風が吹いている。形容できない高揚感。熱くて、でもその正体がわからない。少し怖い。
「百々人先輩」
終わりじゃないですよ。これが始まりです、俺たちが世界を変える。その一歩に過ぎない。
これが俺たちの全力。でもこれはあくまで、今の、です。ファンの皆にも、プロデューサーにもーーー、世界にも、見せてやらなくちゃ。
でも、できるかな。これ以上の、ステージが。
できるさ。だが気負えと言ってるんじゃない。全力を尽くす、その先に自ずとあるはずだ。
まずは明日。っていう話。
舞台袖は暗い。漏れくる会場の灯りが、照明が、より一層それを意識させる。
耳元で撤収を告げるスタッフの指示が聞こえた。非常灯の灯りを頼りに、控え室の方へと進む。ステージの、観客の、夢のような時間は遠ざかっていく。それでも光ある方へ。
別れじゃない。
疲労は確かにあった。激しいダンス、張り上げた声。それでも足取りは軽い。
風が吹いている。今も確かに、明日へ、次のステージへと、息つかせる間も無く。強い風が背中を押していた。音もない、触れられもしない。そんな風が、確かに吹いていた。