これは計画的犯行だ。
きっかけはキースのささいな一言。
「ぜんっぜん恋人らしくねぇ」
キースに酔った勢いのままベッドに連れ込まれそうになり、翌日の仕事を考え拒否すると拗ねて口を尖らせて言い放った。
本人はいつもの如く覚えていないだろう。
自分もいつもであれば流していた。
が、生憎とその日は連日の仕事の疲れもあり虫の居所が悪かった。
その日はそのままキースを寝かしつけてタワーへと帰還したが、それから数日準備を重ねて今日実行となる。
キースは休日前夜に酒を飲み、そして必ず迎えをねだる電話を寄越す。全て計画通りだった。
いつも通り酔い潰れたキースを車の助手席に詰め込み、タワーへと向かわない。
俺はキースを拉致した。
「………どこだここ」
目を覚ましたキースが心の底から怪訝そうな声を出す。
「おはよう、キース」
キッチンから顔を出せば、キースはぎょっとした顔をした。
「おまっ、え?その恰好…なに?」
「エプロンだ」
「いやそうじゃなくて」
「料理をしている」
「それもちがくて」
「何が知りたいのが具体的に質問しろ」
「いやいやいや全部だよ!」
完全に混乱したキースは頭を抱えてしまった。…いや、ただの二日酔いによる頭痛かもしれないが。
「仕方がない…まずここはレンタルルームだ」
「…ホテルじゃねぇなとは思ったけど」
改めてきょろきょろとキースは周囲を見渡す。
ベージュや白を基調にウッド調の家具が揃えられていて温かみのある内装だ。マンションよりは少し広めでリビングの他にトイレがセパレートのバスルームもある。
撮影等のスペース利用からちょっとしたホームパーティーやいつもと違った日常を感じながら宿泊などにもオススメです、とホームページには記載があった。
「作っている料理はパスタだ。生憎とソースはレトルトだが慣れない自作よりも、調理時間や味の保証など効率的と判断した」
「別にレトルトでも作って貰える物に文句はねぇよ」
「ちなみに、まだ湯が沸いただけだ」
これから投入予定の乾麺とソースのパウチを並べたキッチンを視線で示す。
ここからが本番だ。
落ち着かなげに未だきょろきょろしているキースの意識をこちらに向けるため、コホン、と咳払いをする。そして、キースがこちらを向いたのを確認して口を開く。
「お風呂とご飯、どちらを先にするか選べ」
どうだ。
これぞ恋人らしいセリフだろう。
キースの様子を伺えば、顔を覆ってしまった。
「…キース?」
「…ちょっと待て」
よくよく見ると、ほんのり耳が赤くなっている。なるほど成功と取っていいだろう。
「早く選べ」
「いや、そのセリフの続き知ってんの…?」
「続き…?」
いややっぱいい、と呟くキースの両手をこじ開けて驚きに見開かれた目を覗き込む。
そこには得意気に笑みを浮かべる自分が映っていた。
「知っているに決まっているだろう」