5.ケンカした夜いつもはくっついて温もりを感じながら眠りにつく。だけど今日はそうじゃない。
昔は大抵のことには目を瞑ってきた。妹たちのわがままや、仲間の突拍子のない行動、そんなのにいちいち怒ってたらキリがなかったから。
でも大寿くん相手だと違った。沸点が低い。すぐにカッとなって口に出してしまう。手だって出る時もある。そんな俺を大寿くんは呆れた顔で見てる。
今日もそんな感じ。
「もう寝る!」
一緒に住む前は他に帰る場所があった。だけどここはふたりの家。籠る場所は限られている。
ベッドに潜り込んで頭まで布団を被った。
時間が経ってイライラが落ち着いてくると今度は自己嫌悪に陥る。何であんなこと言ってしまうんだろう、大寿くんまた呆れてた、嫌われたかも…。
ぐるぐると嫌なことばかり考えてると、だんだんと瞼が落ちていき、いつの間にか眠ってしまっていた。
目が覚めると俺は大寿くんの腕の中にいた。
いつもと同じ、大寿くんとくっついて、温もりを分け合っている。
辺りはまだ暗い。夜は明けてないみたいだ。
俺、酷いこと言ったよね?なのに何でぎゅってしてくれんの?
「ごめんね」
眠ってる大寿くんにぽつりと呟く。そしたら、寝てると思ってた大寿くんが動いて、ぎゅっと抱き締められる。
「たいじゅくんっ、起きて、」
「隆…」
「っ、」
大寿くんが俺の名前を呼ぶ時は、俺を甘やかす時。
そうやっていつも甘やかされて、俺はいつかダメになってしまわないかと怖くなる。
「もっと怒って…、ちゃんと叱ってよ…」
「お前が怒る相手なんて俺ぐらいだろ。溜め込まずにぶつけろ。受けてやっから」
「…なんでそんなに優しいんだよ、バカ大寿」
「バカって言うな」
この優しさにいつも救われている。
大寿くんにとって俺もそんな存在になれたら…、って思った。
「ありがとう、大寿くん」