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    ミラプトWeekly用【陽炎/ひまわり/ウィンク】/転生ネタ/ハピエン(予定・続きはいつ書くか未定)

    ※ここからほぼ捏造になります、苦手な方はご注意ください。
    大丈夫な方だけよろしくお願いします。

    リインカーネーション-Ⅱ ゆらゆらと揺れる陽炎かげろうの向こうに消え行く後ろ姿が、脳裏にこびりついて離れてくれない。

     〔リインカーネーション-Ⅱ〕

     「よいしょ……っと。はぁー、今日は随分あちいなぁ」
     ガイアのオフィス街の中心地にある名もなき小さな公園。
     日々働きに出てくる社会人達にとって、憩いの場ともなっているその公園の名物として有名な慎ましくもたくましく咲き誇るヒマワリの花壇の前にて、乗ってきた黄色の小型キッチンカーから取り出した立て看板を地面に置いたエリオットは、額に流れ出す汗を拭いながら、穏やかな空気のただよう公園を一瞥いちべつする。
     ほどよく筋肉のついている褐色の腕に取り付けられた時計の針先は午前十一時半を僅かに過ぎた辺り。
     立て看板には【パラダイスカフェ】という筆記体で書かれた文字と共に、本日のメニューの詳細と値段がチョークにて書かれている。
     いそいそとキッチンカー内部へと戻ったエリオットは、慣れた手付きで既に仕込んで詰めておいたライスと野菜をふんだんに使用して作られたカラフルなランチボックスの中身を確認し始め、その目は外に咲き誇るヒマワリのように明るい色を灯していた。

     【エリオット・ウィット】という存在がAPEXという競技の中で【ミラージュ】と呼ばれていた時代から約百五十年余りの時が過ぎ去っている。
     今ではAPEXという競技は廃れてはいたが、完全に記録から抹消された競技というものではなかった。
     エリオットが生まれ落ち、そうして過去に存在していた【ミラージュ】という人間の記憶を取り戻したのは、今から約十年ほど前の話だ。
     当時まだ二十歳そこそこのエリオットにしてみれば、転倒したタイミングで頭を強く打ちつけた事による恐ろしい後遺症だと思い、数々の病院にかかったのは忘れられない出来事ではある。
     しかしながら、過去の膨大なAPEXに関するデータをいくつも確認し、そうして自分の中に残る、まるで昨日の事のように思い出せる記憶達との余りの整合性と類似性にエリオットが己の存在を改めて自認したのは当然の帰結だった。

     ――――ごく稀に、自らの前世を全て覚えている"転生者"と呼ばれる人間が居るのだという。
     あくまでもおとぎ話に過ぎないと考えられているその現象は、確かにエリオット自身に当てはまりすぎていた。
     その上、ただの"転生者"ではない。
     名前も容姿も、前世の存在である【ミラージュ】と呼ばれていた【エリオット・ウィット】と酷似しているのだ。
     そうして家族に関してもある程度は同じ構成をしている。
     しかし同じ構成をしているものの、環境に関しては随分と異なっていた。
     母親であるイヴリンに関しては未だに現役技術者として日夜精力的に働いており、三人の兄弟であるロジャー・イーロン・リッキーに関しても戦争におもむく事なく得意な分野を生かして気儘きままに各々の生活を送っている。
     父親であるリチャードは、唯一、エリオットが幼い頃に病死していた。
     現在の自分を取り巻く環境の尊さに"過去"の記憶をよみがえらせたエリオットが感謝し、元々母親思いだった一面をさらに強めたのは言うまでもない。

     そうして、エリオットは、ある意味自分自身の"過去"とも呼べる記憶の中で、最も後悔している日を忘れる事が出来ずにいた。
     それこそ、その日のせいで自分はもう一度【エリオット・ウィット】をやり直したくてよみがえったのだと思えるくらいの強烈な記憶。
     だから、今度こそ後悔しない為に、エリオットは自身の料理のスキルを磨き上げ、自前の店舗と、それだけでは足りないとキッチンカーをもちいて色々な場所を移動しながら人々に食事を提供する事にした。
     いつ会えるとも限らない、エリオットが探し求める人物ともう一度再会する奇跡を夢見て。

     そうして、エリオットがこの土地にキッチンカーでランチボックスを売りに来るようになってから半年ほど経つが、中身の彩りと栄養バランスの良さにも関わらず比較的安価な事と、店主であるエリオットの人好きする朗らかな笑みと顔の良さが口コミで瞬く間に広がり、今ではわざわざ離れた職場からエリオットの作るランチボックスを買いに来る人達のお陰で、昼時になるとキッチンカーの周辺は常に盛況になりがちだった。



     そうしてあっという間に時刻は十二時。
     ここからはある意味戦場だとエリオットは覚悟を決めて、備え付けたカウンター越しに続々とキッチンカーの方へと向かってくる人達の姿を見つめながら、つけていたカーキ色エプロンの前側で作ったリボン結びの締める力を引っ張って強める。
     「やぁ、今日のメニューもいいね」
     「だろ? このエリオット様が作ってるから味は勿論、ほ、……ほ、保証付きだ! ほら、どうぞ。ついでにちょっとだけサービスもな」
     「お、ラッキー! でも俺だけサービスして貰ったって同僚にバレたらなんか言われそうだ」
     「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」
     いつもほぼ一番に買いに来てくれるようになった常連の中年男性に、エリオットはカウンター越しにこれもついでにサービスだ、と軽やかなウィンクを決めてみせる。
     そんなエリオットの様子に、釣られるように歯を見せて笑った男性客は後ろに並ぶ列の長さに気がつくと、慌ててビニール袋に入れられたランチボックスを受け取り、手を振ってその場を後にした。
     その後も次から次へと話しかけてくるひとりひとりと交流しながら、手早く客をさばいていくエリオットの用意したランチボックスの数はどんどんと減っていく。
     「お、丁度アンタで最後だな。今日はきっとラッキーデーだぜ」
     そうしてそう言いながら狭いキッチンカーの中でランチボックスを袋に入れるために後ろを向いていたエリオットが前を向いた瞬間、持っていた袋を取り落としそうになるのをどうにか残っていた理性が支えた。
     「……そうか。初めて来たが、この店は随分と繁盛はんじょうしているんだな」
     カウンター越し、アジア系の顔をした一人の男がどちらかといえば涼しげな雰囲気を漂わせた瞳でエリオットを見返してくる。
     男性にしては全体的に少しだけ長めの黒髪。疲れているのか眼鏡にめ込まれたオレンジ色のレンズの下に隠された目の縁はクマが出来つつある。
     よれたワイシャツの襟元には青いネクタイが申し訳程度に結ばれていた。
     「……ッ、クリプト……!」
     「え?」
     エリオットは堪らず袋に入れたランチボックスを持ったままキッチンカーから風のように飛び出すと、車の前で唖然あぜんとしている男へと、しっかと抱きついた。
     周囲にはまだ人々が居るには居たが、普段はヘラヘラとしがちなエリオットの余りの焦燥ぶりに誰も触れる事も出来ずにどこか遠巻きに見ているだけ。
     しかし、エリオットにしてみたらそんな事はどうでもよかった。
     ずっと焦がれ続けた存在が居る。やっと見つけた。ただ、その感情だけが脳内を満たしていたからだった。
     「クリプト……クリプト……!」
     「……く、……っ、おい! ……離せ……!」
     だが、男は強く抱き締めてくるエリオットの胸を押し退けるように両手を突っ張ると、その身体を無理矢理離させる。
     「【クリプト】ってなんだ? 誰と勘違いしているのか分からないが、俺はそんな名で呼ばれた事は一度もない」
     「……え……」
     「……そもそも、お前、誰だよ」
     向けられる確かな疑惑の眼差しに、エリオットは何も答えられずに黙り込んだ。
     自分が"過去"の記憶を取り戻したのだって、本当にただの偶然に過ぎない。
     でも、きっとクリプトも同じく"過去"を取り戻して自分をどこかで探しているんだと信じ込んでいた。
     エリオットはそんな自分に都合の良い夢を見ていたんだという事実に、本当にこの"過去"が真実なのかすらも疑いたくなる。
     だがしかし、目の前で立つクリプトそっくりの姿をした男はどう見たってやはりクリプトにしかエリオットには見えなかった。
     グルグルと絶望感に浸されつつあるエリオットを前にして、男は困ったように眼鏡の位置を直しながら静かに呟く。
     「あー……その、なんだ……俺は【クリプト】ではない。お前の言っているソイツと俺は、多分、そっくりなんだろ?」
     「……あぁ」
     優しくフォローするようなその言葉を受けて、ようやくエリオットの頭が再び回転を始める。
     それは目の前に立つ男の目元にある泣きホクロに見覚えがあったからだった。
     この男は確実にクリプトだ、とエリオットは結論付ける。
     現に、男の着ている服は、APEXの競技中にクリプトがたまに身に付けていた私服風の衣装とほぼ同じだからだ。
     けれどその記憶を持たないクリプトからすれば、エリオットの言動は確かに恐ろしく感じるのは当たり前の話だろう。
     エリオットは泣きたくなる気持ちを抑えながらも、どうにか唇を動かす。
     「あぁ……、本当にそっくりだよ。……急に抱きついたりして悪かった。……ずっと……ずっと、俺はソイツを探して色々な所を回ってたから……」
     「……そう、なのか……それは期待に沿えずすまないな」
     「いや、良いんだ。……いいんだよ」
     どんな状況にせよ、クリプトが同じ時代に生きている。
     そうして少し疲れてはいるようだが、少なくともあの頃のように常に周囲を監視しながら生きているのでは無い事に安心したエリオットは、それでも離れがたさに胃がひっくり返りかけながらもどうにか言葉を紡ぐ。
     そんなエリオットの様子に、どうすべきかを考えているらしい男はチラリと腕につけているシンプルな時計へと目を向けた。
     「……すまないが、俺ももうそろそろ行かないと……」
     「あ、そう、……そうだよな。悪い……これ、迷惑かけたからやるよ。代金はいらない」
     「……しかし……」
     「いいから。……俺はエリオット・ウィットだ。まだしばらくの間はここら辺でこの時間帯くらいに商売してると思うからさ」
     エリオットから半ば押し付けられるように手渡されたランチボックスを受け取った男は、ビニール袋とエリオット、それから時計を順々に見遣ってから、確かにいきなり抱きつかれたというのを詫びる品としては妥当だと判断したのか小さく頷く。
     そうしてその後、何も言わずにクルリとその身を反転させると、頭上から燦々と降り注ぐ太陽の光の下、エリオットの方を一度たりとも振り向く事無くオフィス街の方へと足早に歩いていってしまったのだった。
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