Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    mhyk_tow

    @mhyk_tow

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 7

    mhyk_tow

    ☆quiet follow

    オーエン視点。
    一月のミスオエ新刊のミスオエになるまでの長い道のり。
    まずはリケから堕とすオーエン。終末教団と司祭様殺し。

    #ミスオエ
    misoeye
    #リケ
    rickettsia
    #終末教団
    doomsdaySect

    不義を喜ばないで、真理を喜ぶ。5.不義を喜ばないで、真理を喜ぶ。

     手袋の下に隠れた指輪を、もう片方の指で確かめながらオーエンは鼻歌を歌って、市場を眺めていた。箒のうえから見下ろす人間たちの忙しない動きを見ているのは活力が湧き出てくるものだ。
     中央の国の人間はいい意味で平均的だ。南ほど平和ボケもしていないし、西のように狂ってもいない。東のように根暗で陰湿でもないし、北にいる人間ほど屈強でもない。どの文化もそれなりに育って進んでおり、よく見える欠点とすれば身分の差や貧困の差であろうか。城下町の近くは、それなりに栄えてはいるが、遠くなっていけばいくほど、王子様の知らないような問題ある場所なんて、たくさんある。
     オーエンはミスラとの久しぶりのごっこ遊びに浮かれていた。賢者の魔法使いになる前も、一緒にこうやって遊んだことがある。あそこの魔法使いを仕留めるのは、どちらが早いかなんて競ってみたり、レアな魔法具を見せ合って、どちらがより高値で売れるかでマナ石をかけたり、そんなくだらないことでよく遊んでいた。今回の遊びは、一番面白いかもしれないと思った。純粋で美しいものを汚していくのは、生まれながらに生き物が抱く背徳感なのかもしれない。
     なんとなく、ミチルの方は、フィガロの話をすればすぐに堕ちていくだろうと思ったオーエンは最初からお気に入りであった、リケから堕とすことを決めていた。そのための準備は抜かりない。それに、リケが言う教団には、なんとなくあてがあった。
     中央の国の僻地にある終末教団の噂は、オーエンも昔から知っていた。人間から生まれた魔法使いは、恐れられるか利用させることが多い。愛されてまっとうに育つのなんてものは、昔は一握りであったのだ。人間から生まれた魔法使いは、幼児期を過ぎた後は、終末教団に引き取られる。なんでも、多額のエンと引き換えに、魔法使いの子どもを引き取ってくれるなんて噂もあった。普通に考えて、教団は魔法使いの子どもに洗脳教育を施し、魔法を使わせて上手いこと利用しているに違いない。

    **

     魔法使いの子どもたちが、可哀想な人間に騙されて酷使されている、そんな情報を魔法舎まで依頼に持ってくるのは簡単だった。終末教団の末から、叩いていけばいい。魔法使いの子どもが一人になった瞬間に、それこそ魔法で攫うのだ。見張り役の人間なんて簡単に出し抜くことができた。あとは、その子どもに、真実を伝えて、頼むだけ。
    「魔法舎にいる金髪の少年に、このことを知らせるといい。彼も教団から逃げた立場なのだから」
     オーエンの目論みはとんとん拍子で進んでいった。攫った子どもは、真実を知ると悲しみ、怒りに満ちたあとに、この教団の実態を把握しながら同じ魔法使いとして子どもたちを助けないリケを攻めた。怒鳴るような罵声のまま、「あなたの目でもう一度みてきてほしい」と言われたリケは、震えたまま、その日は一日部屋から出てこなかった。
    賢者がどうにかして、話し合いをしていたが、数名の魔法使いたちはその任務はリケに行かせないほうが良いと言うではないか。「信じていたものに裏切られるのを知るには若すぎる」と賢者は言った。
     そうだとしても、この先、リケが傷つかないように、全ての悲しみから、嫌なものには蓋をしていき、守っていくのならば彼自身が成長することを妨げることとなる。とどめは、意外にも煽るようなミスラの言葉であった。
    「じゃあ、俺たち北の魔法使いが行きましょうか。魔法使いと、人間。どちらが強いか、わからせてやりますよ」
     争いになるであろうと、誰もが思った。それを止めたのは、他でもなくリケであった。ゆらゆらと蝋燭が燃えるように揺れていた瞳がしっかりとミスラを捕らえて、言い放った。
    「僕が行きます。司祭様が……嘘を仰っていたなんて、信じられませんけど。僕は僕の目で見て、耳で聞いたことを信じることにしました。もし、本当に魔法使いの子どもたちがる崩壊星の石を常用されたうえで、酷使をされているようであるなら、私が司祭さまを捕らえます」
     それから、賢者は慎重であった。中央の国の任務であるので、中央の国の魔法使いに任務を任せると、予想通り、僕たち北の魔法使いに召集がかかった。
     アーサーも、オズもスノウのホワイトも事を大きさを深刻に受け止めているようだ。これは慎重に取り扱わなければならない事態とともに、万が一向こうに強力な魔法使いがいて、人間の手伝いをしているのだとしたら、危険であろうということで強い魔法使いが呼ばれたという。
     オーエンは、面倒だ、勝手にやればいいと口先だけの演技をする。お決まりのように、ブラッドリーとミスラとともに、行くのが面倒だと口々にそろえると、スノウとホワイトが「オズもいるのじゃぞ」と脅しにかかってくる。僕とミスラは、それに怖がる振りをして、嫌々参加をするふりをした。
     まあ、ミスラは怖がるというよりも「俺が一番かっこいいところを見せてやりますよ」というようなことを言っていたので、僕のようにそこまで考えてはいないはずだけれど。

    **

    「『神から与えられた魔法の力で選ばれし人々の手助けをする』というのが、僕たちが教わってきたことでした。前にも言いましたが、賢者の魔法使いになるまでは、教団から外に出てことはありません。外界は欲にまみれた穢れた場所で、外に出ると、人も魔法使いも堕落してしまうと言っていました。僕たちのような魔法使いの子どもは、力が正しく使われるように訓練を、教団のみなさんに外の世界から守ってもらっていたのです」
    「リケが来た時も、ネロのご飯に感動していましたもんね」
    「聖なる豆とミルク、聖なる卵と果物で育っていました。なので、好きな食べ物を聞かれたときは困ってしまいました」
     終末教団への調査は極秘潜入という形で行われることになった。一度は、アーサーのほうから、正式に調査をしたいと依頼をしたのだが、もちろんそんなものは何かと理由をつけて断られてしまったので、先ほどミスラがだした扉で教団本部の近くまで転移をし、突入寸前といったところだ。
     なるべくは見つからぬように、と夜が明けてすぐの朝方の時間にの任務になったのは、夜であるとオズと双子が使い物にならないからであった。
     オーエンは賢者とリケの話を聞きながら、それとなく距離を保っていた。ミスラは、オーエンとの誓いの指輪こそつけているが、きっと詳しい内容だなんて覚えてやしないので、頼りにはならない。あいつは、万が一本当に強力な魔法使いが出てきたときの、戦力でいい。こちらにはオズもいるのだから、負けるはずなどはない。
    教団のローブだという恰好を全員でしながら、本部のなかへと紛れていく。教団の中には、魔法使いの感覚を鈍らせ高揚させるという、崩壊星の石がいくつも置かれていることから、魔法使いを酷使しているのは、誰が見ても明確だ。
     食事を制限させ、体力をうばい、思考を麻痺させながら、偏った知識を一方的に与えていくのだ。きっと、罰だってあるに違いない。決定的なのは、大量のマナ石が、飾られるように展示されていたのを発見したことだった。リケは、オーエンが攫ってきた魔法使いの子どものように、深く悲しみ、怒りに燃えていた。
    「どういうことなのでしょう! 司祭様は、僕たちに嘘をついていたということですか?! 僕らのような弱い立場の魔法使いの子どもを集めて、働かせ、自分たちだけ利益を得ていたということなのですか?!」
     誰も、なにもリケに何も言えなかった。残酷な真実、自分のおかれてきた境遇を知った時、目の前で悲しみ、怒る相手にかける言葉が見当たらないようで、誰もかれもが、眉を下げて、リケのことを見守っていた。
    「リケ。しかも賢者様たちはこのことに気づいていたんじゃないかな。きみたち、中央の国だけで遺跡に調査してきたときに、僕たちも連れてきてくれたことがあるでしょう。そのときから、崩壊星の石が教団内に複数存在することと、若い魔法使いであるリケがに不思議と耐性があること……イコールで結べば、この結果にたどり着くのなんて、馬鹿でもわかることでしょ……?」
    「そんな! あなたたちも僕を騙していたのですか!?」
    「オーエンちゃん!」
    「よすのじゃオーエン!」
    「リケ! 違います私たちは、リケのことを思って――」
     こういうときに、美しいお伽話ならば、リケは「そうだったのですか」なんて言って、賢者と中央の国の者についたのかもしれない。時に真実な残酷なのだ。オーエンは、ひっそりと幽霊のようにリケの側に歩み寄ると、とびきりに決定的な言葉を耳元で囁いた。
    「リケ、あの司祭様は神様に許される存在なの?」
    「……もちろん。許されるわけがありません」
    「じゃあ、一緒にやっつけにいこう」
     誘うように囁いたオーエンのことを、いち早くオズが攻撃しようとしたのを、ナイスタイミングで、ミスラが防いでくれていた。
    「攻撃するなら、オーエンではなく司祭様とやらでしょう」
     場の雰囲気としては、空気は読めていないのかもしれないが、正論でしかないミスラの言葉に、双子もオズも黙ってしまう。
     その間にオーエンはリケを手を引くように、箒で消えてゆく。もう、教団のローブで隠れる必要のないぐらいに、事は大きくなっていた。
    「こっちの方に、司祭様の部屋があるのです」
     あたりに教団の人間や、使徒たちが彷徨う中、オーエンとリケは堂々と教団内の宮中を箒に乗って、飛び回って進んでいた。見たところ、強大な魔法使いなんてものはいなくて、弱い存在である子どもを守るのではなく、いびつな形で守って利用していたのだ。
     大人の人間たちは、魔法使いをみて、怯えた顔で逃げまどい、はては使徒である子どもたちを盾にするような形で、オーエンたちから距離をとっているではないか。
     面白くて仕方ない。ぐしゃぐしゃに歪んだ人間の出来損ない。頭の中がごうごうと燃えるように熱くて、全部全部皆殺しにしてやりたいと思った。全部燃やして、移し替えて、綺麗なものへと変えてしまえばいいのに。
    「オーエン、こちらです!」
     頭のなかが割れそうなほどの痛みのなかで、リケの凛とした声がオーエンを燃える頭を冷ましていった。
    「ここの扉の中に司祭様がいるの?」
    「ええ、たぶん」
    「開けたら、僕が殺してあげようか。でも――リケ。きみの前で、僕が人を殺したら、きみはもう僕にあの甘いシュガーをくれないんでしょ?」
    「……私は、神の使徒です。人を正しい方へ導く……」
    「悪い子にはお仕置きが必要って、ことだ」
     先ほど発見されたマナ石を盗んでくるのなんて簡単だった。麻の袋から、一つマナ石を指で摘まむと、見せびらかすように口のなかへと飲み込んだ。
    「……オーエン、それは!」
     否定するようなリケの声。しかし、オーエンのことを見つめるリケの目は、にかにひかれるようであった。
    「わあ……すごい。人間への憎悪で溢れている味がする。ねぇ、これ、リケが食べるべきだよ。この子たちの憎しみを受け止めて、司祭様に、制裁を」
     あーん、と親が子どもに食べ物を分け与えるようにして、オーエンはリケの口元へとマナ石を寄せた。リケは嫌がらずに、そのままおずおずと口を開いた。小さな舌のうえに、マナ石をのせると「そのまま、飲み込んで」と言った。
     目の前でリケがマナ石をごくり、と飲み干した。まだ子どもの魔法使いの、きっと飢えて死んだような生き方をした石であろうが、まだ一つもマナ石を飲んだことのない魔法使いにとっては、身体からあふれ出すような魔力におどくことだろう。
    「……オーエン。本当に、悲しみが感じるようです。怒りも。……僕たちは、司祭様に騙されて、奉仕を行っていた。でも、実際は祝福の石なんて言われて、頭をおかしくされたまま、魔法を使わされ、世間では正しくない、洗脳をさせられていた。そうして、使えなくなった、魔法使いの子どもはマナ石となり、売買もしていたということでしょうか……許せません」
     子どもだって、殺意を抱くことはある。生まれながらに清い存在が、大人と触れることでなのか、悪も散らばったなかで育つなかで、悪とされる感情を芽生えるのか。もしくは、逆であるのか。オーエンは神様だなんて、信じてもいないし、それが正解なのか、神様のような存在しかしらない事項なのかもどうでもよい。ただただ、この瞬間に、目の前のリケは人を殺すほどの憎悪を感情を燃やしているのは、悪意から力を得るオーエンだからこそ、はっきりと感じとれていた。
    「僕がサポートをしてあげる。今のきみは、いつもよりうんと強い。あいつらに虐げられてきた子どもたちのぶんも、恨みを晴らさないとだめだ。殺せないなら、僕がやってあげてもいい。でも、きみが――リケ、きみが司祭様を、悪人には裁きを与えなくてはいけない」
    「はい」
     決意は揺らぐことはなさそうだ。しっかりと扉を見据えたリケは、そのまま魔法具のランタンを浮かせていた。
    「制裁を」
     一言だけ呟いてから、リケは司祭様がいるという扉を開けた。中は静かであった。すでに騒ぎで目が醒めていたのか、こういうことがいつか起きることは予測していたのか、部屋のなかの司祭は、目の前に短剣を置いて、神へと静かに祈りを捧げていた。
    「司祭様」
    「……その声は、まさか、リケか」
    「ええ。お久しぶりです」
     振り向いた司祭は、置いた短剣を握ってから振り向いた。相手がリケだとわかると、一度、顔を綻ばすが、その顔をみて、口をきゅうと結んでいた。
    「全て、悟ったのかね」
    「ええ。なので、私が、神様の代わりに、あなたを裁くのです。悪いものには、制裁を。堕落してしまったものは、もう戻れないと教えてくれたのはあなたでしょう」
    「そうだな」
    「《 サンレティア・エディフ 》」
     ランタンの光が強くなると、リケは祈るようにして攻撃魔法を放った。途端に、天井に飾られていた極彩色のステンドグラスがひび割れて、床にばらばらと落ちていく。それから逃げる司祭へ、最後に、十字架が落ちた。
    人間が死ぬのは一瞬だった。地面にいる蟻でも踏みつぶしてしまったみたいに、ぷちんと命が消えてゆく。
    「あ……」
     目を瞑っていたリケは、瞼を開いてその光景をみて、絶句をしているようであった。殺す気でいたようで、このよう制裁の与え方ではなかったようだ。司祭の身体に天井にかかっていた十字架が刺さり、血の海になっているのを見て、リケは狼狽えていた。
    「もしかして、あの十字架に磔にしようとした? きみ、攻撃魔装の威力が強いのかな。あっけなく、死んじゃったね」
    「あ……オーエン、僕は……」
    「君は正義のために悪者を殺したんでしょう?」
     震える身体を、そっと支えた。自分よりも少しばかり小さいこの少年は、千年以上も生きているオーエンにとっては、まだまだ赤子のようなものであった。
    「リケ!」
    「オーエン!」
     複数名の魔法使いたちが、オーエンとリケを追ってくるのは、意外にも早かった。先にスノウとホワイトが、中に入ってくると、後ろにいた賢者に「入るな!」と鋭い声を走らせたが、時はすでに遅かったらしい。賢者は、中の光景を見ると、血の匂いに顔を背け、膝から崩れるようにして、気を失ってしまった。それを、隣のカインが支えると、アーサーも慌てて賢者をさすっていた。
    「オーエン。お前か」
     低く、唸るようなオズの声が、オーエンに向かって放たれた。赤い目がこちらを睨んで、今にも雷が落ちそうであったが、リケが庇うように声を重ねた。
    「司祭様を殺したのは私です。制裁を与えようと思ったのです。本気で、殺すつもりはなかったのですが、攻撃魔法を使ったら、十字架が刺さって、死んでしまったのです」
     リケがそういうと、ホワイトがため息をついた。
    「魔法使いは心で魔法を使う。そなたの心のなかで、殺意が溢れていたのなら、魔法は素直に動いたまでじゃの」
    「……」
     誰も、彼もが無言で、何もいえない中で、北の魔法使いだけは、リケに労いの言葉の言葉をかけていた。
    「中央のちっちゃいの、すげぇなお前。見直したよ。お前みてぇな年で、よくやったよ。仲間も、浮かばれるだろうな」
     ブラッドリーがリケの頭を撫でた。さらさらと透き通るような金髪がぐしゃぐしゃになるほど、わしわしと撫でられると、リケの瞳には涙が溜まっていった。
    「ブラッドリー……私は、人を殺しました」
    「そんなことを言ったら、俺たちよりも、オズのがここにいる誰より人も魔法使いも殺してるだろ」
     いつもなら、アーサーがここぞとばかりに「そんなことはありません!」と否定をいれてくるというのに、今日は暗い顔のままだんまりであった。
    「おい。オーエン、おまえが、リケを唆したんじゃないか」
     黙っていたカインがそう静かに告げると、皆の顔が一斉にオーエンへと集まった。
    「へぇ。騎士様は僕を疑うんだ? 僕は、僕が殺してあげようか、って優しく聞いてあげただけだよ」
    「……オーエンの言う通りです。だから、僕は、僕のやり方で解決をしたかったのです。自分の力で、正しい道に、司祭様をもう一度、導きたかったのです」
    「そうか……では、きちんと、見送ってやらないといけないな」
     やっとのことで口を開いたアーサーがそういうと、リケは涙目のまま、頷きを返した。
    「ところでのう。司祭様を殺しちゃったのって、結構な大事件だったりせんかのう?」
    「そうじゃのう。我ら賢者の魔法使いたち、人間たちから、人殺しとかよばれたり、しちゃうんじゃ……」
    「まあ、殺したのは間違いないですからね」
     スノウとホワイトの呟きに、ミスラがそう答えると、賢者も顔を青くしていた。
    「もういっそ、面倒だから、全部燃やしちゃえばいいんじゃないんですか」
    ミスラがいつもいうような、面倒臭さからくる一言は、やけに的確に感じられた。
    「魔法使いの子どもだけでも、いまから全員で回収して、ミスラの転移魔法で魔法舎へ一時避難。あとは、この本部に火をつけて、燃やす。直接、ここにいる人間を殺すわけでもないし、燃やせば、この現場だって、灰になる。逃げた教団の一部が、また同じことをやるようなら、また同じようにしてやればいいだけでしょ」
     魔法具のトランクを出すと、オーエンは上機嫌で喋った。ここのところの賢者の魔法使いの任務は生ぬるいものばかりであった。北の魔法使いが人助けだなんて、笑ってしまうのだ。
    「俺様のオーエンの案に賛成だな。魔法使いの子どもを騙して、マナ石になるまでも放置していた集団だろ。胸糞悪い気分だ。こんな教団、燃やしてなくなったほうが、世のためだろ」
    「なんなら、子ども以外は全員マグマだまりへ送り込んでやってもいいですよ。お安い御用です」
    「我らも、オーエンに同意じゃ、な」
    「色々とめんどくさいことは、燃やして、隠滅させちゃった方が楽じゃの!」
     北の意見が全員一致したところで、オズは低い声を響かせる。
    「私も今回ばかりは、オーエンに同意だ。昔、ここのように弱い魔法使いたちが、人間に酷い扱いをされている国をいくつもみてきた」
    「ふふ。魔法様はそれを滅ぼしていって、魔王様になったんだもんね」
    「……。それに、アーサーの立場を考えたときに、この状況は、不利になるであろう。私なら、全てを燃やせる」
     とん、とオズが大きな杖を床へと下ろした。それに、びくり、と震えた賢者が、リケとアーサーを交互に見ながら、神妙な顔つきでいた。
    「……燃やしましょう」
     アーサーが苦渋の顔で言うと、賢者はごくりと唾を飲み込んだようであった。やっぱり、今回の賢者が今までで一番面倒臭いタイプ、だ。あまり記憶にはないが、前回の賢者は潔い良かった気がする。悪は悪として、排除されていたので、自由に動けて楽だった。
    「リケ。もし……ここを燃やすなかで、私たちに助けを求める人間がいたら、それは助けてもよいだろうか。リケや、リケの仲間たちに、酷いことをした人間かもしれない。だけど、もう一度、やり直すことだって、出来るかもしれない……」
    「……それは、アーサー様に任せます。僕は、もう、疲れました」
     それだけ言うと、リケは静かに倒れていった。それを、「リケ!」とカインが騎士らしく、抱えているのが目に入った。
    「賢者様は、私たちと一緒に、助けを求める人間を集めましょう。北の国の魔法使いには、魔法使いの子どもの救済、そしてそれをミスラの転移魔法で魔法舎への移動をお願いしたい」
     こんな事態になっても、国の王子様というのはテキパキと働いている。指示に対して北の国の魔法使いが頷くと、今度はオズへと指示を出していた。
    「オズ様。ここを中心に、終末教団を燃やして、綺麗さっぱりなくしてください。出来れば、灰になるほど、真っ白に」
    「……問題ない。」
    「王子様も、時に残酷じゃあなくっちゃね。僕、きみのそういうとこ、嫌いじゃないよ」
    「ああ。ありがとうオーエン」
     さらりと流されたオーエンの言葉を最後に、各自は散るように部屋から消えていった。オーエンが部屋から出ていったときに見えたのは、部屋いっぱいに雷鳴が輝いているところであった。

     * *

    「では、終末教団は事実上、解散したということでしょうか?」
     シャイロックが、全員分の飲み物を用意し終わると、そう本題を切り出した。
    「そうじゃな。謎の火事により、教団が燃えたことにより、教団が魔法使いの子どもたちを過酷な労働、果ては食事制限をさせ、洗脳ともとれる教育をしていたことが明るみになったことと、そのリーダーであった司祭が行方不明のまま死亡かなんて、言われてたら、しょうがないよね~!」
    「しっかし。オズちゃんの炎。本当に恐ろしいの~。全部、ぜっんぶ、燃えてたね! 我らもびっくりするほど、跡形も残ってないんじゃもん」
     若い魔法使い以外のメンバーが揃いも揃って、夜中の密談だ。内容は、先日こなしたばかりの任務についてであった。オーエンとしては、これを機に、人間と魔法使いにもっと大きい亀裂がはいっても良かったと思っていたが、実際にはこちらが有利になって話が終わっていた。
    「それで、リケは大丈夫なのか」
     ファウストが、そう問うと、オズは「問題ない」としか返さなかったので、ファウストはじとりとネロのことを見ているようであった。
    「あー。これでもかってぐらい、リケの好物を作ってやったけど、食えてないってわけでもない。むしろ、スッキリした顔をしているようにも見える。まあ、あれからは毎日ミチルと一緒に寝てるみたいだけどな」
    「心が病んでいないならばいい。僕も、人間を憎む気持ちはわかるからな。だいたい、ここにいる魔法使いで、人間を殺したことがない魔法使いの方が少ないだろう」
     その言葉に、全員が言葉を濁らせた。
    「しかし、リケはそんな攻撃魔法が強かったのか」
    「私が教えているときも、飲み込みは早かったな」
    「教団では攻撃魔法を教えてもらっていなかった、と言っていた気がしましたが」
    「子どもはスポンジが水含むみたいに、どんどん吸収してくからなぁ……」
     大人たちがそう喋るなかで、オズはところで、といって、オーエンの方に顔を向けた。
    「オーエン、おまえ、リケに石を食わせただろう」
    「魔王様はこわいな。僕はリケの目の前で、石を食べただけさ」
     追及に対してそう答えると、反応したブラッドリーが楽しそうな顔をして笑っていた。
    「へぇ。あのちっちゃいの、とうとう石を食ったのか!」
    「……リケは、自らマナ石を飲み込んだというのか、オーエン」
    「むしろ、強くなるマナ石を飲みたくない魔法使いだなんているの?」
    「……この件は、我らが言えたことでないな。いずれ、若い魔法使いたちも、マナ石を喰らい、魔力を強くしたいと思うときがくるであろう。それを、我らが止めることなど、傲慢であろう、オズよ……我らが……止めれるわけなど」
     ホワイトの言葉に、オズも黙っていた。それもそううだ。ここにいる魔法使いは多かれ少なかれ、マナ石を食べたことがある者ばかりだ。もちろん、日々の自己研鑽で強くなる魔法使いもいるのだが、相対的なマナの量をあげるためには、魔法使いのマナが詰まったマナ石は必要不可欠だ。
    「この話はもう終わりでよいじゃろう。教育上の話は、またのちに先生役の魔法使いだけで話すがいい。ただ、前回以上の厄災がくるというなら、我は若い魔法使いが強くなるというのは、喜ぶべきことだと思うがのぅ」
     スノウの言葉に、それまで黙っていたフィガロが静かに呟いた。
    「まあ、問題はマナ石を手に入れる手段、ですかね……そのへんに売っているマナ石なんて、大した価値もない魔法生物のものだってある。そういうのは、自由にさせたらいい」
     そうフィガロが呟いたのを、ファウストも憂鬱そうな顔で聞いていたのをみて、オーエンはひとり愉快な気分となった。ふいにミスラの顔を見れば、、その瞳とばっちりと目が合ってしまい、オーエンは舌打ちをして目を反らした。
    「じゃあ、もう僕は帰るよ。話は終わったんでしょう」
    「ちゃんと来て、えらかったの、オーエン」
     ホワイトがそう言って、子どもを褒めるみたいにして、オーエンの頭のうえにのった帽子をポンポンと撫でるので、余計に早く逃げだしたいと思った。キッチンへでも寄って、なにか食材でもくすねてこうようと、足早にその場から去っていく。しかし、耳馴染みのある革靴の音が後ろから聞こえて、オーエンはピタリと足を止めた。
    「オーエン」
    「なに、ミスラ」
    「リケの話、そういえばあなたから聞いてなかったなあって思ったので」
    「……直後はバタバタしてたからね」
    「真夜中のお茶会でもしますか?」
    「……とびきりに、血みたいにどろどろの甘いやつに死人の顔みたいな真っ白なクリームがほしい」
    「……ネロに作らせます?」
     じゃあ、こっそりとネロを誘拐でもしてきましょうか、と言ったミスラにオーエンはご機嫌となった。そうして、二人でネロの部屋に訪問したときの、ネロの顔は最高にオーエンを気持ちよくさせた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works