伝えられなかったものこれで何かを書き残してくれたら
なんて思ってしまう自分を許して欲しい
貴方を咎めることも許すことも出来ず
ただ傍に在って、
そこまで書いて、手が止まった。
何を書こうとしていたのだ。何を願おうとしていたのだ、と。自分はそんなことを願える立場ではない。ましてや、これを書こうとしている相手は、それを願ってはならない相手だ。
南風原は、妹を──秋鹿を殺した相手なのだから。
何故こんなことになっているのだろう。どうして、彼にそんなことを願うようになってしまったのだろう。わかっている。わかっているんだ。これがどうしようもなくおかしなことだと。
正常ではない。正当ではない。ましてや、正気でもない。そう言われるだろう。それでも。
それでも、どうしようもない感情があるのだ。
間違っていたとしても、錯覚だとしても、偽物だと言われても。それでも、抱いた感情は捨てることはできない。
オレは南風原唯織という男に傍に在って欲しいと、そう願っているのだ。
こんな感情は許されるはずがない。誰にも理解されない。意味なんてきっとない。
だから、ペンを置いた。
紙にやる手に力を込めた。真っ直ぐ伸ばされたそれに皺が寄る。ぐしゃりという音がして小さくなる。伝えるはずだったそれを、丸めてなかったことにする。
そっと放り投げて、机に臥した。
「これでいいんだ……」
誰に伝えるでもない言葉は、ゆっくりと冬の空気に溶けて消えた。