「お誕生日おめでとうございます」
シュミットはそう言って、跪いて僕の手を取り、甲にキスをする。
お茶の用意が整えられたテーブルに飾られているのは、シュミットチョイスの白薔薇。
いつまで経っても僕は彼にとって敬愛の対象らしい。
「ありがとう、シュミット。こっちにおいで」
僕が両手を広げるとシュミットは素直に腕の中に収まる。そりゃそうだ、だって僕達は恋人同士なんだから。だから。
「何年経てばこの薔薇は赤く染まってくれるのかな」
僕は軽いハグを解き、むにっとシュミットの頬を摘みながらわざと溜息をついてみせた。
「白薔薇より赤い薔薇がお好きですか?」
シュミットは首を少し傾げる。
「いいや、薔薇はなんでも好きだよ。赤も白も黄も。ピンクや絞りや青薔薇だって。でも君からの白薔薇には、“尊敬”の意味があるような気がして。さっきだって、君、手の甲にキスしただろう?」
僕が唇を尖らせて言うと、シュミットは笑って、
「そんなことで拗ねていたのですか?」
と僕の頬に、それから唇にキスをしてきた。
「どんなに月日が経ったって、私はあなたを尊敬しています。けれど、今の私はあなたを恋愛感情で愛してもいます」
ほんのり、それこそ薔薇色に頬を染めるシュミット。
「じゃあ、次からは真っ赤な薔薇をくれる?」
「あなたが望むなら。でも、知らないわけではないでしょう?白い薔薇の花言葉」
シュミットはまたふんわりと僕を抱きしめた。
「白薔薇は、尊敬。それから、純粋、穢れのなさ、そういうものの象徴でしょ?」
僕はすらすらと答える。
「そう。それに、“私はあなたに相応しい”」
「!」
耳元で囁かれた言葉に僕は驚いた。
あの頃からナンバー2として、僕を支え続けてくれたシュミットは、いつだって僕に献身的で、言うなれば副官としての立場を弁えていて。そんな自信満々に僕を愛してくれているとは思っていなかったんだ。
「君は、自分が僕に相応しいと思ってくれているんだ?」
僕はシュミットの後頭部にそっと手を添えて頭を撫でながら訊いた。
「ええ。思っていますよ。あなたはそうは思っていないんですか?」
「いや、確かに君は僕の為に存在してくれているみたいに素晴らしいよ」
僕がシュミットの絹のような髪を梳くようにすると、シュミットは満足気に吐息を漏らし、
「あなたの色に染められましたから。ですから、今更他の誰かのものにはなれません。可哀想な私を棄てないでくださいね」
なんて冗談めかして言う。
「ねぇ、キスしてよ」
僕がねだるとシュミットはふふっと笑って、また唇に、それから頬、額、鼻先、と顔じゅうにキスをしてくれた。