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    verderven

    @verdervenのぽいぽい。えっちなやつとか、特殊なやつとか、ワンライの一気読み用とか。
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    ワンライ3/6 「つくりばなし」

    ##モクチェズワンドロライ

    「つくりばなし」「ねぇねぇ、おじさん! ショーもスゴかったけど、わたしおはなしが聞きたい!」
    「エッ、おはなし?」
    「うん、おはなし!」
    某国、郊外。有刺鉄線の張り巡らされたとある貧困層が住まう区画で、俺はチェズレイが持て余していた金をいつものようにストリートパフォーマンスをして捌いていた。それも無事に終わり人通りも減って、警備の目をかいくぐって帰ろうとしていた矢先、さっきのショーを最前列で見ていた少女に声をかけられて今に至る。
    来るときも通ったこの場所は高い塀と建物で死角になっていて、それ故人目もない。あまり少女一人で残しておくには忍びなくて、目線を合わせるためにしゃがみこんでから俺はとりあえず笑いかけた。
    「おはなしって、どういう話のことかな? おじさん、ニンジャジャンはショーのことしか知らなくてね。アニメとかはサッパリなんだけども……」
    「そういうのじゃなくて、ステキなおはなしがいい! おヒメさまが出てくるみたいなキレイなやつとか、いぬさんやねこさんが出てくるかわいいやつ!」
    「おじさん体を動かすのは得意なんだが、口の方はちょいと自信ないなあ……。それに、童話の類は詳しくないんだが……」
    「でも、おはなし聞きたいもん! おはなししてくれるまではなさないんだからっ!」
    しゃがんだ俺の肩辺りの服を掴んだまま、女の子はキラキラとした目をまっすぐに俺に向けてくる。それがまるで何か不可避な攻撃のように眩しい。歳を重ねるとどうにも若さというのが眩しく感じるもんらしい、とその視線が沁みる。
    ふと、既視感に襲われた。ふわりと浮かぶ脳裏の記憶を手繰ると、昨夜の相棒の瞳が浮かぶ。昨夜まだ夜も明け切きらないうちに目が覚めたから、俺は小腹を満たそうと冷蔵庫の中身で簡単な夜食を作っていた。そしたらチェズレイが奥の寝室から起きてきて、普段からは考えつかないような舌足らずな声で名を呼ばれた。その2時間前にベッドの上で致していたことを考えれば抱えて寝室に戻ったほうがいいとは思ったが、わざわざだるそうな体で椅子を引きずってきてまで、カウンターキッチンでお湯を沸かす俺と一緒にいようとする相棒の健気さに俺は何も言えなくて。結局そのままカウンターの向かい側で肘をついて俺をぼんやりと待つことにしたらしいチェズレイは、この子と同じように「話をして」とねだってきた。だから取り留めのない話をポツポツと話しつつ手元の料理を手早く仕上げていくと、チェズレイはどんどん出来上がっていく深夜の料理をこの子と似たような目をして見つめていた。期待と、多少の我儘と、悪戯心。どこか眠そうにとろんとした目を、それでも輝かされたら逆らえるはずがない。愛おしい瞳が微笑ましくて、俺は自分用に作ったつみれ汁をチェズレイの分も少しよそって、そのまま二人でゆっくり食したのだった。
    「……おじさん?」
    「あ。……はは、すまんすまん。……うーん、そうだねえ」
    すっかり記憶の中へ帰っていたのを引き戻され、俺は顎に手を添える。口先の巧みさでは右に出る者なしの相棒がいるもんだから、そっちのスキルは誤魔化し方くらいしか育ってない。でも思っているよりずっと強い力が俺の服をグイグイ引っ張ってくるので、俺は諦めて改めてそこへ腰を下ろした。時間に余裕はあるし、チェズレイも今日はどこぞへ視察へ行くと聞いている。そんなにすぐには戻らないだろう。ついに話す気になったことを感じたのか、俺を引き止めていた女の子がちょこんと隣に座って、よりバワーアップしたキラキラな瞳を向けてきた。
    「おじさんおはなし得意じゃないから、下手でも勘弁してね」
    「いいよ。わたしが聞きたいんだもん」
    「……じゃあ、ゴホンッ。えー……、昔々、一匹のたぬきがおりましたとさ」
    「たぬきさん!」と嬉々として膝立ちになった女の子は、頷きながら続きを待つ。その膝が少しでも痛まないように、地面に広がっていた俺の羽織を引き寄せ、その上へ移動させた。頭をフル回転させて、俺はポツリポツリと話を続ける。
    「たぬきはいつも一人でね。一人でよく木の上でぼーっとしてたんだよ。そこは素敵なものが集まる場所だったから、たぬきの好きな場所だった。木々の葉ズレの音や、川のせせらぎ、魚の跳ねる音、農作をする人の声……時折、美しい音楽も聞こえてきて」
    「私も音楽だいすきっ!」
    「うん、綺麗だよね。おじさん、楽器はからきしなんだが聞くのは結構好きで――……」
    「おじさん、つづき!」
    横道にそれそうになった俺を叱りつけるようにせっつかれたので、慌てて再度頭を回転させる。
    「…………えー……たぬきはよく一人になったが、気にかけてくれる人はたくさんいてね。でもたぬきときたら面倒くさがりで、せっかくもらった素敵なものも受け取りそこねてばかり。そのくせ、自分から取りに行こうとしやしない。挙句、話しかけてくれていた他の仲間たちの声も、だんだん聞こえなくなっちまってね。いや……聞こうとしてなかったんだろうな」
    「うんうん」
    「……そんなたぬきを、それでも大事にしてくれていた人がいてね。そのお方は、たぬきの恩師ともいえる方だったんだ。みんなに慕われていて、みんなが大好きだった。それなのにたぬきは、ある日そのお方を――弑してしまった」
    「"しい"って?」
    「ああごめん、……取り返しがつかないくらい、とっても深く傷つけちゃった、ってことだよ」
    頭を撫でる。サラリと指に通る髪は金に輝いて、夕日に透けていた。
    「…………」
    「それでそれで? おじさん、続きは?」
    手に馴染む頭の形は撫で心地が良くて、何度もその頭を手で往復させてしまう。その子が気持ちよさそうにとろんと破顔したまま続きを促してきたから、俺は微笑んで続けた。
    「……たぬきは絶望したよ。後悔をして、同じくらい傷つかないと贖罪が果たされないと思った。だから、ずーっとその方法を探したんだ。海や山や、地の底から空に至るまで。――とても、長い間ね」
    いつの間にかピタリとくっついていたその子がじいと俺を見つめてくる。長いまつげがまばたきのたびに揺れていた。その下に輝く目が続きを促していたから、俺はまた口を開く。
    「そうしていたら、ある日空の上でその方法を与えると言ってくれたやつと出会ってね。……それは、お歌の上手なきつねだった」
    「きつねさん」とその子が呟いた。聞き入ってくれている表情はいつの間にかずっと真剣な眼差しになっていて、その薄い色の瞳がずっと俺を貫いている。頭を撫でつけながら、俺は促されずとも続きを口にした。
    「そのきつねはそりゃあもう律儀なやつでね。さっさとこらしてめてやればいいものを、『それじゃあ意味がない』、『自分の美学に反する』っちゅうて、たぬきが必死になって顔を逸していた本当の気持ちを引きずり出しちまった。満身創痍になりながらも、全力で向き合ってくれてさ。その姿を見ていたら、たぬきも自分自身と向き合うことができるようになったんだよ。逃げ癖のついたたぬきの退路を、わざわざ全身で絶ち切ってくれたんだ。おかげで進んできた方向が間違ってなかったことがわかったし、これから進むべき方向も見えた」
    「……」
    押し黙って真剣な面持ちで聞くその子の、ぴょんと跳ねる髪が頷くたびに揺れるから、くるりと指を絡めてみる。
    「きつねは俺に、……たぬきに、傷つけた反省の方法だけじゃなく、その後を生きる意味も目的も理由も全部与えてくれたんだ。……感謝してる。ちょっとやそっとじゃあ返しきれん恩をもらったよ。だからずーっと一緒にいて、きつねのやりたいことを手伝わせてもらうことにしたんだよね。嬉しいことにきつねもそう望んでくれたもんで。空も海も雪の中も、いつでもいくらでも、お互いがお互いである限りずっと一緒にいようって指切りしたんだよ」
    撫でていた頭が、少し揺れる。視線をやればその子がぎゅっと抱きついてきた。俺の肩に寄りかかるようにして、背中に腕が回った。首に息がかかる。
    「……それで、そのあとたぬきさんときつねさんはどうなったの?」
    耳元で高い子供らしい声が響く。どこかで聞いた声だと思っていたが、ようやく記憶と合致した。かつて飛行船で助けた少女の声だ。ただ記憶のあの子とは肌の色も髪の色も、目の前の子と一致しない。ここに来てわかりやすいヒントに俺は笑って、未だにどうやってるのか検討もつかない小さな背中をぽんぽんと叩く。
    「こういう話の終わり方は相場が決まっててね」
    「へェ……どんな?」
    体を起こして俺をまっすぐ見つめるアメシストの煌めいた瞳に、俺は微笑みかえした。そして低くポツリと、その作り話をお決まりの言葉で終わらせる。
    「『その後二人は、末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし』」
    「フフ……随分と雑な終わらせ方ですねェ……いかにもあなたが作るフィクションだ」
    聞き馴染みのある愛おしい声をこぼす唇が仮面の下から現れたから、俺は改めてその体を強く抱きしめた。いつの間にかすっかり夜が覆う空が、星を散りばめて輝いていた。
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    verderven

    DOODLEモクマさんお誕生日おめでとう〜〜!!(フライング)
    モクチェズ版ワンライ「エンドウ」日差しというよりは湿度が高いせいか、調べていた気温よりも体感的にはずっと暑い。今が秋だなどととても信じられない暑さにノックアウトされそうになりつつ、チェズレイは一人、通された客間で大人しく座っていた。やることもなく、仕事も片をつけてきたので考えることもなく、暇つぶしに出来ることすらない状態で放置されてしまったチェズレイは、ぼんやりと客間を見回した。開放的なデザインの民家だ。レイアウトも統一されており、最低限以上に清潔に保たれている。
    モクマとともに南の国に降り立ってから約五時間。少し難しい大きな仕事を終えたチェズレイとモクマは、休暇として一ヶ月近く休みを取っていた。各国所々様々な事由により、その動きが鈍くなるとほぼ確定的な空白期間。今後通してもあるかないかの休息日。それがチェズレイ及びモクマの誕生日近くと重なったのは、随分と都合のいい話だった。「ずっと頑張ってたから、ご褒美もらえたんじゃない?」と楽観的に言われた瞬間、張り続けていた気が緩んでしまったのは秘密だ。おそらく察されてはいるので、大変今更ではあるのだが。ともかく、その期間はモクマの現在の実家へお邪魔するかと聞いたのはチェズレイのほう。モクマが了承し、モクマの母に連絡を取り、今に至る。
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    DONEモクチェズワンドロ「ビンゴ」
    「あ……ビンゴ」
     もはや感動も何もない、みたいな色褪せた声が部屋に響いて、モクマはギョッと目を見開いた。
    「また!? これで三ビンゴ!? しかもストレートで!? お前さん強すぎない!? まさかとは思うが、出る目操作してない!?」
    「こんな単純なゲームのどこにイカサマの余地があると? 何か賭けている訳でもないのに……」
    「そりゃそうだが、お前さん意外と負けず嫌いなところあるし……」
    「……」
    「嘘です……スイマセン……」
     ため息と共に冷ややかな視線が突き刺さって、肩を落として、しくしく。
     いや、わかっている。療養がてら飛んだ南国で、早二週間。実に何十年ぶりという緊張の実家訪問も終え、チェズレイの傷もだいぶ良くなり、観光でもしようか――とか話していたちょうどその時、タブレットがけたたましく大雨の警報を伝えて。もともと雨季の時期ではあったけれど、スコールが小一時間ほど降ったら終わりなことが多いのに、今回の雨雲は大きくて、明日までは止まないとか。お陰でロクにヴィラからも出られなくて、ベッドから見える透き通った空も海も(厳密には珊瑚で区切られているから違うらしいが)もどんより濁って、それで暇つぶしにとモクマが取り出したのが、実家にあったビンゴカードだったのだから。ゲームの内容を紹介したのもさっきだし、数字はアプリがランダムに吐き出したものだし……。
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