短文魚若コンコンコンッ。
突然、夜中に響くノック音。
今は夜の11時を過ぎだ時間。
誰であろうと訪問するには、遅すぎる時間だ。
まさに眠ろうとしていた西湖酢魚は、ノックの音に反応するも無視をした。
こんな自分に急ぎの用事などあるわけがない。
寝たフリをしていれば、訪問者も諦めて帰るだろう。
そう考えていた彼の考えは、あえなく覆された。
静かにそっと扉が開き、訪問者が部屋の中に侵入してきたのだ。
予想外すぎる展開に西湖酢魚は慌てて目を閉じた。
起きている事を悟られないように。
「魚さん、寝ちゃったの…?」
「………」
「早寝だね……私もやりたい事だけやって帰るよ」
「………?」
優しく小さい手が、彼の頬を撫でた。
若の言う、「やりたい事」に疑念を抱きつつ、西湖酢魚は狸寝入りを決め込む。
今の若はどんな表情をしているのだろうか。
気になって仕方ない気持ちを抑えながら、若の用事が終わるのを待つ。
ゆっくりと気配が近づいたかと思えば…
ちゅ…っ
粗末なリップ音と共に頬に柔らかい感触が訪れた。
目を開けずとも分かる行為に体が熱くなる。
どうか、起きていることに気が付かないでくれ!
キスをした若も羞恥心に負けたのか、終わるなり扉へ踵を返していた。
動揺からか、閉める音に気を使えないまま部屋を出ていってしまった。
静かな部屋に与えられた特別な感触。
暫く唖然としていた西湖酢魚は、長く細い息を吐いた。
若はまだまだ小娘。
それなのに、どうしようもなく愛しく感じてしまう感情に耐える事も慣れる事も出来ない。
そんな未熟な自分を少し憎む気持ちが生まれていた。