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    verderven

    @verdervenのぽいぽい。えっちなやつとか、特殊なやつとか、ワンライの一気読み用とか。
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    verderven

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    モクマさんお誕生日おめでとう〜〜!!(フライング)

    モクチェズ版ワンライ「エンドウ」日差しというよりは湿度が高いせいか、調べていた気温よりも体感的にはずっと暑い。今が秋だなどととても信じられない暑さにノックアウトされそうになりつつ、チェズレイは一人、通された客間で大人しく座っていた。やることもなく、仕事も片をつけてきたので考えることもなく、暇つぶしに出来ることすらない状態で放置されてしまったチェズレイは、ぼんやりと客間を見回した。開放的なデザインの民家だ。レイアウトも統一されており、最低限以上に清潔に保たれている。
    モクマとともに南の国に降り立ってから約五時間。少し難しい大きな仕事を終えたチェズレイとモクマは、休暇として一ヶ月近く休みを取っていた。各国所々様々な事由により、その動きが鈍くなるとほぼ確定的な空白期間。今後通してもあるかないかの休息日。それがチェズレイ及びモクマの誕生日近くと重なったのは、随分と都合のいい話だった。「ずっと頑張ってたから、ご褒美もらえたんじゃない?」と楽観的に言われた瞬間、張り続けていた気が緩んでしまったのは秘密だ。おそらく察されてはいるので、大変今更ではあるのだが。ともかく、その期間はモクマの現在の実家へお邪魔するかと聞いたのはチェズレイのほう。モクマが了承し、モクマの母に連絡を取り、今に至る。
    何故一人なのか、という疑問に関してはもちろん、チェズレイがこの家にいる理由である当人の性質によるものだ。時間には余裕をもって約束をしたはずだが、どうやら今朝何かしら想定外のことがあり、迎える準備が間に合わなかったらしい。それは構わないのだが、迎えられる側のモクマはその数十分後に何か思いついたような顔をして、「ちょっと手伝ってくるから、留守を任せていいかい?」と車で迎えに来た妹とともに買い物へ向かった夫人を追っていってしまった。親子、あるいは兄妹水入らず、という言葉が脳裏をかすめたチェズレイに止めることは出来ず、その背中を見送ってから一時間近く経っている。
    この家には――恐らく近隣の家も同様だろうが――風が通る工夫がされていた。とはいえ、風が抜けるだけでは体感温度は下がっても湿度は飛ばせない。それゆえに、北国生まれの体が慣れるまでは毎度時間がかかった。それもモクマを追わなかった理由の一つだ。
    いかに相棒の親が住む家とはいえ、他人の生活を覗く趣味はない。そしてどこに何があるかわからない以上、迂闊に探索することもできない。そういうわけで、世界をまたにかける「仮面の詐欺師」はその長い足をぴっちり閉じ、よく沈むソファにちょこんと座ったまま大人しく相棒の帰宅を待っているのだった。改めて暑いな、とどこか他人事のようにぼんやり考えながらチェズレイは目の前の机に出されたお茶へと視線を戻す。カラン、と溶けてバランスを崩した氷が鳴った。――ふいに。
    「えー! モッちゃん、それほんと!? チェズレイさん来てるの!?」
    「うん。ちゅうか、俺がチェズレイと一緒じゃないと動けんからさ。俺がいるってことは、あいつもいるってことだ」
    「やったー! お母さん、来てるって! チェズレイさんが!」
    「そうね。ほら、お行儀よくしてね」
    「モクマ、荷物を出すの手伝いなさい」
    それを合図にしたように、外がガヤガヤと騒がしくなった。開放されている窓を通して、玄関あたりからの声が届いたようだ。家人の帰宅を知り、チェズレイはすっかりソファに根を張っていた腰を上げる。玄関へ向かうため客間の扉を開けようとした矢先、扉は向こう側から開いた。
    「あ! おかえりなさい、チェズレイさん! こんにちは!」
    「こんにちは。……『おかりなさい』は、どちらかといえば私のセリフですね。おかえりなさい」
    「うん、ただいま!」
    飛び込んできた少女は、モクマの妹の娘――つまり、モクマの姪だった。優しげに垂れた大きな目は忙しなく動き、ぱちぱちと瞬く。チェズレイの腰元までしかない小さな体が、跳ねるように元来た道を翻っていった。
    「お母さぁーん! チェズレイさんいたよー!」
    「ああもう……! すみません、騒がしくしてしまって。こんにちは、チェズレイさん」
    「こんにちは。ご無沙汰しております」
    「おばあちゃーん! チェズレイさんいたぁー!」
    元気な声が遠ざかり、玄関の方へバタバタと駆けていく。モクマの妹はため息をつきつつもチェズレイに会釈して更に廊下の奥へと消えていった。それを見送ると、反対側、玄関のほうから両手いっぱいに荷物を抱えたモクマが入れ違いに戻ってきた。チェズレイを見つけ、微笑む。
    「ただいま、チェズレイ。すまん、思ったより時間かかっちまった」
    「いえ。何か手伝いは必要ですか?」
    「んにゃ、大丈夫。座っといていいよ」
    「チェズレイさん」
    チェズレイより頭一つ分背の低いモクマの、更に下。胸元から届く声にチェズレイは視線を移した。涼やかで凛とした老婦人が立っている。グレイヘアを美しくまとめあげ、しゃんと佇むその女性は、モクマの母、エンドウ夫人だった。目が合った瞬間、すっと夫人がチェズレイへ頭を下げた。
    「お疲れのところで留守の家を任せるなど、大変失礼をいたしました。お恥ずかしい限りです」
    「いえ。むしろ仕事柄常に思考を働かせているので、いいリフレッシュでした。どうぞお気になさらず」
    「……お気遣いありがとう。嬉しいわ」
    ふ、と優しく微笑んだその顔に相棒の面影を見てチェズレイも自然と笑みをこぼす。久しく会っていなかったとはいえ、実の息子であるモクマがいるからこそ、夫人はチェズレイを置いて準備に出たはずだ。そのモクマがチェズレイを残して追いかけてきたとき、果たしてどのようなやり取りがなされたのか。そんな親子の何気ない光景を見てみたかった、と叶うことのない願いを抱いたことが自分ながら滑稽だった。
    そんな二人の間から、モクマが先程までチェズレイが過ごしていたリビングのソファを指差す。膨らんだ買い物袋をまるで風船でも扱っているような気軽さで片腕にまとめながら、二人の体を気遣った。
    「あとやっとくから、休んでてくれ。チェズレイ、お前さんもまだ本調子じゃないだろう?」
    「あら……本当に申し訳ないわ。奥に布団を出しましょうか」
    「お気遣いなく。実は直前まで北にいまして。気温に慣れないだけです」
    「それはお辛いでしょう。何か冷たいものを――……」
    「おばあちゃーん!!」
    何度目か、元気な声が会話を割る。バタバタとリビングへ戻ってきた少女が顔を覗かせた。少し不安げな顔で見上げている。
    「わたしのコップいつものとこないよ? 動かした?」
    「ああ……洗っておいたの。あなたが来るかもって思ったから」
    「わかった、探す! みんなの分もお茶用意しておくね! あ、でもモッちゃんとチェズレイさんのコップないや。おばあちゃん、お客さん用のコップどこ?」
    「ああ、それなら――……」
    と、言いかけた母を制して、モクマは姪へと微笑んだ。
    「すまんが、チェズレイの分はおじさんにやらせてくれ。お茶の準備だけしておいてくれるかい?」
    「? いいよ。モッちゃんの分は?」
    「俺の分もチェズレイの分と一緒にやるよ。ありがとね」
    ぽん、と軽く頭を撫でたモクマに「はあい」と軽やかに返事をした彼女は、待ちきれないようにそのままキッチンへと身を返す。
    「待ちなさい。走ってはいけません。危ないわよ」
    チェズレイへ軽く会釈をして、夫人がその背を追いかけた。少女は祖母を気にかけたのか少し走ってからすぐ止まり、やがて合流した二人が廊下の奥を曲がる。
    突如訪れた二人きりの空間に、「しん」と静寂が満ちた。そこへモクマのわざとらしい咳払いが響き、無意識に見えなくなるまで二人の姿を追っていたチェズレイの視線が相棒へと動く。その先にいた相棒は目元を柔らかく微笑み、買い物袋の中で唯一紙製のバッグを差し出した。
    「実はプレゼントがあってね。せっかくだから今、使ってくれんか?」
    直前までなされていた会話から、中身はすぐに類推できた。それでもなお、すぐに終わらせてしまうのは勿体なくて会話を続ける。
    「……相変わらず、中身も見せずに承諾を得ようとなさいますねェ。まず先に逃げ道から塞ぐとは、何ともやり口が下衆なことで」
    「いやあ、喜ぶと思うよ? お前さん、サプライズするのもされるのも好きだろう?」
    「おや。事前に言ってしまっては、サプライズとは言えなくなるのでは?」
    「だから中身を秘密にしてるんじゃない。はい、チェズレイ。受け取ってくれ」
    ガサ、と音を立てて渡された紙袋の中にあえて中を確認せずに手を入れる。包装されているのか、四角い感触がした。そっと取り出してみれば、それは透明な簡易箱に可愛らしく包装された二対のマグカップだった。二つは全く同じデザインだが、その背景の色によって「夕暮れ」と「夜明け」のような印象を受ける。海とヤシの木をあしらったそれは、グラデーションのきれいな黄色と紫色だった。
    「――……」
    「ご存知のとおり、うちは兄弟が多くてさ。ものが混ざらんように、それぞれ分けてたんだよ」
    「……はい」
    自分以外の兄弟と育ったことのないチェズレイにはわからない感覚だ。あの広い家で家族と呼べたのは、母と自分と母の飼っていた犬しかいなかった。
    「特にコップと箸は専用だったんだ。色を変えて分けててね。さっき買い物に付き合ったとき、ちょうどそんな話が出たんだよ。……言われてみりゃ、俺は『黄色』だった」
    「……」
    「なんちゅうか、腑に落ちたよ。……無意識に選んでたらしい」
    羽織りや忍者装束など、モクマが身につけるものは黄色いものが多い。そのルーツがこれだ、と紹介されてチェズレイは胸の中にえも言われぬキュンとした感動を抱く。また一つ、モクマが深くなった。嬉しくてこみ上げるもので喉が詰まる。言葉が出ない。
    「そんで、この色はお前さんだろう」
    ただ自分を見つめるだけのチェズレイの瞳に何を感じたか悟らせない自然さで、チェズレイの手の中に収まる二対のカップの片方、紫のグラデーションの夜明け色をしたほうを指差してモクマは続ける。
    「ミカグラじゃあ、紫は高貴な色でね。気品があって、気高いお前によく似合う。初めて会った時からそう思ってたよ」
    「……ええ。好きな色のひとつです」
    「うん。だからね」
    一つの箱に収まり並ぶ二対のマグカップ。それを持つチェズレイの手を甲から包み、モクマは改めて美しいアメシストに視線を絡める。じわり、と手袋ごしに熱が伝わった。まるで世界に二人きりになったような錯覚に陥るほど、お互いの視線から逃れる気が起きない。ゆっくりと二人の間に挟まるマグカップを目線の高さまで誘って、モクマは柔らかく微笑んだ。
    「これは、エンドウ家でのお前さんの分だ。俺とおそろいのね。ここに帰るたび使えるように、置いといてもらおうね。マグカップなら、熱いのもひやいのも気にせず使えるだろう」
    「…………」
    「ちゅうことで。早速、これでお茶でもしないっ?」
    きゃるんっ、と妙な効果音がつきそうなおちゃらけた声が場を壊す。ふ、とようやく息を吐いた心地だった。居心地が良いのか悪いのかわからない。この場から叫びながら走り出してしまいたい。そんな表現できないむず痒さ。
    モクマの視線はチェズレイの表情を見上げる位置にある。視線をそらすことはできても、隠せない。いかに喜楽の感情だとわかっていても、昂ぶりすぎて頭痛すらした。喉の奥が開いて、目頭が熱くなる。こぼれる笑みをそのままにするか繕うか迷い、そのせいでどちらでもない妙に崩れた表情のまま、チェズレイは掠れた声で愛おしい名を呼んだ。
    「あァ……モクマさん……」
    「ん?」
    「どうぞこのまま、私の手を握っていてください。っそうでなければ、」
    「なければ?」
    わざと言葉を遮るタイミングで合いの手をいれるモクマの意地悪さに、取り繕うのが馬鹿らしくてやめた。内から込み上げるまま、嬉しさをあふれ咲かせる。
    「……あなたをおいて、"とんで"しまいそうで」
    「はは。そいつは困る。それじゃあ、俺にしっかり"つかまって"もらうよ」
    ぎゅ、と手を握る力が強くなった。ドキドキと心臓の脈打ちが体に響く。
    あまりに強い衝動が、先程からずっと腹の奥にぐつぐつと沸いていた。身も心も全て、目の前の相棒で恋人の男に委ねてしまいたい、と。このまま理性の欠片もなく、ただ感情を爆発させてしまいたい。今すぐに相手を求め合い、貪り尽くし、味わい、溶け合いたい。落ち着け、と警鐘を鳴らす理性を薙ぎ倒すのは最早困難ではなかった。いくらあふれさせても完全に受け取られて、しかも漏らさず包んでくれる心地良さを知ってしまったから。――もう、戻れない。
    は、と吐いた息は熱かった。逸らしていた視線を上げてモクマと琥珀と見つめ合う。目があった瞬間、不意に視界に映るモクマがギクリと肩を震わせた。チェズレイに比べれば色の濃く変化のわかりにくい肌が、それでも少し赤く染まる。吐息をこぼすように声が漏れた。
    「チェ――……」
    「モッちゃーん! チェズレイさあん!」
    廊下の奥から元気な声が飛んできて、今度は二人で驚きに肩を震わせた。バタバタと廊下を走る音に、チェズレイは反射的に飛んでしまいそうだった理性の仮面を被り直す。その様を確認してからモクマもそっと手を離し、駆けてくる少女を待った。やがて間を置かず、モクマの姪が飛び込んでくる。
    「まだ!? 準備できちゃったよ!」
    「いやあ、すまんすまん。お待たせ。すっかり話し込んじまってたよ」
    「申し訳ございません。もう参りますよ」
    「ああ、もう……っ!」
    慌てて彼女の母、モクマの妹も駆け込んできた。目線を合わせるためにしゃがみ込み、少し息の上がったまま娘の両肩を掴んで正面から叱る。
    「おとなしく待ってなさいと言ったでしょ! あと、いつも言ってるけど家の中じゃ走ったらいけません! 危ないでしょ!」
    「……はーい。ごめんなさい」
    「ごめんね、いつ兄。チェズレイさんも、すみません。この子、本当に運動神経が凄くて、体力も余っちゃってて……気づいたときには追いつけなくて」
    邪魔したか、と気にする妹に微笑んで「大丈夫」と声をかけてから、モクマもしゃがみこんだ。ヒーローショーですっかり子供の相手は慣れている。そもそも年齢問わず、モクマの相手に対する物腰の柔らかさは心の壁を溶かすのが早い。元々の気質で人との距離が近い相手ならば、打ち解けるのはもっと早い。この姪っ子の懐き具合を見れば、それは明らかだった。
    「かけっこ、得意なんだ?」
    「今まで誰にも負けたことないよ! モッちゃん、あとで勝負してよ!」
    「おっ、いいねえ。おじさん、負けないぞ〜」
    「じゃあ約束ね。絶対だよ! あたし、負けないから!」
    ふんっ、とふんぞり返って気合を入れた彼女は満足したのか、会話が終わるとすぐに母親の腕から弾かれるように逃れてもとの道を戻る。
    「おばあちゃーん! モッちゃんとかけっこ勝負することになったよー!」
    「ああ、ああ……もうっ……!」
    元気な盛りの少女を再び追いかける羽目になった母は「待ちなさい!」と叱りながらその背中を追っていってしまった。二人残された相棒たちは、ほぼ同時に視線をお互いへ向ける。
    「…………」
    「…………」
    そして、同時に吹き出した。
    「ははっ! 危ない危ない。助かった!」
    「フフっ……。ええ、時と場所も弁えずに口走るところでした」
    「……さて。それじゃあ、行こっか。全員は揃っとらんが、団欒の場所へ」
    す、と差し出された手を取る。腕にプレゼントで家族の証を大事に抱えて、チェズレイは「はい」と頷いた。部屋を出て家族憩いの場に向かいながら、モクマは小さくチェズレイへ囁く。
    「ところで、やっぱり口に出して言っといてもいいかい?」
    「フフっ。どうぞ」
    「……今夜、さっき口走りかけたちゅうその言葉は聞けるの?」
    「ええ、……時と場所が揃い次第、すぐに。チェズレイ・エンドウが約束いたしましょう」
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    モクマとともに南の国に降り立ってから約五時間。少し難しい大きな仕事を終えたチェズレイとモクマは、休暇として一ヶ月近く休みを取っていた。各国所々様々な事由により、その動きが鈍くなるとほぼ確定的な空白期間。今後通してもあるかないかの休息日。それがチェズレイ及びモクマの誕生日近くと重なったのは、随分と都合のいい話だった。「ずっと頑張ってたから、ご褒美もらえたんじゃない?」と楽観的に言われた瞬間、張り続けていた気が緩んでしまったのは秘密だ。おそらく察されてはいるので、大変今更ではあるのだが。ともかく、その期間はモクマの現在の実家へお邪魔するかと聞いたのはチェズレイのほう。モクマが了承し、モクマの母に連絡を取り、今に至る。
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