夏祭りの夜 夏祭りに行こうと決め、けれど一緒に行くのではなく待ち合わせて行こうとなった。わざわざそんな面倒を掛けなくても、なんて思ったのだが、いざ指定された場所へ行って目に飛び込んだ、浴衣姿の恋人。
いつも通り前髪は垂らしているが、後ろは纏めて簪を…それも、以前凝り過ぎて装飾過多になってしまったものを差していて、空色に大きな朝顔が映える浴衣を落ち着いた緑の帯で締めている。初めて見るそれはどう見ても女物だが、元々中性的な見た目も相まってとてもよく似合っていた。
「……似合っ、て、る…?」
恐る恐る訊いてくるのに言葉を返せず、ただ抱き寄せて他の男の目から隠すくらいしか出来なかった。
手を繋いで歩くのは嫌がられることが多いが、今夜ばかりは文句も言わずに隣に並んでくれた。こう人が多くてはいちいち他人を気にしてはいないし、はぐれる危険性を考慮すれば繋いでいた方がいい、と思ってくれたんだろう。
「あ、かき氷」
「お、いいな。ちょっと先に座れる所あるから買ってくか」
ちょうど2人分空いた椅子に座り、火照った体に冷たい甘みが染み渡る。しばらく無言で食べ進め、半分くらい減った頃だろうか。くい、と袖が引かれ振り返ると、べ、と舌を出して見せた。
「どう?青くなってる?」
「なってる」
子供みたいな仕草が可愛くて、笑って返すと「ヒバサにぃは?」と訊くからこちらも舌を出してやった。
「オレはイチゴだからあんま変わんねえだろ」
「うん、そうだね」
「…ああ、なら」
ぐ、と腰を抱き寄せて、顔を近付けてわざと声を低めて「混ざるかどうか、試してみるか?」と笑ってやったら、顔を赤くして逃げられてしまった。