6.消えたアイス「食べようと思ってたアイスが無い……」
風呂上がりの三ツ谷が負のオーラをまとって俺を見下ろす。
読みかけの雑誌から顔を上げた俺をじっと見つめて何か言いたげだ。
「俺じゃねーぞ」
「大寿くん以外に誰がいるんだよ」
「知らねぇよ。誰が来たんじゃないのか?よく思い出せ」
「最近は来てない。だから犯人は大寿くんだ!」
ビシッと名探偵のごとく指をさされても、知らないものは知らない。
「冷凍庫、隅から隅まで見たのか?」
「見た!無かった!」
「だいたい俺はアイスがあるなんて知らなかったぞ」
「それは俺が隠してたからだ!」
「それなら尚更知らねぇ」
存在すら知らないものをどうやって食うんだ、と吐き捨てれば、三ツ谷はようやく一人で考え出す。
「この前の特売の時に買ってきたんだよ。でもその日は食べずじまいで。確かに冷凍庫に入れたはずなんだけど…」
三ツ谷は腕を組み、ぶつぶつと呟きながら部屋の中をウロウロと歩き回る。
正直チラチラと目の端に写って鬱陶しい。
そういえば…、
「お前、一昨日、酔っ払ってたな」
「そ、そうだっけ?」
「仕事の帰りに飲んできただろ。帰ってきてからも何本か空けてたな」
「え、うそ。覚えてないけど?」
こいつは飲みだすと次々と酒を空けていく。そして、許容範囲を超えると記憶を失くす。
仲間内で飲むと周りが先にくたばるから下手に酔えないと言っていた。だから家では遠慮なく酔うのだと。
「そん時に食ったんじゃねぇか?」
「ん〜、確かに。それはあるかも…」
酔った愚行の末、自分が楽しみにしていたものがなくなってへこむ。バカらしいが可愛げもある。
「おい」
「ん?」
「コンビニ行くぞ」
立ち上がり、財布を手に持つ。きょとんとしている三ツ谷を置いて、俺は玄関へ向かう。
「いつまでもアイス一つにうじうじされんのは鬱陶しい」
「え、なになに?奢ってくれんの?」
「俺のはお前の奢りな」
「え〜!大寿くんダッツしか食わねぇじゃん!」
ぶつぶつと文句を言いながらも、スウェット姿の三ツ谷が俺を追いかけて来る。
エレベーターの扉の前で待っていると、温かい手が俺の手を取り、互いの指を絡ませた。
「へへっ、夜だし、いいよね?」
「あぁ」
「あ、俺もダッツ食べたい!苺のやつ!」
「好きにしろ」