シアオク本掲載予定短文親愛なる、オクタビオ・シルバ様
貴方との思い出は、残念ながら少し短いものになってしまいましたね。初めての手紙が、最後の手紙になってしまうことを、どうか許してください。
私は貴方のことを、貴方が私のことを知るよりも少しだけ多く知っていました。それはオビの言葉から、時には雑誌やスクリーンから。オビが貴方との交際を教えてくれたその日から、自然と貴方を探し、目で追うようになっていました。
戦場やメディアを縦横無尽に駆け回る貴方は、親の私から見ても息子とは正反対で、あぁだからこそ、あの子は貴方に惹かれたのだろうと感じました。
オビはよく私に言いました。
『オクタビオは自分に足りないものを沢山持っているが、自分が持っているものを持っていない』
『だからそれを与えたいと思うし、自身も与えられていると感じる』
病室に初めて来てくれた貴方を見て、私もそれを確信しました。
貴方は分からないながらに、オビや、初めて会う私達に歩み寄ってくれていましたね。
主人に付き合って病室を出ていく貴方の背中を見て、無性に愛しくなったのを覚えています。
そしてプレゼントのストール。あれは誰にも譲ってあげることはできない、私の宝物になりました。主人や、勿論オビにだってあげません。あの日はなんだかとっても幸福な気持ちになってしまって、ずいぶん遅くまで眠れなかったんですよ。
貴方は会うたびに、私の自惚れでなければ、少しずつ心を開き寄り添ってくれていましたね。
病室に二人になった時、貴方のご実家の事情も話してくれました。今までで一番浮かない顔をしていた貴方は、随分と長い間その呪縛に囚われていたのでしょう。
そして私は貴方にねだりましたよね?一度でいいから『母さん』と呼んでみてほしいと。
すると貴方は少し悩み、口ごもりながらも、一度だけ。小さな声で呼んでくれましたよね。私はそれが、とても嬉しかった。
烏滸がましいことだとは分かっていますが、私の息子や、私達夫婦に多くのものを与えてくれた貴方に、私からも何かを贈りたかったのです。
貴方は貴方自身が思っている以上に、私達に多くの安心と幸福を与えてくれているんですよ?
だから、どうかお願いです。
オクタビオ。
愛しい、私のもう一人の息子。
どうか、あの子の手を離さないで。
オビはどんなことが起きようとも、貴方を手離し見捨てることはないでしょう。貴方はオビにとって、世界を美しく彩ってくれる光に違いないからです。
そして貴方も、誇れるほどに幸せな日々を過ごしてください。そしてその誇れる日々が、あの子の隣であることを願っています。
貴方はどこまでも幸せになって良いのです。その権利を、産まれたときからずっと持っているんですから。
これからもずっと愛しています。
母より