寒い、と呟く唇を尖らせて、その人は不機嫌そうに僕を見た。あたためてよ、と求める声は身勝手そのものなのに無碍にさせてはくれない。
極寒の雪山、視界は荒れ狂う白。一呼吸するたび喉が痛んだ。事の重大さをわかっているのかいないのか、いつもの調子を崩さないテラさんを半ば強引に説き伏せて、というより巻き込んで、ようやく下山したのが数刻前。疲弊した身体を引きずって、なんとか命を繋ぎ、ようやく安全な場所で安心して休めるかというときにこの人は。
「……あの、遭難したのは天彦なんですが」
「そうだね」
「しかも、助けてくれませんでしたよね」
「そうだっけ?」
「テラさん、天彦はとっても寒かったです」
「だったら、僕の気持ちがわかるでしょ」
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