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    penekko

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    penekko

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    月鯉/俳優×俳優

    「もうお手つきですか?月島軍曹」
    喫煙所で紫煙をくゆらせながら、尾形は随分と役柄に似せた物言いで笑った。たまたま居合わせた野間が猥談と聞くや耳をそば立てたのが分かり、月島は溜め息のように煙を吐き出して灰皿へ灰を落とす。
    「もう、とは何だ、もう、とは。役柄で呼ぶな、尾形上等兵」
    「ははっ、役柄も俺も似たようなもんですよ。当て書きと言っちゃあ自惚れですがね。……そんなことより、月島さん。お手つきですか、あの子猫ちゃん」
    目を細めた眉の下で、義眼に似せたコンタクトを入れっぱなしの目がじっと見る。このあとまだ撮影の残る尾形は、この現代の喫煙所にはまるで不似合いの使い古した軍服姿で──紙巻煙草が妙に様になっていた。
    「鯉登さんのことを言ってるなら、手なんか出してないぞ」
    「でも、狙っているでしょう。鯉登少尉そのものじゃないですか、あんたによく懐いて、月島月島、と可愛い声上げてついて回って──おまけにあの顔と身体、食べ頃じゃないですか。男だろうが女だろうがね」
    「……まあ、可愛いとは思ってるが」
    そうでしょう、と嬉々とした声を上げ、尾形はほろりと灰を落とした。脚を組み直す仕草が妙に色気を帯びていて、とくにスタイルがいいわけでもないというのに──どこか、赴きのある居姿だった。
    「あんたが狙わないんなら、俺が手のひとつやふたつ、出してやろうかと思っていましたがね。何せあの子、役抜きが下手でしょう。鯉登少尉さながら俺を嫌ってくれるなら、手間かけて抱いてやりたくもなりますよ」
    「悪趣味な共演者食いはやめろ、あんな初心な子に向かって」
    「だから、あんたに早く食っちまえと再三言ってるんじゃないですか。悪い狼に手ェ出されてからじゃ遅いでしょう、月島軍曹殿」
    本気とも嘘とも掴みかねる台詞を口にして、尾形は紫煙の中の唇をにいっと笑わせる。この男が共演者に手を出すのはいまに始まった話でもなく、それを咎めるような気持ちも取り分けないけれど──鯉登にその食指を伸ばすというのなら話は違ってくる。何せあの子は──鯉登音之進は役柄同様月島にずいぶんと懐いていて、月島にしてみてもそれは満更ではないところであったのだ。手を出したか、と言われればノーであるけれど、先日は「何で打ち上げにこないんだ」と鯉登少尉さながらの横暴さで夜中にわざわざ電話を寄越し、次の仕事があったので、と何度も釈明をさせられ、次は絶対一緒がいい、隣の席じゃなきゃ嫌だ、と、朝まで懇願を受けて──。十いくらも年上の男を自惚れさせるには十分な好意を向けられているのである。
    「……あの子にそんな気はないだろうよ、こんなおじさん俳優」
    「それ、本気で言ってます?俺に否定してほしいんでしょう」
    「……まあ、そうだな」
    「ははあ、狡いおっさんだな。俺の知ったことじゃありませんが、フラれたら教えてくださいよ。あの褐色の尻、いちど引っ叩いてみたかったんでね」
    試すようにそう言うと、尾形は灰皿へ煙草を押し付ける。
    その時だった。喫煙所の扉をしずしずと開け、鯉登音之進が踏み込んできたのは。
    「……月島……さん、いるか」
    「おや、主役の登場じゃないか」
    「なんだ、尾形もいたのか。野間さんも」
    特に何を言うわけでもなく、野間は鯉登に軽く手を上げてみせる。それに軽い会釈を返してから、鯉登は月島の隣へその長身を軽やかに寄せた。甘い香水の匂いがふんわりと香って、喫煙所のもうもうとした煙に似合わぬ出立ちに、こんなところに来なくていい、と、押し返したくもなる気分だった。
    「月島……さん」
    「月島でいいですよ、いつものように」
    言えば、鯉登はこそりと尾形のほうを見て──それから、月島へと向き直る。おおかた何か余計なことを言われたことがあるのだろう。月島は好きで鯉登に「月島」と呼ばせているのだから、気にする必要もないのだけれど。
    「月島。その、……今夜、空いているか」
    「今夜?あー、…」
    「空いてますよ」
    答えたのは尾形だった。二本目の煙草を取り出しながらにやにやと頬を笑わせている。今夜は尾形と、それから仲間内数人で飲みに行く予定であったけれど、他でもないこの男が空いているというのなら「行ってこい」ということなのだろう。元より鯉登に誘われるなら都合を付けるつもりではあったけれど、尾形の気まぐれに感謝しなくもなかった。
    「空いてます」
    「……良かった。あの、……もし良ければ、飲みに……。迷惑でなければ、店も、予約をしてあるから」
    「何だ、断られる気ないじゃねえか」
    「うるさいぞ、尾形。断られたら杉元と行く気だったんだっ」
    ぐるる、と唸り出しそうな鯉登の背をとんと叩くと、彼は途端にしおらしく肩を小さくする。尾形は楽しげに笑い声を上げ、確かに男が鯉登のことを気に入っていることは見て取れた。一度興味がないと判断した相手には、とことん触れないのが尾形という男の常である。「あんたが狙わないんなら」というひと言がいよいよ真実じみてきて、月島は半ば無意識に、鯉登の腰を自分の傍へと抱き寄せた。甘い匂いが、ぐっ、と強くなり、思わず鼻をひくつかせてしまう。
    「ひ、っ!?」
    そこで、びくっ、と、青年の体が跳ね上がり、月島は驚いてぱっと手を離した。
    今なにをした?、とそこでようやく気がついたのである。彼らしからぬ子猫のような声音にも、自分の行動にも驚いていた。
    本当に口説こうと思ってでもいない相手にでもなければ、こんなふうにスキンシップを無意識下で取ろうとなどしたこともない。
    「あ、っ、すまん、すみません。つい……」
    煙草を鯉登から離して頭を下げながら、彼の横顔が整っていることばかりが目についた。綺麗な子だ、と場違いに思って、すみれ色がかった潤む瞳にじっと目がいってしまう。
    「ん、……あ、おいも、急に変な声を出してしもてすみもはん、っ……」
    かあっ、と頬を赤らめながら、鯉登は耳に髪をかけた。郷里の言葉と緊張の覗く仕草に胸が高鳴り、ああ、これは、と我ながら得心がいく。
    この子が欲しいな、と、このとき、強く思ったのだ。
    「も、……もう私は出られるから、ッ……月島のタイミングでメッセージを、と、とにかく、後で……っ」
    ぎゅっ、と優しく突き放すように手を伸ばし、鯉登はぱたぱたと忙しなく喫煙所から去っていった。
    月島自身ももう帰るだけだ。一緒に喫煙所を出ても良かったけれど、その背は風のように早く駆け抜けていき、追い掛けるのはあまり現実的でもないだろう。それに、もうひと口だけ煙草を吸って──気を落ち着かせたくもあった。
    野間が煙草を揉み消しながら、月島の肩をとんと叩く。
    「罪な男だなあ、月島さん」
    「何だ野間、知らなかったのか。初心な子猫はああやって落とすんだ」
    尾形の軽口を聞き流しながら、煙をひと吸い肺へと落とし込んだ。
    煙草をきつめに揉み消して、残る二人に背を向ける。
    「早くフラれてきてくださいよ」と冗談めかした男の声に「やらん」とだけ返して片手を上げ、喫煙所を出ると──煙臭さに混じるほのかな鯉登の香りを感じて、胸がどっと音を立てた。
    若者の口説き方など知ったことではないけれど、許されるのならもっと近くで、あの甘い香りを感じてみたい。
    スマートフォンを取り出しながら、月島は鯉登の残り香をそっと嗅ぐ。
    紫煙にくるまれた甘い官能に、狡い大人の欲望が静かに疼いた。



    「月島が……来てくれるとは思っていなかった」
    酒も程よく回った褐色の肌が、とろりと甘く上気しているのが分かる。知り合いの店だという薄暗いバーの奥まった位置にある二人掛けのテーブルは言うなれば隣り合わせに座れるカップルシートで、なぜこの席を、と思ったけれど月島は鯉登にそれを尋ねなかった。彼になんらかの意図があってこの席を選んだならば聞かずとも良いし、意味がないのなら意図を作るのは自分だと思ったからだ。
    少なくとも座るだけで体の触れ合う距離を許されている。それだけは確かなのだった。
    「どうしてですか?」
    短く問いかけながらグラスの酒にちびりと口をつけると、酒気にあてられた瞳がじいっと見つめてくる。間接照明の映る大きな黒目がきらりと光に潤んで、口付けずにはいられないような甘えた色合いが滲んでいた。
    「私のような子どもと酒を飲んでも面白くないかと思っていたから」
    「確かに、二人きりなのは初めてですね」
    打ち上げだとか、鶴見の家に呼ばれるだとか、そうした複数人の付き合いはあったけれど──そうして、その度に鯉登は月島のそばを離れなかったけれど。二人でこうしてじっくりと一対一で酒をかわすのは初めてだった。
    それでも、撮影の合間や飲みの席で鯉登と話すことを月島は苦だと思ったことも、つまらないと思ったこともない。自分と世代の違う若者の感性を知れるのは面白かったし、何より鯉登が素直に自分を慕ってくることは微笑ましく嬉しかった。
    俳優という仕事を生業としている以上、自分の年齢よりも下の役をすることもあれば、その逆もある。凝り固まる考えを解きほぐすようでもあって、鯉登との会話は刺激的であったのだ。
    ──それに何より、月島は鯉登が可愛かった。本当のところなんて、それに尽きるのかもしれない。
    「じっくり話せて嬉しいです。鯉登さん、杉元や白石と連んでいることが多いから」
    「……話しかけづらいか?あいつらといると」
    「──内緒の話をしてもいいですか?」
    「ん、……うん……?」
    ことん、と首を傾げた鯉登に見つめられると、理性をゆっくりと縊られていくのを感じる。服越しの太腿がぴっとりと触れ合っているのが、妙に艶かしく感じた。シャツの袖から覗く手首を雰囲気に任せてそうっと触れ、手のひらをゆっくりと重ねる。鯉登は喫煙所で触れたときと同じくびくっと背中を跳ねさせて、けれど、頬をほの赤くするだけで振りほどかなかった。
    「……少しだけ妬いてます。彼らといると、鯉登さん、私のほうを見てくださらないので」
    「そ、っ……そんな、ことは……それに、いつも見ているみたいに……」
    「違います?」
    するり、と手を動かして肌を撫でると、すべらかな肌がざわつくのを感じる。手触りのしなやかな甲を撫でていれば鯉登は次第にとろんと体を蕩かせて、月島の肩へともたれかかってきた。甘い匂いが鼻先をくすぐり、けれど、引き寄せるにはまだ早いとも感じる。
    何せ臆病にもなるだろう、相手は十いくつも年下なのだ。それに月島は、彼にひと晩の相手を求めているわけではなかった。
    「おいが……私が、月島を見つめていること、気がついていたのか……?」
    「──嫌われているのかと、はじめは思っていました」
    「ちごっ……わ、私は……もっと、お前のことが知りたくて……。月島軍曹ではない、演技をしていない時の月島のことを知りたくて、目が、離せなくて」
    ぱ、と顔を上げた鯉登が、囁くように口にする。張りのある声がふわふわと頼りなく語る台詞が可愛らしくて、月島は頬が緩むのを抑えなければならなかった。
    「……なんだか、それ、恋をしているみたいですね」
    額にかかった髪をのけてやると、さらりとした絹のような黒髪の手触りが触れる。ついでめかして眦を指先でくすぐれば、鯉登は、ひう、と喉に息を詰めた。二人の距離はあまりにも近く、けれど、口付けを交わすにはまだ遠い。それに、鯉登の感情のゆくあてがどこにあるのか、月島は知っておきたかった。自分だけが本気でこの子を口説いて、自分の手の中に入れてしまおうと思っているのなら──留まるべきであると、そうした理性くらいは、まだ残っていた。
    「……おいが、月島を好いちょっちゅう…好きだと、いうこと……?」
    「そうなんですか?……っふふ、方言、かわいいな」
    「ッあ、っ……う、」
    かわいい、と思わず口にした刹那、鯉登の背中がぞくっと脈打つ。それを打ち消すように軽く首を振るのが愛おしくて、今すぐ抱きしめてしまいたくなる。まだ待て、とセーブを掛けながら、困惑する頬を手の甲ですりすりと撫でてやった。
    「鯉登さん。……好きですか?俺のこと」
    「つッ……──月島は、どうなのだ、私のことが……その、」
    「……好きですよ。可愛くて仕方ないです」
    瞬間、鯉登は頬を真っ赤に染めて俯き、「あ」と「う」の中間の音を発して押し黙った。触れた手が熱くなっているのを感じて、月島はその手を軽く握ってやる。
    「鯉登さんは?」
    耳元に唇を寄せると、きゅう、と、喉を鳴らした音がした。その甘えた動物のような声音に、子猫ちゃんとはよく言ったものだ、と過ぎった尾形の顔を打ち消して、俯く髪の毛先をそっと指先に取る。
    「鯉登さんも私のことを好いてくださっているなら、抱きしめさせてほしいんですが」
    静かにそう言葉を落とすと、鯉登は躊躇いと羞恥を交えた甘い瞳をこれでもかと揺らがせて、月島に目を合わせる。そうして男の服の裾をキュッと握って、「うん……」と小さな声を上げた。
    「月島が、その……す、……好いちょ……っで……抱いてほしか……」
    「……勘違いしますよ、その言い方は」
    言いながら背中に腕を回して、胸元へぐっと引き寄せる。芯をなくした鯉登の体は思うよりもずっと素直に月島の腕の中へ収まり、むっちりとした抱き心地を腕に感じた。思うさま鼻先を首筋に押しつけてすうっと匂いを嗅ぐと、沁み渡る甘い匂いに股間が屹立しかけ──少しだけ、腰を引いた。
    「ん、ン……ずっと、こうしてほしかった……」
    「もっと早く言ってくださればよかったのに」
    「言えん、……っ、共演者に手を出してはいかんだろうが」
    「手を出されているのはあなたですし、これから手を出すのも俺のほうです」
    きえ、と、役柄そのものに口にするのが少しだけ笑えて、月島は鯉登の太腿へいたずらな手を触れる。これくらいなら良いだろうか、と肉のつまった内腿をやさしく撫でると、腕の中の体がびくんと震えた。
    「あ、っ!や、っ……やっせん、」
    「やっせん?」
    「だめという意味だ……っ、月島、おまえ、手が早いぞ、っ」
    ふるふると震える体をことさらに抱きしめながら、それもそうか、と背中をゆっくりと撫でてやる。途端にとろんと身を預けてくる懐柔の容易さを心配に思いながら、月島は鯉登の頬を手のひらにくるんだ。
    「キスは?」
    「う、あ……は、……はじめてで、……わからん……」
    声を上げて笑い出しそうになるのを、どうにか堪える。この美しい青年が、口付けも初めてだと言うのだから──そんなの、嬉しくないわけもなかった。男というのはえてして初めてが好きなのだ。自分のように嫉妬深い自覚のあるものは、とくに。
    「なら舌はいれません、今日は」
    言外に次を匂わせてから唇を合わせると、言葉通り舌はいれずに鯉登のやわらかな唇をたっぷりと食む。強張る唇を湿すように舐めれば、背中に回った腕がきつく掻き抱いてきた。このまま舌をねじ込んでむしゃぶりつきたい気持ちはたっぷりとあるけれど、今はその丸い後頭部をすりすりと撫でるに留め──こつん、と額を合わせて視線を近しく行き交わせた。
    「鯉登さん。二次会は、俺の部屋でもいいですよね」
    触れるだけの口付けを混ぜながら、背中を、腰をねっとりと撫でてやる。
    びくん、びくん、と初々しく体をひくつかせる鯉登の耳をくしゅくしゅと指で捏ねれば、彼はもうすべてを月島に預けるよう、甘い匂いの身を抱きつかせて──よかよ、と、とろける声で男の耳元へと囁いた。

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