親愛なる未来へDear.Keith
この手紙を読む頃は、俺達は生きているのだろうか?
今までも沢山の事があり、何度か死を覚悟した事もある…いや、この職務に従事している以上覚悟を決めていない事はないが、死線をくぐり抜けた先でお前と共に同じ天井を見る事に安堵したことだ。
アカデミーで出会った当初は、まさかこんな長い付き合いになるとは思わなかったが、今はあの時の出会いに感謝している。第13期が始まってからは…それこそ書ききれないほど色々な事があったと思う。そのどれもこれも大切な宝物だ。
やる気がないように見せかけて、情け深く熱い想いを持つお前のことだ。これからも一歩引いた距離で冷静に大切な物を守る為に尽力をするのだろう。そんなお前を誇りに思う。だから、もう少し胸を張れ。
そもそも怠惰な態度を取るのにも理由があるとは思うが…いや、今はやめておこう。この手紙をしたためた後にも直接お前に言う機会があると容易に予想できる。
冒頭を訂正しよう。
この手紙を読む頃も、俺達はきっと生きていて傍らには変わらず、キース。お前が居る。
大切なパートナーとして選んでくれてありがとう。この手紙を読む頃には、沢山の想いをお前に伝えられているだろうか。
キース、愛してる。
From.Brad
ブラッドへ。
手紙なんて書かねぇから、何書いたらいいかわかんねぇ。
あー…ちょっと良いワインが手に入ったから、今度飲みに来いよ。飲みすぎねぇようにするからさ。
オレはお前と飲みたいし、お前と飲むのが好きなんだよ。
…って、この手紙読むのっていつだっけ?
…まぁいいか、その時までこのワインはとっておくから、慣れない手紙を酒のツマミにしてそん時に飲もうぜ。
おいおい全然埋まらねぇぞ。報告書より難しいだろ、これ。
もういいだろ。
これからも宜しく頼むわ。
キース。
「2人とも、ちゃんと持ってきたか?」
式典がお開きになる前の、最後の企画。
第13期が始まって1年の節目を忘れないようにと急遽企画された手紙のタイムカプセル。
バルコニーから揃って戻ってきた同期2人に声をかけると、ブラッドは内ポケットから封筒をチラリと見せ、キースは内ポケットのあたりを手の平で抑えた。
「あぁ、問題ない」
「お、忘れてなかったわ」
「貴様…」
「忘れてなかったんだから、いーだろ〜」
すぐにじゃれはじめる2人の間に入って、まぁまぁ、と双方を宥めるのはいつもの事だ。
「それにしても、ディノも面倒な事思い付くよなぁ」
大変だったぞ〜、とボヤくのはキース。
「そうか?俺は良い企画だと思うが」
故に賛同し司令部へ企画を推薦した、と腕を組むのはブラッド。
「お前はいつっつもディノに甘い」
「貴様はいつも何でも面倒だなんだのと言い訳が多すぎる」
「まぁまぁまぁ、ブラッドもキースもそこまでにしてさ、折角の式典のフィナーレなんだからラブアンドピース強めでいこうよ!ねっ!」
ぐいぐいと2人を背中から押しながら、手紙を収めるべく箱の元へと誘導する。
タイムカプセルへの手紙。
第13期に関わった皆が、未来の自分やこの後入所してくるだろうまだ見ぬ仲間達、市民などにあてた手紙を収める…というのが公式の企画。
折角タイムカプセルをするなら、特別な手紙も一緒に入れたい、と提案し通ってしまったのがオレ発案の企画。
だってさ、こんな素晴らしい日に、いまこの時のいまこの気持ちを、また時を経て感じれるなら、それってすっごく素敵でラブアンドピースじゃない!?
容器の大きさから、公式の手紙とは別に入れられるのは1人一通だけ、となってしまったがそっちの方が特別感があるし、誰に宛てて書くのか悩む時間も楽しかった。
壇上に仰々しく置かれたタイムカプセルの前に3人で立ち、同時に手紙を収める。
広報用にといくつか写真を撮られたから、この写真が載った広報もタイムカプセルを開ける時見返す為に大切に保管しておかなきゃだな。
「なぁなぁ、2人は特別な一通…誰に書いたんだ?」
壇上から降りて、ヒーローの顔からいつもの顔に戻った所でブラッドとキースに声をかけると、2人とも同時に目を逸らした。
正反対コンビ、と言われるだけあって視線が向いた先は真逆だったけどタイミングは一緒。思わず笑いそうになるのを我慢して2人の返事を待つ。
「…忘れた」
「…秘密だ」
更に同時に呟くんだもん、もう我慢の限界で声を出して笑ってしまった。
「なっ、なんだよ」
「ディノ…?」
「あっはは…!いや、ゴメンゴメン!でもさ、とっってもラブアンドピースで、つい!」
2人は訳が分からない、と目線を合わせた後に同時に首を傾げる。
未来は誰にも分からないけど、きっと悪くない。
親愛なる未来へ。