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    ゆうや

    まほやく夢 賢者様(♀)が多い
    全ての話は、東南の大人たちに狂ったオタクが見ている幻覚です。

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    ゆうや

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    フィガ晶♀
    マーキングとその仕返し

    猫と首輪「──うわっ、最悪」

    麗らかな昼下がりに中庭に出た瞬間、晶を出迎えたのは心底嫌そうに顔をしかめた北の魔法使いたち三人だった。
    いくら北の魔法使いたちと言えど、出会い頭に睨まれるいわれは晶にはないはずだ。なにへ凄んでいるのかと晶は背後を振り返るが、彼らが嫌がりそうな後続は見当たらない。

    「いや、てめえだ。てめえの事だよ」

    ブラッドリーの呆れたような声音に中庭へと視線を戻せば、先ほどまで囲まれていたテーブルは空。
    いつの間にか二人の影は消え去り、ブラッドリーひとりが席に残っていた。

    「こんにちは、ブラッドリー。三人でお茶を……されていたんですよね?」
    「たったいまお開きになったけどな」

    晶が目を反らした一瞬で、ミスラとオーエンは姿をくらませてしまったようだ。
    人が近寄ったら散ってしまう猫たちみたいだなと思いつつ、晶は空いた席へ向かう。

    「私、みなさんに何かしてしまいました?」
    「……あー、気にすんな。そのうち嫌でも慣れんだろ」
    「慣れる? なにに?」

    唯一姿を消さなかったブラッドリーは、晶を目の前にすると居心地悪そうに眉をひそめて黙ってしまった。
    なにか不躾なことをして気を悪くさせてしまっているのなら謝りたいが、いかんせん心当たりがない。
    せめて理由くらいは知りたいと、じっとブラッドリーへ視線を送っていれば、観念したようにため息が深く吐かれる。

    「…………俺が話したってあいつには絶対言うなよ、いいな?」
    「? はい」

    はたして『あいつ』とは誰だろうか。そう首をかしげそうになった晶を、ブラッドリーの鋭い視線が刺す。

    「──マーキングされてんだよ、フィガロに」
    「……は?」
    「てめえの身体から、あいつの魔力が馬鹿みたいに匂ってる」

    その言葉を聞いて、慌てて自分の首もとを嗅いでみる。たしかにフィガロ愛用の香油の匂いは若干するが、『馬鹿みたい』には香ってはいない。
    だが、嫌悪感を一切隠すことなくテーブルを指で叩くブラッドリーの仕草は、本当に馬の合わない相手と相対しているような空気感だ。
    晶が相手だからこそ、フィガロの魔力から避けずに留まってくれたのであろうブラッドリーの男気も、そろそろ限界そうだ。

    「あの、ブラッドリー」
    「あ?」
    「……ちなみに、どこにマーキングされているのか、教えてもらっても?」

    立ち去る前にどうしても気になる点を、晶は小さな声で問う。
    その質問にブラッドリーは気まずそうに目線を泳がせた後、晶の顔を一瞥した。

    視線が一瞬だけ捉えた先は、晶の──口元だった。



    ***



    次の授業の資料を集めようと図書館を歩いていた時、見知った気配が扉をくぐったのが分かった。
    魔法使いにしか感じることの出来ない『気配』を漂わせながら、闊歩する足音は少しばかり乱暴だ。
    そしてその気配は段々と近付き、止まる。

    「──フィガロ」
    「やあ、賢者様。今朝ぶりだね」

    フィガロを見据える晶の表情は、和やかな挨拶を求めているような雰囲気では無かったが、わざとそ知らぬふりをして笑って見せる。
    そんなフィガロの笑顔へ、晶は張り付けた笑みを返した。

    「フィガロ、私になにか言うことありませんか?」
    「ええ? 何だろう、いま賢者様へ報告することは無いけどな」

    その白々しい返答に、晶は更に笑みを深めて「聞き方を変えます」と続ける。

    「道すがら出会ったみなさんから『フィガロかと思った』と驚かれるんですが、なにかご存じないですか?」
    「へえ? なんでだろう、フィガロ先生分かんないや」
    「……なるほど? じゃあ、スノウとホワイトに相談してみますね、では」
    「いやいや。そのふたりを出すのは狡くない?」

    白けた目で踵を返そうとする晶の腕を掴み、本棚の影へと引きずり込む。
    フィガロに絡め取られた晶は、すこぶる不機嫌そうな顔で唇を尖らせていた。その『賢者様』らしからぬ直情的な表情に、フィガロはつい吹き出してしまう。

    「あはは、そんなに怒らないでよ」
    「怒ってません、困ってるんです。……なんですか、マーキングって」
    「残念、バレるのが早かったなあ」

    今朝方までベッドを共にして過ごしていたのに、さっさと賢者としての職務へ向かおうとする晶の背中が憎らしくて。つい、やってしまったのだ。
    フィガロたち魔法使いにしか分からない、晶の身体に纏わりつく魔力の気配。
    それは、フィガロ自身が自覚していた以上に色濃く晶を染め上げていて、目に見える深い執着
    はいっそ感慨深くすらある。
    不貞腐れたままの晶の唇を、フィガロは不意打ちで啄んだ。特に魔力の色が顕著な赤色へ、更に上塗りをするように。

    「……フィガロ? 面白がってません?」
    「ごめん、ごめん。嫌だった?」

    鼻先が触れ合う距離で悪びれもせず囁くフィガロから、晶は恥じ入るように目線をそらす。

    「気恥ずかしいんです。フィガロの名前を顔に書かれてるみたいで」

    名前とは随分可愛らしい。フィガロが塗りたくった魔力は、他が見れば首輪や枷のような悪質さすら覚えるものなのだが。
    そんな厄介な想いを可視化できない晶は、なにも知らずに「解いてくれませんか?」と頬を赤らめている。
    可哀想で可愛い賢者様の言葉に従うように、フィガロは軽く指を振った。

    「解いてくれました?」
    「うん、解いたよ」

    嘘だ。解くわけがない。
    フィガロ自身だと誤認されない程度に書き換えたが、マーキングはそのままだ。
    次にバレたら流石に怒られてしまうかな、と密かに笑うフィガロへ、急に晶が顔を上げる。

    「じゃあ、次は私の番ですね」
    「へ?」
    「悪戯するからには、仕返しされる覚悟も勿論ありますよね?」

    予想外の言葉に目を丸めたフィガロを本棚へと押し付けた晶は、ネクタイを緩めながら笑う。
    仕返しがあるなど露にも考えていなかったフィガロは、目の前の晶の動向を眺めるしか出来なかった。
    ネクタイをほどいた細い指は、次にフィガロの首もとへと伸びる。
    表情には出ていないだけで、本当は物凄く怒っていたのではないか?と今更になって不安を抱き肩が強張った。

    だが、フィガロが予想していた過激な仕返しはついぞやっては来なかった。
    たおやかな手は、開けっぱなしのシャツのボタンを掛け、そして立てた襟へとネクタイが通される。
    そして、手際よくネクタイは結ばれ、ぎゅうっと力強くフィガロの喉を締めた。

    「うっ……」
    「はい、出来ました」
    「ちょっと、きつく締めすぎじゃない?」
    「仕返しですから」

    満足そうにネクタイを叩く晶に、結び目を緩めようとしていた手を下ろす。
    代わりに自分の首もとを見下ろせば、いつもは晶のシャツを飾っているネクタイが、フィガロの元に居座っていた。

    「それ、夜まで外さないようにしてくださいね」

    悪戯は終わったと言わんばかりに、晶は足早に去っていく。
    図書館へやって来た時とは打って変わり、軽やかな足音がフィガロから遠ざかって行くのを聞きながら、普段は着ける機会のないネクタイを持ち上げた。

    「……賢者様にマーキングされちゃった」

    力一杯締められて首の苦しさはあれど、晶から貰った珍しい所有欲に声が弾んでしまう。
    長さの足りない、女物のネクタイ。
    さて、皆に見せびらかしに行っちゃおうと、フィガロは爛々と図書館を後にした。




              




    (おまけ)



    「おや、フィガロ様。随分とご機嫌でいらっしゃいますね」
    「分かる? ねえ、見てよこれ。いいでしょ、賢者様から貰ったんだ」
    「なんともまあ、可愛らしい首輪ですこと」
    「だろう? 賢者様は意地悪をしたつもりだろうけどさ、こんなの自慢にしかならないよね」
    「ああ、魔法舎を自慢気に歩いていたと思えば、その首輪を見せて回っていたんですね」
    「ふふ、賢者様、また意地悪してくれないかなあ」
    「面倒な人だこと。でも、近い内にきついお仕置きが待っていると思いますよ」
    「え? なんで」
    「賢者様が先ほどから、真っ赤な顔をされてフィガロ様を探されていましたから」
    「え」


    「──見つけた、フィガロ! 魔力、消したんじゃ無かったんですか!」
    「あっ、バレてる」



    おわり
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    DONEバンモモWebオンリー「百の恋と万の愛情を2」で企画されたウェディングプチアンソロジーへの寄稿作品です。

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    年齢制限の問題で、肝心の理解せ部分の描写はぬるめです。

    お題はプロポーズを使用しています
    わからないなら教えてあげる 今日は仕事終わりに恋人であるバンさんの家に来ていて、バンさん特製の手料理を食べてお風呂に入って……そのあと程よくお酒を飲みながら、二人で映画を観ようということになった。
    「僕は欲張りだから、キミの全てが欲しくなってしまったんだ。お願い、僕と結婚してくれないか──」
     映画を観るために部屋の明かりを極限まで絞って暗くしたワンルーム。
     爛々と照らされたテレビの中では、『結婚適応期にいる不器用な男女が運命的な出会いを経てからお付き合いし、時にはすれ違いながら、最後は結婚というゴールで結ばれる』という恋愛物にしてはありきたりなお話だけど、主人公たちの心情描写がリアルで、結ばれるまでの道のりが感動的なため、万人の心を掴み去年大ヒットした恋愛映画が映し出されていた。
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