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    hariyama_jigoku

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    DONE鋭百小説(鋭百々)。付き合ってていちゃついてる二人。互いの無意識の話。
    侵食 ちゅ、ちゅ、とリップ音が鼓膜を舐めるように繰り返される。くらくらと、その度に指先から全身に火が点っていくようだった。無意識に腰が引けるが、腰に回された腕が程よくそれを妨げている。
     眉見の肩に手を置くと、それを合図と思ったのか殊更ゆっくり唇が合わせられた後に緩慢に離された。吐息が濡れた皮膚に当たって、妙に気恥ずかしい。口と口をくっつけていただけなのに、なんて女の子みたいなことは言わないが、一体それだけのことにどれだけ没頭していただろう。腕がするりと離れ、柔らかなベッドに手を置いて体重をかける。
     勉強会という名目だった。元より学生の多い事務所では、勉強会がよく開かれている。C.FIRSTは専ら教え役だったが、S.E.Mなど加われば話は別だ。いつしか習慣と化したそれは、ユニットの中でも緩慢に続いている。事務所に行くだけの時間がない時。例えば定期テスト中―――下手に行けばつい勉強が手に付かなくなってしまう―――とかは、互いに課題を持ち寄って百々人は秀の、眉見は百々人の問題を見る。最初は二人が眉見に遠慮したものの、受験の準備になるからと押し切られる形になった。今日もそうなる予定だったが、秀が生徒会の仕事で欠席することを知ったのがつい一時間ほど前である。今日はやめておくかと聞こうとした百々人に、眉見が自分の家に来ないかと持ち掛けて今に至る。いつもは何かと都合の良い百々人の家だったのだが、一人で来るのは―――それこそ二人が付き合い始めてから来るのは初めてだった。
    1834

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    MEMO伏五ネタ(not小説)。事変後の話を思いついたのでメモがてら。死ネタです。いつか長めの話にして、その後とかのエピソード足して書きたい。
    渋谷事変後、無事に五条は封印から解き放たれたものの、腐敗した上層部からの死刑は免れなかった。何よりも、本人が逃げなかったというのが大きいだろう。
    大切な者を失って、とうじくんみたいになってしまう恵。表舞台から消えて、流しで適当に呪霊を払う。世界は確かに変化していて、手こずるような呪霊もいない。五条が死んでから五年経った。恵二十歳。
    横に五条の亡霊がいる。きっと幻覚だ、とあんまり相手にしない。ね~、とうじみたいになんないでよ。そのうち口に傷でも作ってみろ本当に許さないから。ねえ、恵。本当にみんなのところ戻る気ないの。大切なもの、いっぱいあるじゃない。今からだって遅くないよ、五年って短いし。あんたがいない。僕のこと、そんなに大事?それを、あんたが言うのか!クソガキだった俺の人生の半分以上居座って、初恋も童貞も全部奪っておいて、愛してるの一言だって言う前に死んだくせに。初恋だったの?きょとん、と五条が目を瞬かせた。んだよ悪いか。いや、悪くない、悪くないよ。僕もね、言ったことなかったけど処女だったよ。初恋は僕もよく分かんないけど。
    2443

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    PROGRESS鍾タル小説。「一月のゾールシュカ」前編。公i子が帰国する話。続きはできたら…。.

    「先生のことが好きなんだよね」

     タルタリヤと食事を共にした帰路。今日は随分と話が弾み、互いに酒も進んでいた。日が落ちてから時間も経ち、人気のない道をチ虎岩から緋雲の丘へと歩く。
     その最中、丁度橋へと差し掛かった辺りで投げられた言葉が先のそれだった。
    「それは、愛の類いの話か」
    「まあ、愛よりも恋かな」
     飄々と答えるタルタリヤを、まじまじと見つめる。
    「理解はしたが」
     足を止めて言葉を切った。視線の先に映るタルタリヤは、くるりと振り返って笑う。平静と変わらない表情に見えた。
     鍾離に、もしくはモラクスの化身であった何者かに対して。愛または恋として伝えられた愛の言葉を、それを吐き出した相手の顔も記憶している。どんな表情でそれを語っていたのかも、だ。期待、焦り、絶望、諦念、憎悪、自信。大抵はそのようなものだったが、タルタリヤのそれは記憶の中にあるどれにも該当しないように見える。平静さは自信に思えないこともないが、それにしては鍾離の動向に注視しているようだった。鍾離が是と言うことを信じて疑わない、という風にはとても思えない。
     不可解なことだ、だがそれは鍾離には関係はなかった。 3983

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    DONE鍾タル小説。甘い。「煩い口なら塞いでしまえ」.

    「せーんせい」
     殊更に甘ったるい声。ぐいっと身を寄せて、鍾離の首に手を回した。すると、タルタリヤの腰に手が添えられて、僅かに鍾離がこちらに合わせて屈む。 タルタリヤはどこか満足げに笑みを浮かべて、目を閉じた。そのまま唇を押し付ける。
     最初の方は、こう上手くはいかなかった。どうにかタルタリヤからでは届かないからと言い含め、せめて屈んで欲しいと教えたのである。代わりにこちらはキスがしたいと示して欲しいとのことだったので、こうやって誘惑するような仕草を取ったりキスしたいと直接伝えることもあった。
     児戯のようにちゅ、ちゅ、とリップ音が跳ねる。曰くこういうことにはあまり興味をそそられなかったのだが、鍾離とのそれは脳を緩やかに浸す毒のようだとすら思った。熱く濡れた舌が下唇に触れ、乞われるままに薄く口を開く。あわいに挿し入れられた舌が、探るように口腔を撫でた。縺れるように舌先が擦り合わされると、びりびりと脳が痺れるように気持ちがいい。
     腰を抱かれて、寝台へと雪崩れ込んだ。口を離される合間合間に息を整えるが、追われるようなキスに体の力を解かれていく。タルタリヤから仕掛けたはずなのに、捕食 1659

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    DONEタキモル♀小説。一応UiRiA後の話だけど自分用なので明るくないです。「インシデント・カイ」.

    「君は……」
    「え?」
     トレーニング前の準備時間、私は今日予定していたメニューのプリントから顔を上げる。タキオンは既に着替えを終えていて、いつの間にか私の方を目を細めて見つめていた。
    「ごめん、集中してて。もう準備大丈夫?」
     ちかちかとする目頭を押して、タキオンの方に向き直る。トレーニング前にタキオンが差し出してきたドリンクを飲んだ瞬間、私の手が七色に光り出したのだ。
     アグネスタキオンは、トゥインクルシリーズを走り切った。今は休息と準備期間を兼ねての、トレーニング期間である。これで少しは彼女の実験への欲望も収まるかと思っていたのだが、そうは問屋が卸さない。むしろ大きなレースを控えていない今こそチャンスだと、あの手この手で私や周囲のウマ娘を実験台にしようとしているのだ。
     先程のドリンクもその片鱗である。私はいい加減慣れてきたからいいものの、タキオンの悪評を知らないウマ娘を実験の毒牙にかけようとするのはどうにか食い止めたいものだ。
    「あぁ、もう私は構わないよ。練習場に行くとしようか」
     そう言って、タキオンは早々にトレーニング室を出て行ってしまう。先程何か言いかけていたような 6121

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    DONE鍾タル小説。ボツなんだけどキスの日のSSということにしました。「仄かな夜」.

    「先生、好きだよ」
     そう初めて聞いたのは、食事の席でのことだった。

     新月軒で食事を取っている最中のこと、その日は公子が酒を呷るペースが妙に早かったことを覚えている。折を見て水を飲ませていたものの、肴を置き去りに杯だけを重ねるものだからすっかりと公子は潰れてしまっていた。個室で他人の目がない場所だったからだったのか、本人が突っ伏してしまっている以上真偽は定かではない。
    「公子殿」
     軽く肩を揺さぶっても、意味を成さない声が返ってくる。腕を枕に頭を横たえていて、時折目を瞬かせるもののその動きは酷く緩慢だ。顔も耳も朱に染まっていて、どうやって店から連れ出すべきかと思案する。
     ふと思い出して、己の財布を探った。が、見当たらない。当ては寝に伏している。流石にそんな相手の懐を探ることは憚られて、ツケを頼もうと椅子を引いた。すると立ち上がるかくらいのところで、公子の頭がゆらりと持ち上がる。起きてくれるならそれに越したことはない。会計をしたい旨を口に出そうとすると、赤い相貌がふわりと崩れる。眉を下げて、水を孕む瞳は深い青を蕩かした色をしていた。そして公子は口角を上げて、とっておきの秘密を 1844

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    DONE鍾タル小説。一発書き。「きらきら笑ったあなた」.

     踊るような一閃。流形の軌跡は大型のヒルチャールの首を、確かに斬り落とした。最後の敵を屠って、タルタリヤは水の刃を霧散させる。一体一体は歯応えのない相手であったが、十も二十も湧いて出てくればそれなりの運動にはなった。
    「じゃあちょっと二人はそれ踏んでてもらっていい?」
     歩み寄ってきた旅人が、タルタリヤと鍾離に問いかける。指差した先には何度か見たことがある、床から少しせり上がった円形の意匠があった。
    「先生の柱にお願いすればいいじゃん。俺もついて行こうか?」
     仕掛けをわざわざ踏んでいなくとも、鍾離がひょいひょいとそこらに立てる柱でも代替できる。それに今は秘境の中だ。わざわざ二手に分かれなくとも、と進言したのだが旅人は首を横に振った。
    「ちょっと素材を探しに行くだけだから大丈夫。それに、あんまり時間がかかって戻る扉が閉まっちゃう方が困るから」
     二人はちょっと休憩してて、と気を遣われてしまえばこちらは閉口するしかない。鍾離は旅人の頼みを真面目に遂行するつもりなのか、仕掛けを丁寧に足の下に敷いている。ひらひらと手を振ってタルタリヤがそれを見送ると、どこからともなく純水精霊が手に纏わ 3620

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    DONE土斎小説。習作。「心臓の在処を問う」.

     血の臭いが、火薬の臭いが、そこら中に立ち込めていた。視線の先にはよく知った顔が、へらりと表情を崩す。
     これは夢だ。唇を噛み切るほどに強く歯を立てるが、痛みばかりで白い天井は影も形も現れはしない。
    「ねえ、土方さん」
     投げ掛けられた言葉は、自分が受け取るべきものではないはずだ。屍は屍らしく、生者の道行を見ていればいい。罷り間違っても、こんなものを望んではいけない。男はそれを知っている。生前のやり直しなど、死への暇の夢になど見るべきものではないのだ。
    「ずっと俺ぁ、あんたに殺して欲しかった」
     覚えのある景色、顔、声。そう、その日も酷く風のすさぶ日であった。だが、目の前の影が宣う言葉だけが、記憶と違っている。
     ただの亡霊だ。目線は外さないまま、刀に手を掛ける。殺気を込めて陽炎を見据えるが、臆する様子も見せない。
    「その気になってくれました?」
    「そんなんじゃねえ」
     軽口と変わらぬ声色で、陽炎は問うてきた。それに対して、ぴしゃりと切り捨てる。一瞬だけその軽薄さを装った表情が揺らぎ、怯えが混ざった。だが陽炎は窮屈そうに眉を顰めて、一歩踏み出した。
    「冷たいなあ」
     また一歩。じ 2288

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    DONEユスバザ小説。習作、糖度高め。「噛み潰したそれは甘い」.

     ほの温かい指先が、包帯越しに頬に触れた。ユーステスの細い褐色は、勿体ぶったように包帯に爪を引っ掛けて綻ばせようとする。到底、バザラガ相手にするようなことではない、と胡乱な目でユーステスを見つめた。
     当の本人は意に介した様子もなく、笑みこそ浮かべないもののベッドの縁に腰掛たまま随分と緩んだ表情を晒している。その頬は酔いによって些か朱を帯びており、酒気も強く香っていた。取っつきにくいだの気難しそうだのと称される冷然とした雰囲気は、今や影も形もない。あくまで短くない時を過ごしてきた同僚としての贔屓目かもしれないが、ゼタやベアトリクスが見ても同様の感想を抱くだろう。
    「―――っ」
     思索に耽っていると、不意に急所である首を撫ぜられた。反射で身じろぐと、その分だけユーステスが距離を詰める。透き通った氷のような瞳が、バザラガを注視している。
     筋張った首を辿って、喉仏をくすぐるように爪が触れた。不快感は感じない、その程度の力加減。顎を掻くように指が滑る。注がれる視線の甘さ、まるでユーステスの好む犬を可愛がるような仕草に、次第にバザラガの方が耐えられなくなってきた。
    「俺は、犬じゃないが」 1597

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    DONEウァプドラ小説。習作。「メランコリーを食んだ」.

     長い廊下に、寝言とも酔っ払いの戯言ともつかない声が落ちる。どちらにしろ、その男に肩を貸して半ば引きずるように歩くウァプラには何を言っているのかの判別はつかなかった。どうにか目的の部屋に辿り着き、乱暴にドアを開けてアンドラスを押し込む。
     勝手知ったる、という程ではないが見慣れたアンドラスの私室を睥睨して、寝台にでも放り投げておくのが正解かと重い体を抱え直す。
    「ウァプ、ラ……?」
     久しぶりに耳に届いた意味の通った単語に、つい足を止めた。衝撃で起きたなら丁度いいと、下がった頭を睨みつける。
    「起きたんなら、さっさと自分で立ちやがれ」
    「はは、酷いなあ」
     肩にかけていた腕を下ろすと、足元は多少危なっかしいもののどうにかアンドラスは自力で立ち上がった。これでお役御免だと、ウァプラは踵を返す。
     そもそも、酔っ払いに絡まれたのか珍しく酒気を漂わせてテーブルに寝ていたアンドラスを、通りがかったからという理由で押し付けられたのが事の発端だ。ソロモン曰く、最近よく行動を共にしているのを見たというのが理由らしいが、一方的にアンドラスが関わってくるというのが正しい。それを仲良しだなんだの括り 2246

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    DONEグラデカ小説。一発書き。グに庇われて不貞腐れるデ。.

     ゆらりと、琥珀色の光が床を這った。睡眠の妨げになるだろうと、強い灯りは避けられて蝋燭のか細い火ばかりが部屋を照らしている。その微かな光が、琥珀の漂うグラスを反射して水面がさらさらと揺蕩った。
     グラシャラボラスのしまい込んでいた酒を勝手に引っ張り出して、デカラビアはグラスを揺らす。ずっと、斜めに機嫌を傾けているが八つ当たりのような真似をしても溜飲は下がらない。
     他のメギドならともかく、グラシャラボラスがデカラビアを庇う価値などなかったと知らしめてやるためだ。だが利用するためならいざ知らず、なんの目的もなく他人の思考回路など知るべきではなかった。こんこんと眠る男が目を覚ましたとて、多少のことなら気にしないとされるのが脳裏に浮かぶ。
    忌々しい。
     蒸留酒の味は、余生の友と呼ぶには些か酒精が強過ぎる。穏やかに揺らぐ視界は捨て置いて、椅子から寝台へと少し身を乗り出した。いつもならうるさいぐらいに感情を乗せている顔は、ただ凪のあるばかりである。
     地に足のついていないような、己の指先に不安を感じて机に中身の入ったグラスを置いた。のし掛かるような眠気が、頭に纏わりついている。覗き込んだグ 643

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    PROGRESSカトシス小説。再掲。「貪愛1」.

     泥のように、全身に疲労が重く圧し掛かっている。騎空挺のタラップを上がる足が、鉛にすら感じられて仕方がない。誰かにすれ違う度に労いの言葉をかけられ、なんとか愛想を絞り出した。表情筋がみしみしと音を立てている、そんな幻聴まで聞こえてくる。だが、あと少しだ。ここ最近出ずっぱりだった任務がようやく終わり、しばらくはゆっくりと休めるだろう。
     体を引きずるようにして訪れたのは、自室ではない。目的の部屋に辿り着き、ドアを三度軽く叩いた。
    「はーい」
     入室の許可を得ると、ドアノブを回して部屋に入る。
    「失礼します、団長さん。ちょっと、今大丈夫ですか?」
     カトルが声をかけると、団長が机に落としていた視線を上げた。珍しく、苦手だと言っていた書類仕事に向き合っていたようだ。かつん、とペンを机に置く、小気味よい音が鳴る。
    「任務帰り? お疲れ様、報告はまた後日って言ってなかったっけ?」
     確かにそういう手筈にはなっていた、が少々事情が変わったのだ。不思議そうに、団長が少し首を傾げる。
    「ええ。ですがちょっと数日だけ、休暇を貰いたくって。その打診ついでに報告も済ませてしまおうかと」
     そう思って出 5886

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    DONEあさふゆ小説。わりと雰囲気。「冷めた目で見ないで」.

     アパートのセキュリティを抜けて、エレベーターのボタンを押す。専門学校を卒業して始めた一人暮らしも、今はすっかり馴染んでしまった。くるりと、鍵のホルダーを回す。日頃の変装が功を奏しているのか、マスコミに追いかけられることもない。
     ドアを開け、鍵を閉めて一歩。ふと足を止めた。部屋に電気が点いている。無意識に生唾を呑み込んで、鞄の中にあるスマホへとゆっくり手を伸ばした。
    「冬優子ちゃーん?」
     聞き馴染みのある声に、一気に肩の力が抜ける。はあ、とふゆのイメージにあるまじき溜め息を吐いて、靴を乱暴に脱いだ。
    「あんた、どうやって入ったのよ!」
     リビングの扉を自棄になって開けると、お気に入りのソファであさひが寛いでいる。こちらの気持ちも知らずに、当の本人はテレビを見ていたようだ。ひらひらと呑気に手を振るさまが恨めしい。
    「おかえりっす! お腹ぺこぺこっすよー」
     あさひが眉尻を下げて、腹を撫でる。その厚かましさに怒る気も失せた。
    「ふゆはあんたの母親じゃないのよ!」
    「そんなの当たり前じゃないっすか?」
     悪態をついてもあさひは首を傾げるばかり。まだ六時頃だったか、遅い時間じゃないと 1561

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    DONEグラデカ小説。「軽口の応酬にもならない」付き合ってない。.

     アジトの大部屋の一つは、閑散としていた。冬の寒さからか、部屋の隅々までは熱は行き渡らないためかそれぞれ自室に引っ込んでいるのかもしれないし、そろそろ夕食の時間も近くなってきたからその準備に追われているのかもしれない。
     グラシャラボラスはうつらうつらとそんなことを考えながら、磨き上げた鉄塊に目を細めた。引き受けていた仕事は降り続く大雪で馬車は通れずに延期となっている。しばらくアジトに身を寄せ、折角籠るのだからと手に馴染んだ武器の手入れと洒落込んでいるのだ。
     成果は上々で、鉄球の棘の先まで輝いているように見える。キャラバンの護衛中に幻獣と相対した時に、都度都度派手な汚れは落としていたものの細かいところまでは手が回っていなかった。一息ついて、テーブルに得物を置く。人がいないからとソファとテーブルの一画を占拠していたが、もう少し時間が経てばここも騒がしくなるだろう。今の内に片付けておこうと、慣れない作業に凝り固まった体を伸ばす。
     と、どさりと目の前で音がした。つられて目を見開くと、いつの間に部屋に入ったのかデカラビアがソファの背凭れに身を預けている。いつもの帽子を乱暴に取り払って 1742

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    DONEグラデカ小説。「毒でもいいから頂戴」.

     らしくもなく、若干の緊張に似た感情を伴ってデカラビアは扉の前で息を吐く。忌々しい労役と称したサンタとしての奉仕活動という辱めもとうに終わり、年も明けた。だが、冬の気配は一向に去る様子がない。
     廊下を漂う冷気に馴染んだ手で、少々乱暴に扉を叩く。まだ昼を過ぎて少し経った頃合いだったが、その日は一際寒い日だった。本日の労役として課された幻獣の討伐は、朝から駆り出されたにも関わらず早々に片がついた。帰還の際に、この部屋の主がいると聞いて訪ねてきたのだが姿をちゃんと見たわけではない。無駄足にならなければいいが、と手を擦り合わせた。
    すぐに扉が開かれて、中から少し驚いた様子の顔が覗く。
    「誰かと思ったらデカラビアか、珍しいなお前が用なんて」
     部屋の主であるグラシャラボラスがデカラビアの姿を見とめて、僅かに目を細めた。
    「まあ、中入るか?」
     元よりデカラビアも立ち話で済ませるつもりはなかった。あぁ、と浅く頷くと、中に通される。
    「ついさっき戻ってきたばっかりだからよ。廊下とあんま変わんねー寒さだけど、勘弁な」
     そう言って荷物から投げ寄越されたのは、薄手の毛布だ。余計なお世話だと跳ね 3269

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    DONEカトシス。再掲。「合縁奇縁」.

    「ねえ、大丈夫? 飲み過ぎじゃない?」
     うぅ、と常ならば出さないような唸り声が、カウンターに突っ伏す下から聞こえた。これまた珍しい。つい苦笑して、シエテは視線をシスの方に向けた。
    「どうしちゃったのカトルくん」
     完全に潰れている様子のカトルと比べて、まだ素面そうな―――そもそも仮面越しだから今の顔色は分からない―――シスに問いかける。
    「飲み比べをしていた」
     さらりとそう言ったシスがまた、酒精の強そうな酒を口に含んだ。からんと鳴る氷の音でも聞こえたか、カトルの耳が揺れてぐらりと危なげに上体を起こす。
    「まだ、のめます」
    「ちょ、ちょっとストップストップ!」
     胡乱な声で手元のグラスに手を伸ばそうとするカトルを、慌てて制止した。
    「それ以上はちょーっと危ないんじゃないかな?」
     不機嫌そうに歪められた目が、じとりとこちらを睨む。酔ってるからって殺気を飛ばさないでほしいと、温度の低い視線から逃れるようにテーブル席の方に座っているカトルの片割れにちらりと視線を送った。
    「そ、その。私も楽しくなってしまって」
     感情の滲まない表情の代わりに、耳がぱたぱたと揺れる。申し訳なさそうに視 2824

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    DONEリドフロ。再掲。「消灯まであと」.

     引きずり込まれた建前は、確か一週間の猶予を出された課題を教えて欲しいというだったか。一応恋人同士とはいえ、何の因果かこの双子の部屋で過ごすのもそれなりの回数になってしまった。
     今日はフロイドの片割れも不在のようで、これはそういうつもりだろうかと早々に当たりをつける。だがこちらは課題の協力を求めてきているのだ、テーブルに教科書を広げていると不満そうな声が背後からした。
     ちらりと横目で見やると、部屋の主がベッドに寝転がっていて口を尖らせてこちらを見ている。
    「金魚ちゃん何してんの?」
    「君が課題がしたいと言ったんだろう」
     そうため息をつくと、くるりとペンを回して課題に手をつけた。放逐していると拗ねて絡んでくるのが常なのだが、フロイドが黙り込むものだから部屋に沈黙が落ちる。仕方なく首を捻ると、枕に顔を突っ伏す姿が見えた。手をベッドから垂らしてぷらぷらと振っているから、眠っていないのは分かる。
    「こら、人を呼びつけておいて眠る気かい」
     軽く体を揺すると、少しフロイドが呻いた。
    「オレ、超眠いかも」
     融けたような声が続いて、ああこれは相当だなと思案する。情事の後、シャワーを浴び 1651

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    DONEカトシス。再掲。「伝熱」.

    「シスさん」
     呼ばれた名前に従って、ふいと視線をそちらに向ける。月明かりが合間合間に差す、騎空船内の薄暗い廊下にぽつりとカトルが立っていた。
    「任務帰りか」
     そう問いかけると、振動が伝って手持ちのカンテラが揺れる。団員の殆どが寝静まった夜に、シスが持ち回りの巡回を行うのが丁度今日だった。
    「ええ、少し遅くなってしまいましたが概ね予定通りです」
     こくりとカトルは首肯して、じっと影を被った瞳がこちらを見つめる。首を僅かに傾げると、カトルがふっと吐息みたいな甘さをこぼした。そしてゆっくりとシスの方に手が伸びる。驚いて若干体が跳ねるが、すぐに意図に気付きため息をついた。カトルの口角がにやと上がるのも、いいように扱われているようで落ち着かない。
     うなじを細い指が這い、後頭部を掴むように引き寄せられる。視線が急かすので、空いている手で口元を晒すように仮面を押し上げた。屈むように少し身を倒すと、かりと地肌を爪先で掻かれる。
    「誰かに見つかったらどうするつ、ん、むっ」
     半眼で口にすると、塞ぐように口づけられた。下唇に歯を立てられ、舌が潜り込む。水音が跳ねて背筋がぞくりと震えた。舌先を擦 1875