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    hariyama_jigoku

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    リドフロ。再掲。「押し花を作るのと同じこと」

    ##ツイステ

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     ぱっと目が覚める。いつの間にか眠っていたらしい。授業の終わった教室は閑散としていて、自分と何人かしか残っていなかった。
     時計を見ると、もう放課後である。途中まで起きていた記憶はあるが、特に先生は起こしてはくれなかったようだ。そもそも眠る自分をわざわざ叱るなんて、クルーウェルかトレインくらいのものだが。体力育成は気分が乗らなかったら、そもそもサボってしまうのが常だ。
     モストロラウンジの開店には少し時間がある。なんとなくだるい気分が抜けないから、購買にでも顔を出そうかと立ち上がった。週替わりの特別商品を見に行くのは、ここ一か月ほど続けているがまだ飽きていない。
    「なーんか、うるさ」
     教室を出ると、何やら人混みができている。喜ぶ人、床に崩れ落ちる人。人人人。うげっ、と顔を顰めた。イワシの群れみたいで、あんまり好きじゃない。イワシの群れみたいなのに、不揃いで少し気持ち悪い感じがする。
     遠目ではあんまりよく分からないが、何か貼り紙がされているようだった。数歩近付いて、ようやく書いてあることが見えてきた。成績優秀者一覧、とでかでか書かれている。
    「あっ、今日じゃん」
     ぽんと手を打った。そういえば昨日、忙しくなるから寄り道せずにラウンジまで来いとアズールに言われていたのだった。たった今まですっかり忘れていたが。
     宣伝の効果は上々のようだ。いちいち誰がアズールの客だったのかなんて把握してないし覚えるのもだるいけれど、貼られている点数は皆高得点ばかりである。難しい問題なんてまるでなかったけど、平均点はこの分だと結構高いんだろう。アズールとの契約の条件は五十位以内に入ることだ。あぶれた間抜けも多いことは考えなくても分かる。
     大漁大漁と鼻歌でも歌いたいくらいだ。視線をその順位の一番上へと滑らせると、見慣れた名前が目に入る。数多の一番上に燦然と、「リドル・ローズハート」の名前が輝いていた。点数は勿論満点。いつもはこんなものに興味はないが、いやでも耳に入るし金魚ちゃんがいつも一位なのはなんとなく知っていた。他にも、あれと同じ場所に名前を連ねている者はいるかと見てみたものの、安心する。
     ごそごそとポケットを探ると、たまに見つからないスマホが今日はちゃんと入っていた。騒いでいる人々をよそに、貼り紙をかしゃりと写真に撮る。
    「ん、もういいや」
     遠くから撮ったから一応と思って確認したが、文字が読めないほどの反射はしてなかった。アズールの小言を聞くのも今日はちょっと勘弁したい。その場を離れようとすると、げっ、という声が聞こえた。
     声の方向へ視線を向けると、いかにもしまったという顔がこちらを見上げている。
    「金魚ちゃんじゃーん!」
    「タイミングが悪い…」
     ぼそぼそと目線を逸らす金魚ちゃんとの距離を、一息に詰めた。少し仰け反った隙に、進行方向だろう道を塞ぐ。
    「金魚ちゃんも成績見に来たの?」
    「そうだよ。あと僕を金魚呼ばわりするのはやめてもらおうか」
     お決まりの定型句だ。俺は金魚ちゃんと呼ぶのをやめないし、金魚ちゃんだってやめないのは分かっているだろうに。
    「いつもと一緒でしょ。ほらあそこ、金魚ちゃんの名前」
     リドルの要求は無視して、貼り紙の方を指さす。その眉間に皺が寄るが、渋々と金魚ちゃんの視線が貼り紙の方に向いた。
    「僕の順位なんて、僕が一番分かっているよ。僕が見に来たのは、ハーツラビュル生が成績を落としてないか。なんだが」
     下から辿っていっているのか、金魚ちゃんが大げさに肩を竦める。
    「またアズールか。これじゃ試験が本来の役割を果たさなくなる」
    「別にいいでしょー。アズールは何もルールに違反したことはしてねえし」
     その言葉にぴくりと金魚ちゃんの肩が揺れた。楽しくなって口角が自然に上がると、じとりと睨まれる。そんな顔をしても怖くないのに。
    「意趣返しのつもりかい? ルールに違反していなくても、やってはいけないことくらいあるだろう」
    「それはあくまで人間のルールでしょ」
     ぶーと抗議を口にすると、金魚ちゃんは呆れるばかりだ。
    「きっと海にも、君にルールを説いた人がいるはずだよ。もっとも、フロイド。君がそれを聞いていたかどうかは別だが」
     神妙な顔でそんなことを言うものだから、けらけらと笑いが止まらない。俺がそうしてる間に金魚ちゃんはやっと自分の順位を確認したようで、金魚みたいに大きな目を更に見開いた。
    「なっ、君も満点を取ったのか!」
     唖然とした様子に胸がすっとする。
    「そうだよー。偉くね?」
     そう言うと、じとりと疑ったような視線を向けられた。
    「まさか君もアズールと契約したんじゃないだろうね」
     思わず、目を見開く。そう見えるのかとちょっとむかっときたので、金魚ちゃんの頭を掌でぎゅっと押した。おいやめるんだ、とすぐに振り払われて、俺は大げさにがくりと肩を落としてみせる。
    「はぁー、俺がそんなことする訳ないじゃん。頑張ったのに疑われて超ショック」
     俺の言葉にどう思ったか知らないが、金魚ちゃんが少し困ったように眉尻を下げた。
    「ってか、俺は見てねえけどアズールに対策ノート貰っておいて満点取れないほうがおかしくね? 魔法史の引っ掛けとかみーんな突っかかってたって言ってたけど、あれこそ見え見えだし」
     金魚ちゃんに向けて、というよりは周りの崩れ落ちてる連中に大きめの声で言ってあげる。ばしばし視線が飛んでくるけど、気にしない気にしない。だって、教科書読んでれば大体分かるはずだ。
    「君の言ってる引っ掛け、というのは輝石の国の政治体制についての記述問題かい? 確かにあの年は改革によってかなり難解になっているきらいはあるね」
    「そーそー。レポートが前にあったけどさ、あれやってて一部だけ頭に入れてるやつはやりにくかったんじゃない?」
     今回の問題は、絶妙にそのレポートの範囲からずれている。レポートでは実権を誰が握っていたとかそういうので、試験では表向きはどういう風に扱われていたかという話。その構造を理解してないと解けないようになってたんだったかと思い出しながら、鼻の頭を掻いた。
    「ちなみに、君はそのレポートはちゃんと提出されているのかな?」
    「えっ、やってないけど」
     何を当たり前のことを言うのだ。当然と返すと、とうとう金魚ちゃんが大きなため息をつく。
    「君は本当に…。その気になればいい点が取れるのだから、いつも本気を出そうとは思わないのかい?」
    「えー。だって俺もう満足しちゃったし、しばらくはいいかな」
     俺の言葉に金魚ちゃんが少し首を傾けた。にーっと笑って返すと、警戒の表情が強まる。本当に飽きない。
    「おや、二人で立ち話なんて珍しいですね」
     俺を呼びに来たのか、ジェイドに声をかけられた。
    「そー、俺と金魚ちゃん仲良しなの」
    「フロイドに絡まれていただけだよ」
     金魚ちゃんがつれないことを言うから、ついむくれるとジェイドが困ったように笑う。
    「フロイド、今日は早めにモストロラウンジの準備に入りましょう。人が殺到しますから」
    「そうだったそうだった。忙しいのはやっぱ今日だけ?」
    「えぇ、明日からはましになるかと」
     めんどーだな、と首をこきりと鳴らした。
    「君たち」
     そう呼びかけた金魚ちゃんの眼差しには、随分と剣呑な色が乗っている。また怖い顔をして、寮生にびびられても知らないぞと言っても多分変わらないだろう。
    「明確なルール違反がない限り、僕は口出しはしない。けれどもし領分を犯した場合は、お分かりだね?」
     暗に脅しをかけられている。だが、線引きをする分かりやすさは好ましい。
    「もちろんですよ。アズールはそんな愚を犯すはずはありません」
    「ねー。そういうのめっちゃ細かいタイプだから」
     肯定するジェイドの言葉を継ぐと、くつくつと片割れが笑った。
    「はあ、ならしょうがないが今回は手を引くよ。全く君たちと話していると首が痛くなる」
     本日何度目かのため息をついた金魚ちゃんを覗き込むように、少し屈む。腕を軽く広げると、訝しげな視線がこちらに向いた。
    「大丈夫? 今度からお話しするときは抱っこしてあげよっか?」
     そう言うとかっと金魚ちゃんの顔が、怒りからか赤く染まる。
    「余計なお世話だ!」
    「わーい金魚ちゃんが怒った!」
     そろそろ引き時だろうか、と頬を緩ませた。金魚ちゃんにしては珍しく、今日は長く遊んでくれた方だ。俺がそう思ったのを察したのか、ジェイドがこちらの名を呼ぶ。
    「そろそろ行きますよ。リドルさんもお困りみたいですし」
    「んー、あっそうだ。これ見て見て」
     きっとジェイドのことだ、幾分か時間に余裕をもっての発言に違いない。さっきの写真を開いて、金魚ちゃんに差し出した。
    「これは」
     まじまじと俺からスマホを受け取った金魚ちゃんが、まじまじと画面に目を落とす。
    「一位、俺と金魚ちゃんしかいなかったじゃん。だから撮っといたんだー」
     いいでしょ、と付け加えると、きょとりと金魚ちゃんは目を瞬かせた。どんなリアクションをするのかと、じっと丸い頭を見つめる。と、ふふっと笑い声がした。
    「なんだいそれ、満点の記念というやつかい? 案外可愛らしいことをするんだね」
     その言い様に虚を突かれる。思ったより朗らかに解釈されて、少し面食らった。金魚ちゃんは何かツボに入ったようで、ふくふくと小さく笑っている。基本的に金魚ちゃんは、俺の前だと―――俺といる以外のことなんて俺が知る訳ないのだが―――怒っているか困っているかのどっちかだ。
     んーと体を傾ける。じっと金魚ちゃんの目を見ると、笑ったせいか少し赤くなった頬でぱちりと目が合った。
    「なんか、金魚ちゃん変わったね」
    「えっ。…そうだろうか」
     思うところがあったのか、金魚ちゃんは思案するように視線をさ迷わせる。リドルが入学式の少し後に、オーバーブロットしたことは知っていた。多分それからだ、と何かが俺に思わせる。ただ、底知れないのが面白いなという、いつも通りの感情を噛み砕いた。
    「ってか違うよ、一位とか俺興味ねーし。お揃いじゃんお揃い!」
     ばしんと無遠慮に金魚ちゃんの肩を叩くと、ちょっと痛そうな声を上げる。
    「いったい、ってお揃いって君と僕が?」
    「そうそう、後で写真送っておくね!」
     自分のスマホを金魚ちゃんから引っ手繰って、今度こそモストロラウンジへと足を向けた。今日の夜にでも、かなり前に勝手に登録した連絡先に送っておけばいいだろう。連絡先を消されてたら、また今度勝手に登録する。
    「僕に送る必要はないだろ!? ちょっと、フロイド!」
     叫ぶ金魚ちゃんの声を無視して、くすくすと笑うジェイドと歩を並べた。
    「随分楽しそうですね」
     ポケットに押し込むようにスマホをしまうと、ジェイドが目を細めてそんなことを言う。
    「うん、ちょっと気分いいかも」
    「それは何より」
     言わなくても分かるくせに、なんて野暮なことは言わない。伸びをしつつ、今日やらねばいけないことを考える。新人教育に、初日だから流石に俺とジェイドも常よりは働かなくてはいけない。
    「そういえば待っててくれてありがとー、ジェイド」
    「あぁ、あれくらいお安い御用ですよ」
     ジェイドの返した言葉に思わず少し笑う。理由はよく分からなかった。
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    hariyama_jigoku

    DONE鋭百小説(鋭百々)。付き合ってていちゃついてる二人。互いの無意識の話。
    侵食 ちゅ、ちゅ、とリップ音が鼓膜を舐めるように繰り返される。くらくらと、その度に指先から全身に火が点っていくようだった。無意識に腰が引けるが、腰に回された腕が程よくそれを妨げている。
     眉見の肩に手を置くと、それを合図と思ったのか殊更ゆっくり唇が合わせられた後に緩慢に離された。吐息が濡れた皮膚に当たって、妙に気恥ずかしい。口と口をくっつけていただけなのに、なんて女の子みたいなことは言わないが、一体それだけのことにどれだけ没頭していただろう。腕がするりと離れ、柔らかなベッドに手を置いて体重をかける。
     勉強会という名目だった。元より学生の多い事務所では、勉強会がよく開かれている。C.FIRSTは専ら教え役だったが、S.E.Mなど加われば話は別だ。いつしか習慣と化したそれは、ユニットの中でも緩慢に続いている。事務所に行くだけの時間がない時。例えば定期テスト中―――下手に行けばつい勉強が手に付かなくなってしまう―――とかは、互いに課題を持ち寄って百々人は秀の、眉見は百々人の問題を見る。最初は二人が眉見に遠慮したものの、受験の準備になるからと押し切られる形になった。今日もそうなる予定だったが、秀が生徒会の仕事で欠席することを知ったのがつい一時間ほど前である。今日はやめておくかと聞こうとした百々人に、眉見が自分の家に来ないかと持ち掛けて今に至る。いつもは何かと都合の良い百々人の家だったのだが、一人で来るのは―――それこそ二人が付き合い始めてから来るのは初めてだった。
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