大正くらいのぶつ切りぱろろど雨が屋根を打ち、板戸をばちばちと叩いている。昨年補強した家は強風にも軋みはしないが湿気と冷気は寝床まで侵入してくる。
ロナルドは大きく分厚い体躯に細く薄っぺらい生き物にひっつかれ昨晩から天井の木目を数えていた。引っ付いている方は頭まで布団に潜り込んで足を絡ませ暖をもとめてくる。すぅすぅと寝息が肌をくすぐり拍動が伝わる。
この細くて薄っぺらくて寒がりな生き物は十数年来のロナルドの想い人だ。彼の講談をきき物書きを始め、彼の弁舌に震え故郷を出た。東京にきたその日に身包みを奪われ途方に暮れたが巡り巡って彼に拾われ湯たんぽになっている。
すりっと胸に頭が懐いた。
「あさ?」
不意に寝ぼけた声が上がった。かけ布団から黒い頭がのぞいて引っ込む。
「まだ」
裏返りそうな声で答えるとまもなく寝息が再開した。ロナルドの方は下半身に血が集まり荒くなった息を腕を噛んで押さえ込む。想い人は恋人になり昨夜も体を重ねた中だ。だから彼も心やすく懐いてくれているのだが、若く血の気の多いロナルドは欲望のまま襲いかかったり布団の中で下着を汚すまいと拷問のような一夜を過ごした。