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    ゆうや

    まほやく夢 賢者様(♀)が多い
    全ての話は、東南の大人たちに狂ったオタクが見ている幻覚です。

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    ゆうや

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    ミス晶♀️

    賢者の髪で手遊びするミスラと、好き勝手させる晶の話

    手中の獣──談話室はいま、膠着状態にある。

    一歩踏み入れたら動揺を勘づかれてはいけない、尾首にも疑問を滲ませてはいけない。
    談話室のソファーへ視線を向けてしまった魔法使いたちは、みな一様に固唾を飲んだ。
    だが、魔法使いたちが心配と動揺に苛まれる中、渦中のふたりは飄々とした顔で寛いでいた。

    「ミスラ、少し痛いです」
    「はあ、すみません。……これくらいで痛いなんて、人間は弱いな」

    晶に窘められたミスラは、面倒そうにしながらも応えた。
    晶はいま、ミスラを背にして足の間に腰を落とし、ソファーで淡々と本を捲っている。そして、背後でだらけるミスラは、晶の髪をすいていた。

    そう“あの”北のミスラが女性の髪をすいている光景に、居合わせた魔法使いたちは叫びそうになるほど戦いていた。
    晶も晶だ。賢者だから手荒にされることはないだろうが、うっかり首を持っていかれても文句は言えない。それだけの危うさがミスラにはある。
    晶も北の魔法使いたちと関わってきて、彼らがいかに厄介な気性をしているか分かっているはずなのに、簡単に背後と首を晒す姿は暴挙にしか見えなかった。

    そんな魔法使いたちの荒れた心中を他所に、ふたりはやはり静かだ。
    なにより、ミスラの手付きが柔い。
    晶の髪を掬っては流しを繰り返し、指の間を水のように落ちていく様を飽きず眺めている。その髪は細く涼やかで、この世界では珍しい髪質だ。
    物珍しさからか、今のところミスラが急に毟ったりすることは無さそうだ。

    「──あら、ミスラさん。賢者様の髪をといてさし上げているんですか?」

    ふいに、恐れを知らない穏やかな声が、ふたりの間に落ちた。
    ミスラはその声に視線だけを寄越し、首を傾げる。

    「とく? 暇なので遊んでいるだけです」
    「女性の髪で遊んじゃだめですよ、もう」
    「はあ、そうなんですか? 賢者様は何も言って来ませんけど」

    ねえ?とミスラが晶を覗き込む。
    背中にのし掛かられた晶は「ぐ、」と呻きながらも、本を潰さないように堪えた。

    「ありがとう、ルチル。私は気にしていないので、大丈夫ですよ」
    「それならいいんですが……。あ、そうだ! ミスラさん、遊ぶなら賢者様の髪を素敵に編んでみてはどうですか?」

    名案だと言わんばかりのルチルの声に、ミスラは気だるそうにしながらも手を止めない。
    そのままルチルの指示通りに、ミスラの指が晶の髪の束を取って編み出した。
    あっちを通して、こっちを抜いて、新しい束を掬って。
    ルチルの楽し気な声とミスラの時々混じる気の抜けた返事を頭上に、平然と本を読み耽っている晶はやはり大した度胸だと思う。
    しばらくして、ミスラが飽きる前にへアセットが終わった。

    「お上手ですね、ミスラさん! あとは編み込みの部分にお花でも飾れば、もっと綺麗なんだけどなあ」

    ルチルのぼやきに、ミスラが「花……」と呟く。
    そして少し考えた後、呪文を唱えた。
    談話室に突如響いた短い呪文に、ついに賢者に手を掛けたか!?と恐々と腰を上げた魔法使いたちは、ルチルの感嘆の息に遮られる。

    「わあ! ほのかに赤くて可愛らしいお花ですね」
    「……赤い花?」
    「ええ、賢者様の髪を綺麗に飾っていますよ」

    ルチルが手鏡で後ろ髪を映してやれば、晶は瞬いた後、やわくほころんだ。

    「本当だ、上手ですね」
    「ええ、本当に! ミチルにも見せてあげたいので、少しだけ待っていてもらえますか?」

    談話室を足早に去っていったルチルを見送り、晶はあくびをしたミスラへ囁く。
    内緒話をするような気安さで、晶は心底嬉そうに微笑んだ。

    「私の好きな花、覚えていてくれたんですね」
    「まあ、同じ色だったので。名前は……、なんでしたっけ、ペンシル?」
    「ふふ、ペンタスですよ」

    ころころと鈴が転がるような笑声をミスラはじっと聞き入り、ふいに顔を晶へと近付けた。
    鼻先が触れてしまいそうな距離に晶が目を丸めれば、ミスラは「ん」と自分の頬を指差す。
    その仕草に、晶はいま思い出したような顔で、ミスラの反対側の頬に手を添えた。

    「ありがとうございます、ミスラ」

    そんな穏やかな礼と共に、ぴとりと晶の頬とミスラの頬が合わさった。
    手慣れたチークキスに、別の意味で談話室がざわめく。
    晶からのお礼に満足したのか、ミスラは頬に添えられていた手を取って目の前の細い肩にしなだれかかった。

    「寝ます」
    「はい、おやすみなさい」

    賢者の力もあってか、時間も掛からず寝息が晶の肩を擽り始める。
    途端に静かになった背後のミスラを起こさないよう、再び読書を開始する晶は、談話室の妙な空気を察知しているのかいないのか。

    その心は、誰にも知るよしはない。




    おわり
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