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    パスレヴ/二人の幸せなエンドを辿るルート(個人的解釈に基づく)/糖度高め

    ※相変わらず捏造しかありません。
     パスクエに記載されている内容をチェックしてはいますが、抜けがある可能性があります。
     レヴはかなり前にパスに絆されている設定です。
     大丈夫な方だけよろしくお願いします。

    死にたがりのララバイ ザリザリという重い鉄を引き摺る音と共に古ぼけた巨大な引き戸が微かに開く。
     人間が使わなくなって随分と久しいこの廃工場は、錆び付き崩れかけた金属製の屋根と、所々に穴の空いたコンクリート壁のお陰で真夜中でも微かな光源を得ていた。
     そもそも、私もこの廃工場での同居人も人間ではないのだから、明かりなど存在しなくても問題無く周囲を見回す事が出来る。

     「ただいま! レヴ? 居ないの?」

     廃工場で唯一、まだ普通に開閉が出来るその扉の僅かな隙間からガチャガチャと忙しない摩擦音を響かせつつ、狭そうに身を縮ませて中に入り込んできた相手に呆れた気分のままツインアイを向ける。
     そんな私の視線に気がついたらしいポンコツロボット……パスファインダーは、後ろ手でドアを閉め直すと、迷い無くこちらの方へと歩みを進めてきた。
     相変わらず丸々とした赤いモノアイがつるりとした光沢を帯び、胸部モニターに描かれた顔文字は忌々しい程に笑顔のマークを浮かべている。
     何がそんなにコイツは嬉しいのか。コイツと共にあるようになってから永い月日が経っていたが、未だ理解出来ない時の方が多かった。

     「もう、折角君の愛しのパスファインダーが帰ってきたのに、挨拶も返してくれないなんて」
     「一人で出掛けるな、と伝えていた筈だが?」

     コイツ曰く、『素敵な椅子』だという幾つかの廃材を組み上げた物に座り込む私の前にまでやってきたパスファインダーにそう言えば、慌てたように胸部モニターの顔文字が一瞬だけ切り変わった。
     だが、すぐさま笑顔のマークを取り戻したパスファインダーの手には、まるで絵本の中に出てくるような藤で出来たバスケットが大切そうに握られている。
     それを私の前に恭しく置いたパスファインダーは、こちらの言葉に返事を戻す事はしないまま、周辺の床上に雑多に置かれたガラクタの中から一つのランタンを取り出した。
     よくある既製品の小さなランタンは、まだ真新しくオイルも入っている。
     あぁ、これはまだ新しかったか、とぼんやり考えている私の前で、そのランタンに火を入れたパスファインダーは、それを平らに均されたある程度の高さがある廃材……コイツ曰く、こちらは『可愛いダイニングテーブル』らしいが、少しだけ離れた場所にあるその天板にランタンを置く。
     そうしてまるで踊るかのように、クルリと無駄に一回転したパスファインダーの身体からまた、ガシャリと音がした。

     「君、スイカズラのジャムが好きだって言っていたでしょう? だから僕ね、とっておきの物を用意したんだ」
     「……そうか」

     私の反応に特に気にした様子もないまま、早くバスケットを開けてみろという様子のパスファインダーに唸り声をあげそうになる。
     けれど、結局はそんな声を出す事を止めた私は、床に置かれたバスケットへと手を伸ばした。
     そうして古風さすら感じる蓋をそろりと開けると、一瞥を投げてその中身を確認する。

     「スイカズラのジャムだけだと寂しいから、スコーンと、それからサンドイッチも! きっと喜んで貰えると思う。だって、僕はあのテンメイの副店長だったんだから!」
     「キッチンを火の海にしてクビになったと言っていたクセにか?」

     蓋を閉じ、パスファインダーを揶揄するようにそう言ってやれば、胸部モニターを照れた顔へと変えたパスファインダーは、またもや笑顔の顔文字へと戻ったかと思うと、その無駄にデカイ身体を反らせて胸を張った。

     「それでも、僕はそこそこ頑張ってた! そこそこっていうのは、……間違いが起こりにくい、混ぜたりとか、計ったりとか……そういう事をね。それに、パンやケーキを焼くのは僕の役目だったんだ。……そんな僕の前に君がやってきたのは、2708年だったね!」
     「その話は、もう聞き飽きた」

     私はこれ以上、その話をしたくなくなり、どうにか話題を反らそうと試みるが、無駄なのはわかっていた。

     「僕にとっては大切な思い出なんだもの。あの時は気が付いていなかったけど、君を初めて見た日なんだから! それに、僕がこの話をしたのは五四回だけだよ。それって聞き飽きた事になる?」

     沈黙を貫く私の前で、さらに一人で話を続けるパスファインダーを注意深く観察する。

     「そういえば、アジェイもテンメイに来た事があったなぁ。彼女に教えて貰って、スコーンを今日作ったんだ……あれ、でも……、アジェイは……」

     不意に笑顔の顔文字を映しているモニターにノイズが走る。
     今回はここまでらしい、と私はただ何も言わないまま、クエスチョンマークを映して首を傾げたパスファインダーの合成音声に混ざるエラー音を聞く。
     私には何も、出来ない。そう下した結論は余りにも前に確定していたからだった。

     「……あ、……れぇ……、え……レヴ……」
     「……どうした」
     「僕……ぼ、く……疲れちゃった、みたい……」
     「スコーンを張り切って作り過ぎたからだろう。……すぐに良くなる、電源を再起動させろ」
     「……う……ん……」

     そう言ったパスファインダーは、私の声に頷くと、過去にみた他のMRVNのようにダラリとその両手を前へと垂らして前傾姿勢を取る。
     この瞬間は何よりも恐ろしく、そうしてどこか望んでいる自分がいた。
     先の見えない未来を、ようやく終わらせる事が出来るかもしれないという期待があるからだろう。

     私達があのAPEXというふざけた【ゲーム】に参加していた頃から、約六十年近い月日が経過していた。
     私やパスファインダーと最初の頃に戦場を駆けていた皮付き達は、段々と全員年老いて、現在は生存している人間の方が少ない。
     そうして、APEXという競技自体も、その野蛮さや運営会社であるハモンド社の黒い疑惑が持ち上がってからは、次第に新しく発足された競技に圧されてその存在感を薄くしていった。
     その為、現在【ゲーム】は開催すらされず、【レジェンド】という名称も今では過去の栄光、もしくは、時代遅れの戦闘狂と皮肉混じりに言われる事は少なくない。
     だからといって、【レジェンド】達のファンも全く居なくはないらしく、特にアウトランズのエネルギー危機を救った目の前に立つパスファインダーの銅像は、未だ輝きを失う事なくオリンパスに常設されたままだった。

     そんな【ゲーム】に私が参加して、十年十一ヵ月という年月が経ったタイミングで、私にとっては死刑よりもなお、惨い宣告を受けたのは、このメモリーログにしっかりと刻まれている。
     その頃の私は、いい加減に代わり映えの無い人生に飽き飽きとしていた。
     多少なりに【レジェンド】の入れ替わりはあっても、結局、やることは変わらない。
     ローバを邪魔してやろうとしても、十年という月日はあの女の輝きを確かに翳らせ、奴は【ゲーム】自体から降りようとしていた。
    そうして、私は私で、あの女に固執するよりも、早く死ぬという方向に意識を転換してしまうつもりだったのだ。

     無論、その十年の間に何度ハモンド社やレジェンド達の仲を操作しようと試みたかわからない。
     私の暗躍によって切れた絆も、逆に強固になった絆も数多くあった。
     そうして、本来ならば明るみに出ずに済んでいた筈のハモンド社のどす黒い面も幾つもあった。
     そうして、最後に私の手によって晒された秘密によって、かなりのダメージを受けたらしいハモンド社から、私は自らグリッドアイアンに向かう事を制限された。
     厳密に言うなら、【ゲーム】の舞台装置の一部にされたとでも言えば良いのだろうか。

     【ゲーム】以外での破壊や、転送施設より一定距離以上離れた場所に居た場合は、私の意識を新規シェルに移し変えないという新たなコードを無理矢理に追加されたのだ。
     激昂した私に、顔も知らぬハモンド社の研究員は『どんな競技にも、観衆の怨みを引き受けてくれる完璧なヒールという存在は不可欠なんだ』と下らない妄言を吐いた。
     IMCの地下倉庫でその戯言を発した通信機を壁へと投げ付けて破壊した時、私の横には既にパスファインダーが存在していた。
     いまだに何故? という疑問が頭をもたげる事象は数多くあったが、私の中で最大の疑問は、この青いロボットが途中から妙に私を慕っていた事だった。
     そうして、その混ざり気の無い、ある意味で真っ直ぐ過ぎて痛いくらいの思慕は、見事にこちらの正常な回路までをも焼き切り、私も私でこのロボットを傍に置くのを許容している。

     パスファインダーは、私とハモンド社とのやり取りを聞いてから二日後にあり得ない提案をしてきた。
     それは、私の代わりにグリッドアイアンまでソースコードを取りに行くという物だった。
     だが、二十年という月日は余りにも長く、往復すれば四十年だ。
     その期間をただ独り、こんな独房でお前を待ち続けて過ごすなど不可能だと言った私に、赤い目を光らせたパスファインダーは『フェーズランナーがある』と呟いた。
     改良を重ねられ、アウトランズからグリッドアイアンまでを約一年の距離にまで縮められるその装置は、オリンパスの地下に封じ込められ、ハモンド社の手の中だった。
     それでもやってみる価値があると言ったパスファインダーは、その角張った武骨な手で私の手を握り込むと、『今度は君だけのヒーローになりたい』と相変わらずの笑顔を浮かべていた。

     結果として、パスファインダーは無事にフェーズランナーから出発し、グリッドアイアンでの旅程を終え、私の前へと舞い戻ってきた。
     三年という月日が経ち、諦めかけていた私の前に戻ってきたパスファインダーの腕の中には私がずっと探し求めていた過去の私が居た。
     それこそ、死ぬ程探し求めたモノがそこにあった。
     けれど、私はそのソースコードと引き換えに失ったモノの重さも、その時に初めて理解してしまった。

     パスファインダーがこの【ゲーム】に参加していた理由を失念していたワケではない。
     そのリスクは話し合いを重ねた結果、メモリーの格納部を強化する事で回避出来るという結論に達した。確かにその筈だったのだ。
     しかし、ソースコード奪取のタイミングで戦闘になったらしいパスファインダーの強固に固定していたメモリー格納部が僅かに緩んでいたらしく、こちらに戻ってくる際に奴の記憶媒体に傷がついてしまった。
     前回のように浅く広範囲ではなく、深く、そうして最も重要な部分を侵食するようについた傷は、パスファインダーのメモリーや機能を徐々に破壊する。
     それに気が付いた時には、もう手の施しようが無いくらいに再起動の回数が目に見えて増えていた。

     目の前でまだダラリと両手を垂らしたままのパスファインダーへと視線を向ける。
     ランタンの明かりでぼんやりとした輪郭を縁取られたその姿は、何度見ても、次はキチンと目を覚ますのかとこちらを不安にさせた。
     テンメイでコイツが働いていた、という話を聞いたのは六百回を悠に超えている。
     光がある方が良いだろうと、姿をローブで隠しながら街に行った時に購入したランタンの数も、もう二十は過ぎていた筈だ。
     私は、この繰り返される生活の狭間で、全ての回数を数える事を放棄した。
     真面目に考える必要が無いからだ。
     それは、コイツの再起動が一週間に一回から四日に一回の間隔になった時に理解した。

     最初の頃、私はコイツが渡してきたソースコードをすぐさま破壊して貰い、死ぬつもりだった。
     やっとこれで私は私の地獄から解放されるのだと、そう思っていた。
     でも、こんな様子のパスファインダーを置いて死ぬ事を私は躊躇った。
     何故なら、コイツのパーツは高く売れる。
     【ゲーム】外でコイツを壊してパーツにしようとした不届き者どもを私は何度か徹底的に処理していた。
     だから、もしも私が死んだ後、記憶の明瞭さを失ったコイツが誰かに捕まり、ワケの分からぬままに解体される場面をイメージする。
     それだけで無い筈の臓腑が煮えくり返るような感覚がした。
     そうして、再起動の度に私の姿を探すだろうコイツの姿は簡単にシュミレーション出来る。
     つまり、一人置いて逝ける程、私の中でコイツという存在が占める割合は小さくなかったという事だろう。

     ふと、足元のバスケットを見つめる。
     その籠の中身を私はもう知っていた。
     瓶詰めにされ、赤を通り越して濁りきった黒色になったスイカズラのジャム。
     固くなり、周囲にカビを纏わせたスコーンだったもの。
     サンドイッチは途中で腐敗した汁を落とすようになったので、今はもうこの中には入っていない。
     そうして、それらの奥に隠されるようにしまいこまれた、文字が溶けて消えてしまうのを恐れた私が随分前に防水加工を施した、案外人間味のある文字で書かれた歯の浮きそうなくらいの愛の手紙。
     柔い金属を寄せ集め、加工して作ったらしい二つの大きさが異なる不恰好なリングの入った銀の小箱。
     何度も見て、指先でなぞった忘れようの無いそれらを、コイツは何度だって廃工場の隅から引っ張り出してきては私をピクニックへと誘う。
     今日は僕らにとって人生で最高にハッピーな日なんだと、リングを取り出してハートの目をした顔文字を映すパスファインダーの顔を見る度に、私は私という存在の価値を再認識する。

     ――――常に、人の都合ばかりで生かされてきた人生であった。
     他者の尊厳を完膚なきまでに害するのも、それを通り越して惨たらしく殺傷するのも、それらは私にとって呼吸をするのと変わらない。
     暗殺者としての仕事は天職だと言えた。
     しかし、だからといって、それを永遠に自分の意思とは関係無く続けさせられるのは許せなかった。
     私は、奴らの操り人形などではない。
     意識を取り戻した時に強く覚えた殺意だけが、私がケイレブ・クロスであった事の証明のように思えた。
     レヴナントという名で生きる時間が増える度に、"私"は少しずつ死んでいく。
     身体ではない、人間としてあった筈の喜怒哀楽がじわりじわりと死んでいくのだ。

     でも、このポンコツロボットと出会い、IMCの地下倉庫で人間として生きていた四十四年という短い年月について他者から初めて問われた時、私の中の人間性はほんの僅か、息を吹き返した。
     だから、他者に話すつもりの無かった私の過去を話した。
     思えばあの時から、私はコイツに他の皮付きに向けるのとは異なる感情を得ていたのかもしれない。
     そうして、書いた手紙の宛先人をレヴナントだけではなく、ケイレブ・クロス宛にもしていたパスファインダーの気遣いに揺れる心があった。

     他者の為に自分の欲を抑え込む事、そうして、自らの身を投げ出す事。
     それらを"愛"というのならば、私はきっと初めてその感情を持って他者に接しているのだろう。
     少なくとも、私は自分を殺すという目的だけを頼りに生きていた。歪ながらも、その目的だけは変わり得ないだろうとも、そう信じていた。
     けれどそれは違ったのだ。一体の陽気さと冷酷さを併せ持った取るに足らない筈のロボットがそれを教えてくれた。
     肉体という枷が失われ、それでも続く自らの永く苦しい生から漸く解放されようとする真っ只中で、私はそっとこれまでの路を辿るように振り返り、立ち止まる事を決めたのだ。
     誰の命令でもない、知らぬ間に操作されているのでもない。
     私は私の為に、この愚かしくも可愛らしいロボットを最期まで見届けると決めた。

     「……再起動完了、……エラー……確認、……復旧可能箇所までの復元開始……」

     ギリギリという音と共にそう声を上げたパスファインダーの項垂れていた顔がゆっくりと上向く。
     ノイズを走らせたモニターは、数秒も経たずに笑顔の顔文字を表示させた。
     赤いカメラアイが光を認識したのか一度ランタンへと向けられたかと思うと、すぐさまこちらへと頭部が向き直り、焦点を合わせているのかレンズの奥で微かにピントが動いているのが見える。
     そのまま今度は私の足元へと頭部を向けたパスファインダーは慌てたように、床に置かれたバスケットを指さした。

     「あ! それ、もう中身見ちゃった? ……僕、君と一緒にピクニックに行こうと思って準備していたんだよ」

     笑顔の顔文字から、慌てたようにエクスクラメーションマークへとモニター表示を変えたパスファインダーは、私の足元に置かれたバスケットを手に取ると大切そうにそれを抱え込む。
     この姿を見るのも一体何回目だっただろう。そうして、あと残り何回、見られるのだろうか。
     不意に湧き上がる疑問を封じ込め、特に重い感情も籠めないまま私はゆるりと声を発する。

     「さぁな? 先ほどお前が私の所に持ってきたばかりだったから、中身は知らん」
     「そっかぁ、それなら良かった! これはとっても大切な物なんだよ、あ! ……えっと、大切っていうのはね……」
     「……ここで話をするのか? お前の望みはピクニック、とやらなんだろう」

     途中で言葉を重ねるようにそう言ってやれば、またもや笑顔を取り戻したパスファインダーは浮かれた様子でクルリとその場で回り出す。
     そうして聞き慣れた、ガシャリ、という音が静寂に満ちた廃工場の空気を揺らした。
     APEXが廃れ始めた時期を見計らって、私は自身のソースコードとパスファインダーを引き連れ、ソラスでも最果てに近いこの廃工場へと移動したのだが、やはりここは静かで丁度いい。
     以前にあった企業間戦争の再来か、とも噂される程に目まぐるしく歴史が変化していく最中に、二体の時代遅れで旧式なロボットとシミュラクラムをこんな砂漠の奥地くんだりまで追いかけてくる程、ハモンドの奴らも暇では無かったのだろう。
     ここが私とコイツの墓場になるのなら、それはそれで悪くは無いと思える場所だった。

     「あぁ、そうだった! じゃあ早速出発しよう! ね、レヴナント」
     「今日は、どこに行くつもりなんだ」

     私に背を向け、歩き出したパスファインダーはつい先ほど自ら閉めたドアの前へと移動すると、鉄錆の浮いた開閉用の手すりに手を掛けた。
     ザリザリという音と一緒に扉がゆっくりと開かれていく。開いた扉の向こうからは砂漠の上で煌々と輝く巨大な満月が見えた。
     淡く射し込む光の中で、青い機体がその姿を朧げにする。

     「君の望む所へ! だって僕たちはもう自由だもの! どこへだって行けるんだ。それに今日はとっても明るくって、いいお天気だから、どこに行ってもきっと気持ちが良いよ」

     そのまま振り返ったパスファインダーの首が微かに傾ぎ、モニターには目をハートにしたマーク。
     月光の下でどこまでも透き通るような儚くも美しい存在を、私は確かに自分のメモリーへと強く、深く、刻み付ける。
     コイツがこの先、私との全てを忘れてしまっても、私はきっと、自分の命が終わるその瞬間までこのロボットを忘れないのだろう。
     初めて実感した、"愛"という名の感情と共に。

     「……あぁ……」

     早く行こうと勇むパスファインダーがこちらを手招きしているのを確認して、座り込んでいた廃材からゆっくりと立ち上がると、私は迷いなくその背を追いかけていた。
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