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    bar928_kuzuha

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    キスブラ版ワンドロライ
    第90回『夜』『酔う』

    お前に酔う夜。お前に酔う夜。

    オフの前夜、天気と気分が良ければ稀に開店するBar.エリオス。
    今夜は星も見えるくらい天気も良く、風も程よく気持ちがいい。
    バーとは言っても特に客もなく、ただ気ままに呑んでいるところにたまにジェイが混ざる時があるくらいで、誰もいない屋上を自分のスペースのように振る舞う為の方便でしかない。
    だが、今日はお気に入りのベンチへ向かうと先客が居た。
    (…ジェイか?)
    遊歩道の為の淡いライトと月明かりで人影はぼんやりとしていて良く見えないが、ジェイよりは小柄に見える。
    そのまま近付いて、影の正体が分かると同時に影が振り返る。
    「遅い」
    「…ブラッド?」
    意外な影の正体に、思わず持っていた酒とツマミの入った袋を落としそうになるのを間一髪能力を使って阻止した。
    「くだらないことに能力を使うな」
    「いや、びっくりすんだろ」
    「ここは誰でも立ち入り自由なはずだが?」
    「そーだけど…」
    あまりにも意外な客人に戸惑い立ち尽くしていると、隣に座れと促される。そのままブラッドの右側に座ると、ブラッドはこちらを見ることもなく月を見上げている。月明かりに照らされたワイン色の瞳がこちらを向くまで思わず目が離せないでいると、1度瞬きで隠された後に長いまつ毛のカーテンがひらいて視線が合わされた。
    「穴が空く」
    ふ、と口元を緩めながら眉尻を下げるブラッドの表情が珍しいのと、どこか蠱惑的で胸が跳ねる。見つめていたことがバレたのと相まって慌てて口を開く。
    「つーか、忙しいメンターリーダー様がこんな所で油売ってていいのかよ?」
    「時間が取れた。たまにはいいだろう」
    「それならそれでちゃんと休めよな…最近色々立て込んでたんだろ?」
    「…お前の隣で息を抜きたい、と言わなければ分からないか?」
    座った反対側から飲料缶を手に取り、残りを飲み干す。普段のブラッドからはあまり聞くことが出来ないセリフによくよく注意を凝らしてみれば、なにやらアルコールの匂いがする。
    「…ん?なに飲んでんの?」
    「缶酎ハイ、という物だ。焼酎をベースにフルーツドリンクで割るものが多く」
    「いやなんで1人で呑んでるんだよ!?呼べよ!」
    「呼んだが?」
    「いーや、呼ばれてないね」
    「今夜の予定を確認しただろう?」
    「はぁ?…は!?アレは誘いに入らないだろ!」
    昼間、確かに廊下でばったりブラッドに会った時に『予定通りにレポートが終わっていれば、今夜は空いているな?』と確認はされた。されたから、終わってればな、とはぐらかしたのは覚えている。
    「今夜の気温や明日の予定を考慮し統計の結果、時間が空けば今夜は屋上に来るだろうと思った」
    「それならそうと誘えよ…」
    「…レポートは終わったのか?」
    「あ〜…気分転換だよ」
    「はぁ…明日の午前中までには提出するように」
    「う…ここに来てまで小言はやめてくれ…」
    「ジェイとはよくココで話をしているのだろう?」
    「それはジェイの子供の悩みだったりで小言とかじゃ………え?もしかして嫉妬してる…?」
    「………」
    ここでの沈黙は肯定と同じだぞ、と思うが口出すのを飲み込む。
    「そんじゃ、BARエリオス遅れて開店ってことで。ビールしかないぞ」
    「…頂こう」
    カシュッ、と2人で少しぬるくなった缶ビールを開けて、軽く乾杯する。
    「なんか聞いて欲しい悩みでもあんの?」
    「…いや、隣に居てくれるだけでいい」
    「ぁ、そ」
    色々と抱え込むブラッドが心配だしもどかしい気持ちはあるが、こうして必要な時には頼ってくるのは正直嬉しい。もっと頼る機会が増えるといいのだが、なかなかすぐには難しいだろう。
    それぞれお互いのペースでビールを飲みながらなんとかしてやりたい、と思いつつぼんやり月を見ながらビールを飲み切る頃、横からやけに視線を感じた。
    「…穴が空くんだけど?」
    「そんな事例聞いたことがない」
    「オイ」
    あまりにも理不尽なやり取りに月からブラッドに視線を向けようとするよりも早く、ブラッドの指が隠された左目を露わにする。
    「なんだよ」
    「いや、ただ見たくなった」
    ブラッドの手をそのままにゆっくり顔を向ければ、慈しむように微笑むブラッドがあまりにも優しい表情をしていて何も言えなくなった。
    そのままゆっくりとかきあげるように髪を撫でられ、両目がワイン色に囚われる。
    まだビールも飲み干していないのに、まるで酔ってしまったように思考が止まる。
    そのまま何も考えられないままブラッドに顔を寄せて唇を重ねれば、ブラッドもそれに応じるように唇を薄く開く。
    「…酔ってんの?」
    「かもな」
    「他の人に見られるかもだし、移動しようぜ」
    「…アキラとウィルは今晩実家へ外泊届けが出ている。オスカーはあと2時間トレーニングルームの使用予定が入っている」
    「…ほんとに酔ってんのか?」
    あまりのタイミングの良さに、ブラッドのことだから全て計算されていたのでは、と勘ぐってしまう。計算されていたところで、こういった計画であれば喜んで乗ってしまうのだが。
    「もっと、酔わせてくれるのだろう?」
    果たして酔うのは、酒か。それとも。

    「ご注文のままに」
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