遠征から戻った国広は本丸内が少しバタついていることに気付いた。通りがかった燭台切に「何かあったのか」と聞けば「長義くんが倒れてしまって」と言われてしまい動揺してしまう。
「大丈夫なのか?」
「朝から具合が悪かったみたいでね。ただの風邪みたい。今部屋で寝ているよ」
「そうか……」
「薬研くんが薬を調合してくれているから、僕はお粥を作ろうと思って……そうだ、国広くん、長義くんの傍にいてあげてくれない?」
「え?俺が?」
「体調が悪いときって人肌恋しくなるって言うし」
「でも……俺は……」
「お粥と薬が用意出来たら持って行くから。よろしくね」
「ええ…」
部屋に戻って着替えた国広は恐る恐る長義の部屋を訪れる。そっと障子を開けると長義は眠っていた。そっと枕元に近付きしゃがみこむ。
(顔が赤い。熱があるのか)
普段とは違う幼い寝顔に見惚れていると、不意に長義の腕が伸びてきた。
「ほんかぁ!」
「またお前は勝手に俺の布を被って……そんなことをしているから転ぶんだよ」
「だって……ほんかのぬの……」
「お前は俺の写しのくせに泣き虫だね。泣き虫の写しなのかな?」
「ちがう!」
「俺の写しなら泣き止め」
「ぐず……」
「ん?お前、何持って…花?」
「あ!そう、おはな!きれいなおはな!ほんかといっしょ!」
「青い綺麗な花だね。摘んできてくれたのかな?」
「ん!ほんかにあげる!」
「そう、ありがとう」
懐かしい夢だった。ふと目を開けると目の前に国広がいる。熱のせいで頭が回らない長義はふと腕を伸ばし国広の布を掴んだ。
「くにひろ、またお前は俺の布を被って……」
「……え」
「……」
「や、山姥切…?」
国広の布を掴みながら長義は再び目を閉じた。布を掴んだまま離してくれない。どうしようとオロオロしているとき、そっと障子が開いて燭台切が顔をのぞかせた。
「国広くん、長義くんの様子は……」
「あ……」
「仲良しだね」
「た、助けてくれ燭台切…」
「お粥とお薬置いておくから、長義君が目を覚ましたら食べさせてあげてね」
「ま、待って、助けてくれ!」
一振り残された国広は恐る恐る長義に向き直る。すやすやと眠っている長義の顔色が少しだけ良くなったような気がした。
(は…早く起きてくれ……!)