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    gumineko_mil

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    【リツ】一審 尋問

    ##リツ

    「楢原立、尋問を始めるぞ」
    「はい。よろしくお願いします、看守さん。……まずは、自己紹介でしょうか。俺は楢原立、十九歳です」
    「随分と礼儀正しいんだな」
    「そうですね……。新しく関わる人にはできるだけいい印象を持たせたいのかもしれないです」
    「いい印象……確かに、ここの囚人の中ではお前はまともに見える。ヒトゴロシだということはかわらないがな」
    「ヒトゴロシ……そう、ですね。俺は、人を……父さんを殺したんだと思います」
    「殺した相手を暴露するのか。言っておくが、虚偽も黙秘も認めているぞ」
    「いいえ。俺はそんなことしません。嘘を付くのは苦手ですので……父さんのことも、最後まで嫌いとは言えませんでした」
    「好きなのに殺したということか?」
    「そうですね。父さんを好きな気持ちと、俺の殺しは関係ないんだと思います。いや……俺が父さんを好きだったから、殺すことになったのかもしれません」
    「さっきからお前は何を言っているんだ……。曖昧な言い方ばかりだな」
    「曖昧ですよね。すみません。実は、殺し自体も実感が無くて……。この手で殺したことは確かなんですけど、その記憶はあいつが持ってるはずなので、俺には何とも……」
    「あいつ? 誰のことだ」
    「看守さんは会ったことないですか? その、俺にはもうひとつ人格があるんです。信じてもらえるかはわからないですけど、アユムっていう人格が、俺の中にいます」
    「多重人格……解離性同一性障害、ということか」
    「障害……。病気だとは、あまり思いたくないですが、そうですね。診断されたこともあるので、それで間違いないと思います」
    「ふぅん。とりあえず信じよう。それで、殺したのはもう一人の人格だから、自分を赦せと言いたいのか?」
    「……それは、違います。確かに直接手を下したのはあいつですけど、それをあいつだけのせいにはしたくないです。だけど、そうですね……。あいつを赦してほしいという気持ちは、あります」
    「冷静だな。お前の話だと、自分の別人格が父親を殺したことになる。取り乱すばかりか、庇うのか」
    「……俺には、あいつの気持ちが少しわかるんです。父さんはあいつを消そうとしていました。俺たちを統合させようとしていました。それが、少し怖かったんです。今ここにいる俺が、別の誰かになってしまう気がして、怖かった。否定され続けてきたあいつは、もっと怖かったんだと思うんです。だけど、俺は父さんのことを裏切れなくて……。統合することが、父さんにとっての最善ならって、治療を拒否できなくて。……だから、あいつが父さんを殺して、ほっとした自分もいました。自分でも最低だと思っています。もっと他に、方法があったはずだって思うんです。でも、こうなってしまったのは、仕方がないことだと思っています」
    「後悔はあったが、仕方がないことだったと……お前は、矛盾だらけだな。嘘を付いているようにも見えないのが、不気味なほどに」
    「俺は、いつも曖昧なんです。自分の気持ちがどこにあるのか、ふわふわしていて決まっていなくて……。だから、誰かを頼るしかなくて。……今回俺は、父さんじゃなくてアユムの方を選びました。父さんの方を選んでいたら、俺は俺として生きていなかったかもしれないですから」
    「……選んだ? 殺したのはアユムなんだろ? お前は何を選んだんだ」
    「それ、は……」
    「……おい、どうした? 急に俯いて」

    「殺したのは俺だ。リツは何も関係ねー」
    「……っ。お前が、アユムか。確かに、雰囲気が随分と違うな」
    「ああ、俺がアユムだ。信じるか信じないかはどーでもいい。看守に聞きたいことがある」
    「なんだ?」
    「赦す赦さないの判決を決める基準はなんだ? もし俺の罪を赦すとか赦さないとか決めるつもりならそれは間違ってる」
    「それは僕が決めることだ。お前に答える義理はない」
    「じゃあ一つ言っとく。俺は確かにあの男を殺した。けど、リツは殺してない。これは真実だ」
    「…………」
    「悔しーけど、あくまで主人格はリツだ。リツのことを庇うつもりじゃねーけど、俺の殺しを赦さねーなら、リツを赦さないにしたも同然だからな。それは、正しい判断か? それとも、お前も俺とリツを二人の人間として見ないつもりか?」
    「まだ赦さないとは言ってない。その基準も含めて、これから考えるから安心しろ。まあ、僕がどうするかは、僕次第だがな」
    「……他人事だな。本当に自分のことを言ってんのか?」
    「っ……それは……」
    「まあ、どーでもいい。で、俺に聞きてーことはねーのかよ」
    「……。ひとつ、ある。……アユム、本当に父親の殺しは、お前ひとりでやったのか? そこに、リツの関与は一切ないんだな?」
    「…………。ねーよ」
    「まあいい。嘘であろうと真実であろうと、心象を見て判断する」
    「……看守、お前は自分がいつ死ぬかもわからないあやふやな存在だったら、どーする? そのうえで、存在を否定され続けてきたら、どーする? そんな状況で、まともに生きる方が無理だ。殺さなきゃ、殺されてたかもしれねーんだ。ようやく居場所を見つけたってのに、あんな奴のせいでで死にたくなかった。消えたくなかった。俺は、ただ生きたかっただけだ! 生きるために、生きちゃいけねー奴を殺しただけだ! あの男は……それくらい、俺を、母さんを、苦しめてきた! リツが忘れてても、俺が覚えてる! だから……!」

     ——ゴーン(鐘の音)。

    「時間のようだな。アユム、とりあえず落ち着け。お前の言いたいことはわかった。僕はまだまだお前達のことを知らない。心象を通して、これから知っていく。そのうえでどんな判断をするのかは僕にもわからない。それでも、理解したい。お前がどうしてヒトゴロシをしたのかを、理解したい。僕は看守だが、それ以前に、お前の理解者になりたいと、思っている」
    「看守…………。フッ。まるで、アイツみたい、だな……」
    「……? アイツ? 誰のことだ?」
    「…………」
    「聞いてるのか? アユム」
    「…………看守、さん? あ、すみません……リツです。その、何か、ありましたか……?」
    「忙しない奴だな。まあいい。どのみち尋問は終わりだしな」
    「もう、そんな時間なんですね。看守さん、どうか、あいつ、赦してあげてください」
    「それは、僕が決めることだ。……囚人番号●●●番リツ、お前の罪を、歌え——」
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