オーカイ「書」オカワンドロ「書」
夕食を食べお風呂に入り、寝る前のリラックスして過ごす時間。カインは自室のソファで書物を読んでいた。身体を動かすことが好きなカインだが、読書をするのも好きだった。自分では経験したことのない体験を追体験できるし、知識が増えて行くのも楽しい。アーサーの臣下として社交の場で恥じない教養を身に付けたいのもあった。ページを捲って物語を追っていると、ノックや声かけもなくガチャ、と自室のドアが開いた。そこにはオーエンが立っていた。
「あ、騎士様、いた!」
嬉しそうに俺に駆け寄ってくる。いつもと様子が違うのは傷の方のオーエンだからだ。常のオーエンなら絶対にしない様な無垢な笑顔を向けてくる。
「オーエン。どうしたんだ?」
傷のオーエンがカインの所に来るのはいつものことなので慣れていた。遊んで欲しいのだろう。
「騎士様、ご本読んでるの?」
「ああ、そうだよ」
「文字がいっぱいで難しそう‥僕にも読めるかなぁ?」
「そうだな、もう少し大人になったら読める様になると思うぞ」
カインが優しく言うと、傷のオーエンはその答えに満足したように笑う。
「わかった。あのね、このご本読んで欲しいの」
そう言ってオーエンが差し出してきたのは絵本だった。魔法舎の書庫から持ってきたのだろう。呪いで病気になってしまったお姫様の治癒方法を探すため、お城に仕える騎士達が旅に出て数多の苦難を乗り越えて呪いを解く話だった。最後はお姫様と騎士が恋に落ちてハッピーエンドになる。カインも子供の頃に読んだことがあり、勇敢で逞しい騎士に憧れたものだ。懐かしく思いながらもカインは快諾した。
「ああ、いいぞ」
「わーい」
カインが本を受け取ってページを捲ると、オーエンがカインの膝の上に仰向けにごろんと寝転がってきた。いわゆる膝枕の状態だ。普段のオーエンは勝手に部屋に来て気まぐれにカインを抱くがこんな恋人同士の様な接触はしないので少しの戸惑いはありつつ、小さいオーエンのすることだし‥とカインは特に気に留めずに絵本を読み出した。
「騎士は大きなドラゴンにも怯まず剣一つで闘いました。ドラゴンの背中を登り、目を狙って剣を振り下ろします。すると、ドラゴンはぐにゃりと倒れて動かなくなりました。」
「わぁ‥騎士様もドラゴン倒せるの?」
傷のオーエンがキラキラした目でカインを見上げてくる。期待の眼差しを向けられて、傷のオーエンが可愛く見える。
「ああ、ドラゴンなら討伐したことがあるぞ」
カインが答えるとオーエンは膝枕のままカインの腰にギュウっと抱きついて来た。
「すごいね、騎士様!やっぱり僕の騎士様は強いんだ」
僕のという言い方が気になったが、喜んでくれたのならば良かった。
「はは、ありがとうな」
カインは抱きついて来たオーエンの頭を優しく撫でてあげた。オーエンはされるがままに身体を預けている。
「騎士様、それ、気持ちいい」
「そうか。いっぱい撫でてやる」
しばらく頭を撫でているとオーエンが静かになった。眠ってしまったのか‥と思っていたら突然手首をガシっと掴まれて驚く。
「‥ちょっと、頭なんて撫でてどういうつもり?」
オーエンの顔を覗き込むと、いつもの冷酷な表情をしたオーエンがいた。傷から元に戻った様だった。
「オーエンか。えっと、小さいお前が絵本を読んで欲しいって言ったから読んでたんだ」
「へぇ、わざわざ膝枕して?頭まで撫でて?」
傷から元に戻ったオーエンはその間の記憶がないらしく、いつもに増してこの上なく不機嫌そうだった。
「それは‥小さいお前が膝に乗って来たから‥」
カインがそう言うとオーエンは眉間に皺を寄せて起き上がる。カインの手を引っ張って、逆にソファに組み敷かれてしまった。
「騎士様は小さい僕が何をしても嫌がらないんだね。僕がする事には嫌だとかやめろってうるさいのに‥」
「それは、お前がいつも無理矢理するからだろ」
カインが疲れているとか眠いとか関係なく、いつもオーエンの気分で身体を嬲られる。オーエンとは恋人でもないのにこんな関係は変だとカインは思う。
「へぇ。無理矢理抱かれてるのにいつも感じてるんだ。騎士様ってマゾなの?」
オーエンが途端に楽しそうに見下ろしてくる。オーエンの指に、舌に、巧みに触れられてしまえば、弱い抵抗は意味をなくす。快感に勝てない自分をカインは少し情けなく思う。
「そりゃあ、お前に触られたら気持ちよくなっちまうし‥仕方ないだろ‥」
カインがそっぽを向いて小声で言うとその答えは悪くなかったらしく、オーエンが艶やかに微笑んだ。
「そう。じゃあ今夜も気持ち良くしてあげる」
そう言って首筋に噛みついてきた。噛みつかれた痛みの向こうにジワ‥と快感が呼び起こされる。今夜もオーエンに導かれて何度も果てるまで離してはもらえない。腰の奥がズクンと疼いて、カインは快感に身を任せた。