした空間が広がって軽く目眩すら覚える。
玄関、に、これだけのスペースを割いているということは、中はもっともっと贅沢な空間が待ち構えているに違いない。
一通り全ての部屋を覗き、エーリッヒはまだ空っぽのリビングに戻ってきた。
待っていたシュミットが、
「どうだ?気に入ったか?ここなら、お前の職場にも通いやすいだろう?」
とえへんとした。
「ええと………そうですね、すごくいい家ですね」
まだ大学を出たての社会人一年目な自分たちには不相応に思えたが、シュミットはこの家を気に入っているようだ。
「それで……ここの家賃はおいくらで?」
エーリッヒが恐る恐る訊ねると、シュミットはけろりとして、
「家賃?いや、ここは賃貸じゃない」
と答える。
「えっ……じゃあ、買ったんですか!?」
「ああ。なにか駄目だったか?」
「…………あの。ふたりで住む家なんですよ。あなたばかりがお金を出すのは…」
「なんだ、そんなことか」
シュミットは、はっと笑い飛ばして目を細め、すいっとエーリッヒとの距離を詰めた。
「金なんて、ある方が出せばいい。気にするなら、身体で私に返してくれ」
とエーリッヒの胸板に手を付き、伸び上がって軽くキスをするシュミット。
「……あなたってひとは、まったく!」
この様子だと、エーリッヒが払うと言ったってきっとシュミットは受け取りはしないだろう。
「分かりました。でも、家具や家電は、ふたりで選びましょうね」
「そうだな」
シュミットはそれにはあっさりと頷いてくれた。
「で、お前はどの部屋を寝室にする?」
シュミットがそう訊ねたので、エーリッヒは首を傾げる。
「お前は?ですか?」
「うん?何か変なことを言ったか?」
シュミットもきょとんと、鏡写しのように首を傾げた。
「寝室、分けるんですか?」
「………えっ」
訊ねると、シュミットはみるみる顔を赤くした。
「同じ部屋で良いでしょう。どの部屋も十分広いんですし」
「う。そ、そうだな。一緒に住むんだもんな……」
途端にシュミットは落ち着きをなくし、照れたように視線を床に向ける。
「ベッドもひとつでいいですよね。枕を並べて一緒に寝ましょう」
その様子が可愛らしくて、エーリッヒは微笑みながら、そう提案した。
「ベッドがひとつ………!!?エ、エーリッヒのすけべ!」
シュミットはまるで処女のように動揺する。
何度も身体を重ねているというのに、未だに一緒に寝るのが恥ずかしいらしい。
「すけべだなんて。まあ、否定はしませんけど……あなただってさっき、身体で払えって言ったじゃないですか。あの発言の方がどうかと思いますよ」
「あれは違う!家事をお前がしてくれって意味だ!別にセックスで奉仕しろって意味じゃない!」
「そんなに嫌ですか?嫌なら、ベッドは別でもいいですけど………」
エーリッヒが残念そうな顔をして引いて見せると、シュミットは慌てて
「い、嫌じゃない………!」
と否定の声を上げる。
「嫌じゃないが………緊張して眠れないかも知れない」
「いつも寝てるじゃないですか、一緒に」
「あれは……!……いや、そうだな。分かった。寝室もベッドも、一緒にしよう」
シュミットは、頬を赤くしたまま、目を逸らしてそう言った。
「一緒に住むって、そういう事なんだよな…」
「そうですよ」
エーリッヒは幸せいっぱいにシュミットを抱き寄せた。
これからのふたりに待っている、甘い甘い生活に思いを馳せ、エーリッヒは恭しくシュミットにキスを贈った。