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    残念ながら全て幻覚でした!!!!(小噺only)
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    2023.1.29のプリコン18にて無料配布したペーパー①です。人生初のカミュ音くん!!

    #カミュ音

    ベルガモットに揺蕩う (カミュ音)これは成り行きで結ばれた関係に過ぎない。
    ただ何となしに、相手の勢いにペースを乱されて頷いてしまった。過ちに近いものでしかない。
     
    「アレキサンダー!‪ 遊びに来たよー!」
    男にしては少し高めのトーンをした元気な声が室内に響き渡る。声の主は事務所の後輩の一人である「一十木音也」。複雑な生立ちの身であるにも関わらず、明朗快活という言葉を体現したかのような性格の男だ。その声に部屋の奥に居たのであろう一頭の大型犬、俺の友人たるアレキサンダーが尾を振りながら駆け寄ってくるのが見えた。
    初めてアレキサンダーに顔合わせをさせた時は、一十木の勢いの良さに困惑した表情で何度もこちらを見ては指示を待っている様子に、ふと笑みを溢してしまったのは記憶に新しい。思わぬ反応に、より困った面持ちとなった友人に『客人としてもてなせば良い』と目配せすれば、少し間を開けてから遠慮がちに小さく一声鳴いていた。
    「ワンッ!」
    「あは、返事した!」
    「貴様があまりにも騒がしくて驚いたようだ」
    「そっかー。ごめんね、アレク〜」
    よしよーし、と声を掛けながらアレキサンダーの頭を優しく撫でる手付きはどこか手慣れている。それに対してアレキサンダーも心地良さげに耳を垂らし、緩やかに尾を振っている様はさながら大型犬同士の戯れにも見えて、こういった光景が周囲を和ませているのだろうと安易に推測出来る。
    「ね、カミュ先輩。今回のロケってどこまで行くの?」
    一通り撫で回して満足したらしい。一十木は立ち上がると背負っていたバックパックを床に置いて、勝手知ったる我が家のように上着を俺のコートが掛けてあるポールハンガーに掛けて再び荷物を手に取れば、ズカズカと中へ上がり込みながら問い掛けてくる。それの後ろに続くアレキサンダーも、こちらをちらりと見上げて返答を待っているようだ。
    「北の方だ。一週間後には戻る」
    「一週間か〜ご主人様と一週間も会えないのはさみしいね、アレク」
    鼻先を彼の掌に擦り寄せているアレキサンダーに視線を送りながらそう問い掛ける一十木の言葉に、まるで同意するかの如くアレキサンダーは小さく鳴いて、それをまた一十木が慰めるように鼻筋を指先で撫で擽っている。そんな二人に目を細めつつ、手洗い等を終わらせてからキッチンでミルクを温めたりとティータイムの準備をしていれば、続いて手洗いうがいを済ませてきた一十木がぴとりと隣に寄り添ってきた。
    「アレキサンダーより、お前の方が寂しそうに見えるが?」
    「えへへ、バレた?」
    図星だったのか、照れたように頬を掻いている一十木を呆れた眼差しで一瞥してから湯を沸かす為にケトルへと水を入れ、底部にセットして適温のボタンを押す。それから棚の中から茶葉が入った缶を取り出して蓋を開けると、ふんわりとした香りが漂い始め、その様子を眺めていた一十木が「あ、この匂い……」と言いながら嬉しそうな声色で呟いた言葉に思わず口元を緩ませた。
    「アールグレイだ。以前のティータイムに飲ませてから大層気に入っていただろう」
    「うん! だってこの紅茶、なんだかカミュ先輩みたいなんだもん」
    自分に似ている、とは……確かにアールグレイの"アール"は伯爵を意味するものだが、此奴がそのようなことを知っている筈もない。相変わらず突拍子も無い事を言い出す男だと溜め息交じりに「どういう意味だ」と言葉を返せば、一十木は「そのままの意味だよ」と言って笑いながらティーポットとカップを取り出そうと食器棚に手を伸ばす姿が視界の端に入り込んだ。
    「はじめの華やかな香りはアイドルのキラキラしたカミュ先輩でしょ。飲んでみると少し渋くて、でもなんか奥が深いっていうのかな。普段は厳しい時もあるけど、最後にはちゃんと優しいところがあるっていうかさ。そんな感じが似てるなって……あ、紅茶、俺が淹れるね」
    そう言いながら二つのティーセットを取り出すとトレーの上に並べていき、カップとティーポットに今し方沸いたお湯を注いでいく。温まったところでティーポットの湯を捨ててキャディースプーンで量った茶葉を中へ投下し、再び空気が多く含まれるように湯を注ぐ様は、そこいらの給仕にも引けを取らない程に洗練されていて、なかなか目を見張るものがある。このような関係になってからそれなりの年月が経っているということもあり、多少の贔屓目もあるだろうが淹れ方も随分と板に付いてきたもので、こちらとしても指導した甲斐があるというものだ。
    次いで茶葉を蒸らしている間もシュガーポットと共に戸棚から菓子類を何点か取り出し、それらを皿の上へ乗せると湯を捨てたカップに蒸らしあがる直前に温めたミルクを加えた紅茶をストレーナー越しに注いでいく。最後の一滴‪──ゴールデンドロップも滴り落ちれば、目の前には出来立てのミルクティーがふわりと湯気を燻らせ、アールグレイ特有の気高い香りで鼻腔を擽ってくる。その出来に、一十木は満足気に微笑みながらトレーを持って早く早くとソファーへ行くことを促してきた。
    「だからさ、俺、アールグレイ好きだよ」
    「……フン、好き勝手に言ってくれるものだな」
    「本当のことだから仕方ないじゃん」
    戯けたように笑い、ソファーに備え付けられたテーブルにトレーを置いて各々の場所にソーサーと共にカップと諸々を並べると、一十木は「はい、どーぞ」と一言添えつつ先に腰掛けて己のカップに砂糖を投下して一息ついている。その隣にゆっくりと着席し、角砂糖を数個カップへと落としてティースプーンで掻き混ぜていれば、視界の端で揺れていた赤がぽすっと俺の腕に凭れ掛かった。
    「ロケの度にカミュ先輩の家に来て、カミュ先輩のお布団で眠れるのは嬉しいけど、やっぱりカミュ先輩が居なきゃヤダなぁ」
    持ってきた皿の上に広げられた菓子の一つであったクッキーを摘み、視線だけをこちらに向けて甘えた声でそう告げる姿は、犬が構って欲しくて擦り寄ってくる様子に似ている。それを軽くあしらうように「ハウス」と呟くと、途端に不満げに唇を尖らせてから「俺は犬じゃないよ!」と反論してきた。
    「……仕方がありませんね。寂しがりの坊ちゃんには美味しい海鮮のお土産をお持ちしましょう」
    漸く一口、仕上がったミルクティーを口に含めば芳醇なベルガモットの香りと共にルフナ特有の独特なモルティーさ、そして上質な砂糖の甘みと仄かに優しいミルクの味わいが口腔に広がり、喉を潤していく。身体に沁み渡るその温かさに一つ吐息を溢し、未だ拗ねる一十木に対して執事の口調で答えれば、先程までの態度が嘘だったかのように勢いよく背筋を伸ばして「え、ほんと?‪ やったぁ!」と嬉々とした声を上げ、目を輝かせながら見つめてくる。傍らに控えていたアレキサンダーも一十木の気持ちを代弁するかの如く澄ました顔をしながら尾を振っていて、二人して喜んでいる有り様に現金なものだと思いながらも、そういうところが不思議と愛らしく思えるのだから、これが惚れた弱みというものなのかと人知れず頭を抱えた。
    「あと、カミュ先輩も欲しいなぁー?‪ なんて」
    序でのように言いつつも、ちらりと見上げる眼差しは先程の無邪気なものとは打って変わって、どこかあざとさを感じさせつつも蠱惑的だ。それを意図せず遣って退けているところが実に厄介であり、それがこの一十木音也という男の魅力でもある。
    「まるで発情期の犬だな」
    「それでもいいもん。カミュ先輩と一緒にいたい気持ちにウソはないから」
    赤い、真っ直ぐな視線が射抜くようにこちらを見つめてくる。この男に仮に下心というものがあったとしても、それを隠すような真似はしない。好いた相手には誠心誠意、それこそ猪のように猪突猛進してくるような奴である。
    「……一週間後の次の日にオフを入れておけ。もう一泊していくことを許可してやる」
    また一口、ミルクティーを堪能しながらそう伝えれば、一十木は嬉しそうに瞳を輝かせて、それこそ幻覚の尾を大きく振っている様子が見えてきそうな勢いで抱き着いてくる。その衝撃に、零さぬように上へと上げていたカップの中で嵩が減ったミルクティーがちゃぷんと波打っていた。
     
    これは成り行きで結ばれた関係に過ぎない。ただ何となしに、相手の勢いにペースを乱されて頷いてしまった。過ちに近いものでしかない。‪
    それでも、今はこの関係も悪くはない。そう思ってしまっている己に驚きながらも、腕の中に収まるこの犬のような恋人の愛らしさに、密かに笑みを浮かべるのだった。
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    DONE22年3月のリハビリリクエスト企画にて頂きました。リクエストくださった方とは縁が切れたので非公開でも良いのですが、他の方が書いたSSを漫画に書き起こしてストーリー構成などの原作は己だと自作発言をして盗作なさるような方なので一応保険のため残してあります。
    年長の二人の関係性に対して解釈が不明瞭・不慣れな部分が多いため所々関係性があやふやです。すまない。
    微睡みの星灯り。 (那レン)長い長い一日が終わる。
    今日の仕事はスケジュールがタイトだったこともあり、それもなかなか骨が折れる内容ばかりで気が付けば夜も更けていた。家に辿り着いた頃には日付けも変わっていて誰もいない部屋に重たい足取りで帰宅して、適当に荷物を廊下に置いてからそのままバスルームへと足を運ぶ。パウダールームで乱雑に衣類を籠に落として浴室へと移動しシャワーを頭から浴びれば、この身に溜まった疲労による怠さも全てが水滴に溶けて流れていくような気がして、一つゆっくりと息を吐いてからコックを捻りシャワーを止めた。
    時間も時間だからと軽めに入浴を済ませてからバスルームを後にして、途中で置き去りにした荷物からスマホを取り出し通知チェックをしながら髪を拭う。ある程度返信等を返してからテーブルに置き、軽くバスローブを纏ったまま明日のオフは何をしようか、などと返信を行いながら注いだ水の入ったグラスを片手に思案していると軽快な音楽が鳴り始めた。それと共にブブ、とテーブルの上で響く小さなバイブレーションの音に腕を伸ばし手にしたスマホの画面を見れば、まさかの人物からの電話に急いで通話をタップする。
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