エスエマ練私がエスト先生の生徒になって、一つ魔術を覚えるという体験をしたおかげか…
エストさんとの距離は以前より近くに感じるようになった。
隣に座ることはよくあったけど、それからのスキンシップは、頭を撫でてもらったりする程度だった。
魔法による幻想的な光景を見せたエストさんの、内なる想いに触れた日から私はとても意識してしまっていた。
それはエストさんも同じだった様で…
いや、あの日を境に何かが吹っ切れたと言う方が正しいかもしれない。
いつものように隣に座って、のんびりと休憩時間を共有していた。
エストさんが時折、髪を撫でたり頭を撫でたり…
その感触には親しみを感じているけれど、それ以上に手の温もりに集中してしまう。
休憩時間なのに心休まらない時間を過ごしていると、ふと手を握られた。
「緊張しているのかな?この前は少し、自分の気持ちを押し付けてしまったかもしれないね」
「いえ!そんなことはないですよ…ただ、だからこそ、戸惑ってしまうというか…」
「僕の事をとても意識してくれているってことかな?」
「…!」
エストさんの琥珀色の瞳が間近に迫ってきて、思わず肩が跳ねてしまう。
すり…っと頬を撫でる手は優しく熱くて…
これってまるで……
意を決してゆっくりと瞼を降ろして、訪れるであろう感触に期待してみた。
エストさんの気配がより強くなってくる…
「おい、エスト!妹に手を出すつもりか!?」
「わぁっ!?」
「…ジーヴル……居たんだね…」
「大丈夫か?まだ何もされてないか?」
「だ、大丈夫…」
先程までの甘い鼓動と、ジーヴルが現れた驚きが混ざって、胸が痛いくらいドキドキしている。
ジーヴルの過保護加減には慣れたつもりだけど、今は止めないでほしかった…
また説教をしているジーヴルと、少し残念そうにしているエストさん。
はぁ……もう少しだったのにな…
…だけど、エストさんの気持ちの答えはしっかりと伝わった。
私ももう怯える必要はないのだと分かった事は、一つ大きな収穫だと思う。
今回はジーヴルにキスの邪魔をされたけど、お互いにそういう気持ちであることを確認出来た私は、不思議と晴れやかな気持ちになれた。